自己紹介も混沌
1-B教室。
入学式から数日、どこか落ち着かない空気が漂う中、突然担任AI「セリヌンティウスβ型」の気まぐれな一言が響いた。
「はい、それじゃあ今日はなんとなく〜自己紹介でもしてみよっか〜」
ざわつく生徒たち。
誰も動こうとしない教室の中、一人が静かに立ち上がる。
「……俺が最初でいいな」
マントをひるがえし、黒髪の男が前へ出る。
「我が名は……邪王真眼。またの名を“とんぼ”などと呼ぶ輩がいるが、それは誤りだ。
この瞳は深淵より目覚めし漆黒の力……お前たちの未熟な魂が、我が力に焼かれぬことを祈る」
……どよん。
(やばい、いきなり痛いやつ来た……)
教室に凍るような空気が漂った直後——
「邪王様ああああああ!!」
バン!と机を叩いて立ち上がる男子。金髪、マント、安全ピン、腕章「漆黒同盟」。
「名はちーずッ!好きな食べ物は自動販売機!趣味はガードレールの観察!
この命、すべて邪王様のために捧げますぅぅ!!」
「誰だお前ぇぇぇ!!」
「またすべってる〜、ちーずの冷却パワーすごいね〜」
と、後ろでヘラヘラ笑ってるのはいちゅき。
肩に乗ってるぬいぐるみは、どう見ても肩甲骨。
「わたし、いちゅき。肩甲骨に恋してるんだ〜。
あ、ちなみに元カレは“肩甲骨の価値がわからない男”だったから即ブロックした。常識でしょ?」
「話がぶっ飛びすぎてて理解が追いつかねぇ……!!」
そのとき、教室のドアが静かに開いた。
「……あ、自己紹介してるっぽい?ごめん、ちょっと出遅れた」
現れたのは、落ち着いたトーンのギャル。淡いピンクメッシュのロング、制服の袖まくり、アクセサリーは派手だけど雰囲気は妙に大人っぽい。
「にぎり飯って言います。ま、あだ名みたいなもんで。
好きなものはコーラと人の背中。嫌いなのは話の途中で寝るやつ、かな」
「……お前、わりと普通……?」
「うーん、まぁ。でも普通じゃないって言われることの方が多いかな。
あ、ちなみに“とんたん”って呼ぶから、よろしく」
「誰がとんたんだ!!」
「ん?やだ、ダメだった?でももう定着しそうだからあきらめて?」
にぎり飯は、悪びれる様子もなく隣の空席に座り、バッグからゆっくりリップを取り出す。
「てか、自己紹介って言われると、けっこう語りたくなっちゃうタイプなんだよね。
元カレがマジで地雷だった話、あとで聞く?」
「聞かねぇ!!誰も得しねぇ!!!」
「ふーん、残念」
一方、ちーずはというと……
「……なんか……存在感で負けてない……?」
にぎり飯をチラチラ見ながら、小さく唇を噛んでいた。
その後ろで、まさとがぽつり。
「……にぎやかだねぇ。こういう教室って、観察してるとほんと面白い。
人間の“核”が無意識に出てくるから。わかる?」
「だからその静かに刺してくる口調やめろって言ってんだろ!!」
しばしの沈黙。
「……なんかすごかったね」
「このクラス、平均IQめっちゃ揺れてない?」
と、あちこちで小声が飛び交い始めた頃、最後列で静かに立ち上がった人物がいた。
ストレートな黒髪。落ち着いた目元。けれど、その瞳はどこか虚無っぽい。
周囲の喧騒には興味がない、そんな風を装った女——ぐみ。
「ねぇ、まさとってやつ」
教室に冷たい声が響いた。
「……あんた、なんでそんな偉そうに観察者ぶってんの?」
教室が一瞬、静まり返る。
まさとは缶を口に運んだまま、視線だけでぐみを捉えた。
「偉そうっていうか……事実、そうだからね。
見えてるものを語ってるだけ。わかる?」
「……そういうとこが無理なのよ。
“自分は冷静でいられる側”みたいな顔してさ。
アンタの言葉ってさ、人のこと何も救ってないじゃん?」
「……へぇ」
まさとは、缶をカン、と机に置いた。
「君、炎上常習者のくせに他人の優しさには敏感なんだね。わかる?」
「は? ……はぁ!? ちょっと来なよ」
空気がビリ、と震える。
《ぐみが入室しました。》
《まさとが入室しました。》
《——バトルが開始されました——》
「……また始まったよ」
「これ絶対どっちか泣くやつじゃん……」
チャットルームが揺れ、周囲の背景がじわじわと変化していく。
《ぐみがフィールドを展開しました——「私を構ってモード」》
ピンクの光に包まれた空間に、ふわふわしたハートやぬいぐるみが漂い始める。
だが、それは見た目とは裏腹に、重たい“かまって圧”を放っていた。
「……あぁ、しんど。
無視されたら傷つくけど、構われすぎると冷める。
でもほんとは、どっちでもいいように見せて、誰かに刺さりたいの。
アンタみたいな奴が一番イラつくのよ、わかる?」
まさとは、笑った。
「君……面倒くさくて、いいね」
こうして、言葉と言葉の本気のバトルが幕を開けた——
【つづく】