〜上級生、動く。とんぼの中二に火がつく日〜
渡り廊下。昼休み。
今日も黒マントをなびかせながら歩く、ひとりの男がいた。
その名は——邪王真眼(またの名をとんぼ)。
(俺の力に、誰もが怯え始めている……)
すれ違う生徒たちの視線、ひそひそ声、全てを「畏怖」と脳内変換して受け止める彼。
「最近のあの人、バトル中に詠唱始めるってマジ?」「あれガチなの……?」
もちろん、本人は一切気づかない。
***
談話エリア。昼下がりのいつもの席。
「そんでさ、昨日のバトルで“混沌の宴が始まる”とか言って、エフェクトで黒い羽根が舞ってたんよ」
「うわ、また演出過多型のやつか。あれ中盤で燃え尽きるパターンやろ」
冗談を飛ばしながら座っているのは、BOSSと追い焚きニキの2人。
学園でも一目置かれる上級生コンビだ。
「でも俺、ああいうの……ちょっと好きやけどな」
ロン毛をかき上げながら、ニキは静かに笑う。
「やりすぎててアホっぽいけど、なんか……一周回っておもろいというか。
“自分だけの世界観”って感じがして、嫌いじゃないんよな」
BOSSは缶コーヒーを傾けながら笑う。
「まぁな。あいつ、完璧に自分の世界に生きてる感じあるよな。
痛いっちゃ痛いけど、あそこまで突き抜けたらもう芸術だわ」
「なあBOSS、俺ちょっと気になるんよ、あいつのこと」
「奇遇だな。俺もちょっと話してみたいと思ってたとこ」
***
その時、ちょうど廊下の向こうから現れたのは、例の男——とんぼ(邪王真眼)だった。
マントをはためかせ、ゆっくりと歩いてくるその姿。
「……あ、来たな」
「行こか」
2人は立ち上がり、堂々と彼の前に立ちはだかる。
***
「……ん?」
呼び止められ、とんぼは立ち止まった。
目の前に立つのは、サングラスをかけた無表情の男と、ロン毛でどこか抜けたような笑顔の男。
「邪王真眼、だったか?」
「聞いてるで。お前、最近なかなか派手にやってるってな」
「ふん……貴様ら、何者だ」
「俺はBOSS。……まぁ、見た目ほど偉くない。そっちが追い焚きニキ。産廃の運転手。現役」
「俺はニキ。バトルとか強くないけど、ちょっと面白いやつにはすぐ声かけたなるタイプでな」
「……面白いやつ?」
「そ。お前さ、めっちゃ浮いてるよな。けど、俺はそういうの、嫌いじゃない。むしろ好きやで」
とんぼは一瞬、目を細めた。
「浮いてる?違うな。俺は……“この世界において唯一、闇と契約した存在”だ」
「うん、それな。
俺的には“中二というより神話の住人”って呼んでる」
「なあBOSS、たぶんこの子、ずっとこの調子なんやろな」
「だろうな。でも、今の学園で一番目立ってんのは間違いなくこいつだよ。なぁ、邪王真眼」
「……貴様らの言葉、ただの冷やかしではないな」
「そう取るかどうかは、お前の勝手やけどな」
ニキがポケットに手を突っ込みながら、ぼそっと呟く。
「でも、俺はお前のこと——ちょっと、気になってんねん。
この世界、変えてくれそうな“変人”ってな」
風が吹いた。
マントが舞い上がり、とんぼの瞳がわずかに揺れる。
「……クク……面白い。貴様らの名、覚えておこう。
いつか闇が、お前たちを試す日が来る……それまで、その魂、磨いておけ」
「いや磨かれるのはお前やと思うで」
「お前、間違いなくターゲット増やしてるからな今」
そんなこんなで、邪王真眼と上級生コンビは、奇妙な“距離感”でつながり始めた——
【つづく】