表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HAMA/運命の逆賊  作者: わらびもち
第一章 聖都魔法学園 序列戦
10/12

第09話 とっておき

 オレの魔力は熱く燃え上がっていた。……当然、セリアの魔力のような熱さとは違ったけれど……こう何か……言葉にはし難い熱さが込み上げていた。

 そんなことを考えていると、斬り倒した大樹が再生を始めた。さっきの一撃でルーシュを倒せていたのなら、こうはなっていないはずだ。


 「今の……なかなか良かったけど、“とっておき”かな?……でもそれより興味深いことがあるね。」


 森の奥の煙から、剣を構えたルーシュが現れた。オレの斬撃を受け止めたのか。流石は六星級といったところか。ルーシュの様子からするに余裕で受け止めた、というわけではなさそうだが、それでもやはりオレの攻撃は簡単には届かない。だが………。


 「この感覚は初めてなんだ。今まではこんなことなかったから。ルーシュは何回ある?」


 「幼いころは分からないけど……三回か四回かな。初めての進級、おめでとう。」


 ……これが三星級の壁を超えた四星級の境地か。力が、魔力が溢れ出すような感覚だ。これまでの数段の魔力量になっている。今まで超えられなかった壁を、やっと、この一戦で超えることができたんだ。


 「……せっかくだし、直接剣を交えてみようか。その方が楽しそうだ。」


 「そりゃ嬉しいな。その方がオレも楽しいよ。」


 オレは木をスパスパと斬ってルーシュと剣を交えた。剣が触れ合うと衝撃で闘技場が揺れ、オレは腕力を頼りにルーシュを吹き飛ばした。魔力はさっきまでよりずっと鋭くなっている。剣の威力もオレの方が上だ。けれどルーシュの剣を弾くことはできない。ルーシュは決して剣を手放さず、オレの力に押されたときは身体ごと飛ばされるようにしていた。そして再び機動力スピードを生かして接近し、剣を交えている間に横から植物が襲ってくる。ヒットアンドアウェイで消耗を抑えているルーシュに対して、オレは神経も体力も摩耗している。細く軽いはずのルーシュの剣が、実際よりもずっと重く、大きく見える。


 「ちょこまかと……リスみたいな動きしやがって……。」


 「褒め言葉と受け取っとくわ。」


 瞬きをすればその隙にルーシュは木の影に隠れている。そして死角からオレを斬ろうとする様は、剣士というより忍者や暗殺者のようだった。それでいて充分な破壊力のある剣を振るのだからたまったものではない。やはり機動力のある相手に地の利を取られるのは困るな。それでも……オレよりも圧倒的に速いルーシュになんとか喰らいつけているのは、それよりも速い相手を見てきたからだ。セリアと比べれば追いつけない相手じゃない。


 「さて……ッ!!」


 「わっ!?」


 「『斜断嵐ハスダチアラシ』!!」


 オレは少量の魔力を放出しながら力の限りに剣を振った。剣圧は森を斬り倒し、その残骸を巻き上げて嵐のような風を巻き起こした。巨大な木の枝に立っていたルーシュは足場を失いながらも、新たな森を生み出してなんとか持ち堪えていた。が、立て直すまでは時間がかかる。距離は離れているから攻撃手段は限られるが、今ここで勝負に出なければジリ貧で負けるのはオレだ。オレは大きく振りかぶってルーシュに目掛けて剣を放り投げた。


 「ッ!??」


 「さっきの質問、答えてなかったな……。」


 唯一の武器を手放したことに、ルーシュは強く警戒した。剣を失えば勝負は簡単についてしまう。オレがそんな馬鹿なことをしないだろうと考えていた彼女は、円盤のように回転して接近する剣に触れずに、その進む先を見つめた。だがオレの手を離れたあの剣は、もはや攻撃には使えない。ただルーシュの警戒の目を引きつけるための囮だ。オレは左手の人差し指をルーシュに向け、残る全ての魔力をかき集めた。指先は発光し始め、そのエネルギーを感じたルーシュはオレの方に振り向いた。


 「……何…ソレ……!?」


 「とっておきが一つあるって……言っただろ!!」


 いつだったか。数日前、セリアとの特訓を終えたときに教えてもらったんだ。剣の英雄から剣技以外を教えられるのは不思議な気分がした。


 ーー魔力の圧縮はだいぶできるようになったかな。……じゃあとっておきを一つ教えるわね。


 ーーとっておき?


 ーー魔力を圧縮していくとね、ある密度を超えたところから、強く発光し始めるの。そしてそれはそれだけ大きなエネルギーを持っているのと同時に、質量を持ち始める。そして周囲の魔素をも取り込み始めて新しいエネルギーに変わるの。


 ーーふぅん……。


 ーーでもそこまでの力になると均衡バランスが大事になってくるのよ。属性魔力と無属性の魔素じゃとてもじゃないけど均衡バランスを保てなくて暴発するってこと。よっぽどの魔力量か魔力制御だったらなんとかなるみたいだけど、私じゃ扱えないわね。


 ーーダメじゃん。


 ーーでもミラならなんとかなるかもって話よ。魔素を吸収してもその魔素を分解して飲み込んじゃうでしょ?だから君なら多少強引だけどそのエネルギーを使った技を扱えるってわけ。


 ーーへー!どんな技なんだ?


 ーーこれは初歩だけどね、指先で魔力を圧縮して、圧縮して、白く発光し始めたらそれを撃つっていう単純な技。単純だけど雷より速いし矢よりずっと強力よ。まるで光線レーザーみたいなその技の名前は………。


 オレは充分なエネルギーになった魔力、魔天をルーシュに向けて放った。その光は人の目には残像にしか映らず、セリアの言った通り光の線、光線レーザーにしか見えなかった。


 「『白天ハクテン』……!!」


 「くッ……!!」


 ルーシュは咄嗟に植物の壁を作り出して光線を防ごうとした。しかしそんなものに遮られるわけもなく、ありとあらゆるものを貫く光線はルーシュにまで至った。彼女の反応速度より何倍も速く、防御することは叶わない。白天はルーシュを貫いたかと思えば、そのまま止まることなく空にも穴を開けた。


 「ふぅ……。ははっ。参った!オレはもう戦えねぇや。」


 「はっ……はははっ!!凄いよ!凄いよ、ミラ!!まさかここまでの力があるなんて!!……セリアさんにいっぱいしごかれたんだね。」


 白天はルーシュの肩を貫いたようだが、それ以上のことはなかったみたいだ。実戦ならあるいは大きな一撃だったかもしれないが……どっちにしたってオレは魔力も底をついて戦うことはできない。腕力だけではどうにもならないからな。……白天はあまりにエネルギーが大きいから制御が簡単ではなかった。脳天を撃ち抜ければ勝てたんだけどな……まぁそれも含めてオレの負けだ。


 「目を離せぬ激しい戦いでした!!二回戦、第十一試合勝者は!!生徒会副会長!アリベル=ルーシュ!!!」


 「グランデュースの最後の技……アレはなんだ?」


 「あの子の能力スキルは魔法を斬るものと聞いていたが………。」


 「面白い子だなぁ……。ルーシュの友か。……生徒会ウチに勧誘してみるのもいいかもな。」


 オレは剣を回収して選手室へと戻った。観客席はオレの使った白天のせいでざわざわとしている。フラフラとした足取りでなんとか選手室に戻ったが、そこも変わらず騒がしくなっていた。


 「おい、ミルアルト!最後の技はなんなんだ!?剣術じゃねぇよな!?」


 「あぁ……まぁ色々あるのさ。アレだよ……あの……守護者から教えてもらったんだ。」


 「守護者の技なのか?」


 「……まぁそんなところだ。ちょっと疲れたから……休ませてくれ。」


 「そうか。寝とけ寝とけ。」


 序列戦が終わって校長が序列を発表するまで、オレ達は帰ることはできない。できればカミュールの試合も見ておきたいけど、正直そんなに体力の余裕はない。オレは椅子に座って瞼を下ろした。

 以降の試合は順調に進んでいった。カミュールは序列八位のガムレット=スペードという者に激戦の末なんとか勝利し、三回戦、準々決勝で生徒会長・サンダーグラス=ジンリューに敗北した。そしてジンリューとルーシュが勝ち進み、万人の予想通り決勝は二人の対決となった。


 「いよいよ序列戦は終わりを迎えます!!決勝は皆さんの期待通り、この二人の対決です!!」

 「生徒会副会長にして序列二位!!アリベル=ルーシュ!!」

 「そして生徒会長にして序列一位!学園唯一の七星級の戦士!!サンダーグラス=ジンリュー!!」

 「両者ともこれまで圧倒的な実力で勝ち進んでいます!!最後にして最高の一戦!序列戦決勝!!始めッ!!」


 「いつものふざけた態度……今日で叩き直してやるか。」


 「私に勝てるつもりでいるけどさ、負ける可能性も考えなよ。」


 「負けを想定するわけがないでしょ。」


 そして一秒にも満たないほんの一瞬のうちに、ルーシュの剣とジンリューの拳が衝突した。そしてその衝撃が大地を揺らし、観客席を震わせた。ルーシュは躊躇うことなく森を生み出し、オレと戦ったとき以上に禍々しい森になっていた。蔓と大樹が蛇のように唸り、黒い雨が降り始めた。闘技台の環境のみならず、天候さえも支配下においているようだ。その分魔力消費も激しそうだったが、温存するほどの余裕を持って戦うことはできないようだ。

 しかしジンリューはそれに怯むことなく、堂々と立っていた。そしてその瞬間、彼の力の片鱗を見ることができた。襲いかかる森に手のひらを向けたかと思えば、そこから放たれた魔力の雨のようなものが森を破壊した。大樹には無数の小さな穴が空き、その穴がどんどんと増えてその大樹は消滅した。


 「相変わらずその『空間支配』……破壊的な力だね……!」


 「お前の力は厄介だけど……やっぱり俺の力とは相性が悪いな。」


 ジンリューの能力スキルは空間を破壊するような力だろうか。いや、目に見えないほど小さな何かを操って、それが触れた場所を無に帰す力と表現した方が正しいか。手のひらから出したその何か、粒子が大樹を、森を削り取っていったんだ。

 ルーシュはなんとか剣術で喰らいついていたが、それでもジンリューの破壊力には敵わなかった。生み出された植物はことごとく滅せられ、ついには首を掴まれて剣を払われた。


 「……優勝は俺でいいかな?」


 「ふっ……ここまでされちゃ認めないわけにはいかないよ。仕方ない。私は今回も二位で諦めるとするよ。」


 そう言ってルーシュは結界の外に出た。首は落とされないまま、勝負は決した。どうやらジンリューとルーシュとの間には、随分な差があるようだった。


 「序列戦決勝!勝者はァ!!生徒会長!サンダーグラス=ジンリュー!!」


 観客席は歓声に包まれていた。勝者が決まったのだ。誰も興奮せずにはいられない。当の二人は冷静であるが。そしてそんな湧き上がっている観客の視線の中、校長が闘技場の中央に現れた。


 「諸君、よくこの試合を見届けてくれた。私はシュールラ=レイジ、ご存知の通り本校の校長だ。せっかくなのでこの場を借りて新しい序列を発表しようと思う。この序列は試合を通して私が決定したものだ。」

 「それでは順に発表する!」

  “八位 三年・ガムレット=スペード”

  “七位 四年・タームレイド=シュベッツ”

  “六位 一年・グランデュース=ミルアルト”

  “五位 一年・シリアン=カミュール”

  “四位 二年・ジルガス=アンドラン”

  “三位 四年・フリダム=ミライア”

  “二位 三年・アリベル=ルーシュ”

  “一位 四年・サンダーグラス=ジンリュー”

 「以上が序列入りした者達の名だ。名を挙げられた者達は決して驕らずますます力を極め、そうでない者は決して折れず、ぜひとも彼らの地位を奪いたまえ。そして今一度、私からは精一杯の賛辞を送ろう!!」


 校長の言葉とともに、序列戦は終了した。それまでの盛り上がりがまるで嘘かのように、流れるように帰路についた。思い返せば上位の二名は群を抜いて強かった。八位から三位までの実力は団子であろうが、そんな今のオレ達ではどう転んでも実力でルーシュやジンリューを打ち負かすことはできない。だからこそ、ルーシュと当たるのが後半であったならと、そう思うこともできるが……。オレは寮に戻ってベッドにうつ伏せになった。オレの感情を無視するように、このベッドの柔らかさは今日も変わらない。優勝と意気込んでいたオレを嘲笑うようなフカフカ具合だ。


 「セリアはオレのことを慰めてくれたりはしないのか?」


 「戦う相手なんて実戦じゃ選べないからね。よくやったとは思ってるわよ。四星級にもなって。」


 「ははっ……。相棒が同じ思考っていうのは楽でいいな。凹んでる暇なんてないんだから……頑張るしかねぇ。」


 「………凹む暇くらいはあるんじゃない?挫折もときには大切よ。」


 「……絶妙に合わねぇな……。そりゃあ挫折を否定はしないけど……今じゃないさ……。」


 オレはそう言って瞼を下ろすと、一瞬で夢の世界に落ちた。まるで気絶するように眠り、起きるときも突然だった。気づいたときには日の光を浴びており、身体が重いことに気がついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ