〜崇拝者と主君、そして冷静な実況陣〜
《邪王真眼が入室しました。》
《ちーずが入室しました。》
《バトルが開始されました——》
突然始まったのは、教室裏のバーチャル空間。
今日のフィールドは——
《邪王真眼がフィールドを展開しました——「深淵刃界」》
空が赤黒く染まり、地面から無数の刃が天を突く。
空間の重力すら歪むような、異様なフィールドだ。
「くっ……なんという、漆黒の世界……ッ!!」
震えながら立ち尽くすのは、ちーず。
だが、その表情には恐怖ではなく——陶酔。
「さすが……さすがです、邪王様……!!」
《いちゅきが入室しました。》
《BOSSが入室しました。》
《追い焚きニキが入室しました。》
「おっ、始まっとるやん」
「うわ……ちーずが嬉しそうに震えてる。あれ、バトルなん……?告白なん……?」
「いやアレは“宗教儀式”やな。試練受けてる新興宗教の信者や」
「……やだぁ……怖いけど、ちょっと引き込まれる……」
いちゅきが肩甲骨をさすりながら呟く。
***
「フッ……来い、ちーず。貴様の信仰心が本物なら、我が漆黒に触れてみせろ」
「喜んで!!」
叫びながら突っ込むちーず。だが、次の瞬間。
——ズバァッッッ!!!
ちーず、吹っ飛ぶ。
地面に転がりながら、体中に刃の軌跡が光る(※痛覚はある仕様)
「ぐあっ……さ、さすが……邪王様の、漆黒の愛撫……ッ!!」
「うわぁ……すげぇ感想出てきた」
「BOSS、これ実況する意味ある?」
「いやむしろ“解説が追いつかない”回やなコレ」
「ってかちーず、完全に“やられることがご褒美”になってるやん……」
***
「我が力の前に……ひれ伏すがいい……」
邪王真眼が宙に浮かび、空から漆黒の刃を降らせる。
——だが、その最中。
「うぅ……く、くださぁい……!!もっと……この刃を……!!」
叫ぶちーずの声に、空中で一瞬静止する邪王真眼。
「……」
(なんか、違う意味で勝ってる気がしねぇ……)
***
そして、刃の嵐が収まった後。
ちーずは全身ボロボロになりながら、跪いた。
「邪王様……!やはり、貴方は至高の存在……ッ!!」
「そ、そうか……当然だ……」
「一生、ついていきます!!僕の全て、捧げます!!」
「……い、いや。ほどほどにな?」
《ちーずが退出しました。》
《バトル終了。勝者:邪王真眼》
***
「なあニキ、あれ勝負やったんかな?」
「いやあれ……恋やな。というか、人生やな」
「もうわかんねぇよこの学園……」
「でも、邪王真眼……あの世界観を貫く姿勢、俺はちょっと羨ましいよ」
「俺もやで。……とんたん、しっかりしとる」
「誰がとんたんだぁぁ!!」
【つづく】