入学、そして混沌
「……ここが、“ランダムチャット学園”か」
校門の前に立つ少年は、黒いマントをひるがえし、夕焼けでもないのに空を睨んでいた。
「俺の名は……邪王真眼。“選ばれし存在”にしか開かれないこの扉を、今まさに超えようとしている……!」
なお、その隣を通りすがったおばちゃん(購買部の人)は「おはよう」と言った。
「……フン」
邪王真眼(またの名をとんぼ、本人は絶対認めない)は、周囲の視線をものともせず、胸を張って学園の敷地に足を踏み入れた。
そこは――
現実と虚構が交差する、異質な空間だった。
生徒たちの姿はさまざま。制服の上に着ぐるみを羽織る者、片手にバーチャル端末を浮かせて笑う者、宙に浮いてる者、逆立ちして登校してる者までいた。
「……なんだこのカオスは」
「ようこそ!新入生くん!」
不意に背後から軽快な声が飛び込む。
振り返ると、バーチャルアバターのウサギの着ぐるみが、グルグルと両手を振っていた。
いや、よく見たら中の人めっちゃ普通の大学生風だった。
「ここ、“ランダムチャット学園”は、意識だけが飛ばされるバーチャル学園!授業中でも昼休みでも、突然バトルフィールドが展開されることがあるから気を抜くなよ!」
「バトルフィールド……!」
「でも安心して!負けても命は取られないし、痛いだけ!」
「安心できるかそんなもんッ!」
そのツッコミは心の中で叫ばれたが、当然ウサギはスルーした。
「ちなみに君の初期装備は“セリフ”だけね!技とかはバトルで感情高まると勝手に出るから!」
「適当すぎるだろこのシステム!!」
「それでは、入学オリエンテーションへどうぞ〜!」
ウサギが消えると、地面が突然ズルっと滑って、邪王真眼は真下に吸い込まれていった。