〜圧倒的“かまって力” VS 冷静な詰め、勝者は——〜
《バトル開始から3分経過》
《現在のフィールド:私を構ってモード》
空間に漂う甘ったるい色彩。
ぬいぐるみ、ハート、意味深なタイムライン風コメントが空中を浮遊している。
「てかアンタ、ずっと他人の矛盾突いてばっかで、自分の感情どこ置いてきたの?」
「……理性があれば、感情は制御できる。
それが人間ってもんでしょ。わかる?」
「はあ〜、そういうの、マジで一番しんどいのよ」
ぐみは床にしゃがみこみ、手に持った“エアスマホ”をカチカチと操作し始めた。
「なにそれ、既読スルーってこと?
あーあ、これでまた“誰も私のことわかってくれない”って思うヤツ、ひとり生まれたよ。ねえ、わかる?
……わかってほしいんでしょ?ちょっとぐらい、気持ち見せなよ」
ぴくり、とまさとの目が揺れる。
「……感情なんて、場に出す意味がない。俺はただ……」
「“ただ観察してるだけ”って言い訳、かっこいいつもり?
傷つきたくないだけでしょ。自分の本音は隠して、他人の矛盾だけ見て安心してんの。
そうやって距離取ると、誰もあんたのこと見てくれなくなるよ?」
「……」
まさとの足元に広がるピンクの床が、じわじわと彼を飲み込む。
反論の言葉はある。だが口が動かない。
なぜなら——図星だった。
「そういうとこ、可愛いけどムカつくんだよねぇ」
にっこり微笑むぐみ。だが、その奥の瞳は一切笑っていない。
「ほんとは誰よりも誰かに見てほしいんでしょ。
なら素直に“かまって”って言いなよ。……言えないの?じゃあ私が言わせてあげる」
「……くっ……」
《まさとが退出しました。》
《バトル終了。勝者:ぐみ》
空間がゆっくり元に戻る。
「……あら、終わっちゃった」
ぐみはぼそりと呟くと、教室の端に戻って座った。
まさとは、一言も発さず席に戻り、机に向かって静かに缶を開ける。
そして……ぽつりと呟いた。
「……ぐみさん、今日のフィールド、よくできてました。はい」
「……あら、素直でよろしい」
そう言って、ぐみはちょっとだけ笑った。