オリエンテーション
司会のAIウサギがマイクを回す中、会場が一気に静まり返った。
「次の新入生紹介は、上級生のいさきさんにお願いしまーす!」
その瞬間、スポットライトがステージ奥に落ちる。
そこに現れたのは、ギターを背負った落ち着いた佇まいの上級生。
やわらかな微笑みを浮かべながら、一歩一歩ゆっくり前に出る。
「こんにちは、新入生のみなさん。今日は少しだけ、お手伝いに来ました」
その声は優しく、どこか音楽のように心地よい。
新入生たちの中には、すでにその存在を知っていた者もいたようで、そっとざわめきが走る。
「えーと……邪王真眼さん、どこかな?」
ざわっ。
「……邪王真眼。またの名を、“とんぼ”だ」
「はい、とんぼくん、こちらへ〜」
「“とんぼ”じゃねぇって言ってんだろ……!!」
優しく笑っているのに、なぜか逆らえない雰囲気を放ついさきさんに、邪王真眼は渋々ステージへと歩み出す。
「ふふ、いい声してるね。いつか歌、聴かせてよ?」
「歌わねぇよッ!!」
新入生たちがざわざわと帰ろうとする中、邪王真眼は一人、少し離れた壁にもたれていた。
軽く腕を組み、誰にも話しかけられないように目を伏せる。
——なのに、わざわざ寄ってくるやつはいる。
「邪王真眼、だったか」
ゆったりとした歩き方で近づいてきた男は、落ち着いた雰囲気の年上風。
手には缶コーヒーを持っていて、片手はポケットに突っ込んだまま。
「……なんだお前」
「いや、ちょっと思ってさ。君、自分のこと“選ばれし存在”とか言ってたろう?」
「……そうだが」
「なるほどねぇ。
そういう自己認識ができてる時点で、すでにそれ、選ばれてないってことじゃないか?」
「は?」
まさとは薄く笑って、小さく肩をすくめた。
「だって本当に選ばれてる奴って、自分から“選ばれた”とか言わないもの。
自己主張が強いのは、内面に確証がない証拠。わかる?」
「テメェ……!」
「でも嫌いじゃないよ、そういう危うい厨二感。
いや、正確には中三ぐらいか?微妙なとこだね、わかる?」
グッ、と邪王真眼の拳が握られる。
「バトル、好きか?」
「……あ?」
「ここの生徒って、いろいろいるけどさ。結局“強い”ってことだけが、全部を変える。
だから俺は好きだよ、バトル。
感情も、痛みも、ぜんぶ混ざった“本音のやりとり”だからね。
君みたいに鎧着込んでる奴の“素”を剥がすの、たまらなく楽しいんだよ。わかる?」
ケラケラと、まさとは楽しげに笑う。
「じゃ、またね。飲みたい気分だし」
そう言って去っていく後ろ姿に、邪王真眼は言葉を詰まらせたままだった。
(……あいつ、何なんだ……!)