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昭和葬零 - Aristorequiem -  作者: 堀幸司 - holycozy - 
第七章『鬼包丁』
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第02話 反撃の始まり

 それからわずか三〇分後、流一郎と五郎はカミヤムネに向かう登山道の入り口にいた。

 正確には、秋月登山道入り口の駐車場に、伏見家のリムジンで乗り付けていた。

 美鶴神社の長い石段を下りたところで、伏見家の執事長・谷口が運転する白いリムジンが待ち構えていて、半ば無理矢理に運ばれてきたのだ。すべては伏見小夜子の企てだった。

 流一郎は気になっていたことを言葉にしてみる。

「伏見小夜子、きみもカミヤムネまで同行する気か?」

 すると小夜子は控えめに微笑んでみせた。

「いいえ。死ノ儀くんならご存じでしょう? 伏見家は、麒族と人間の戦いからリタイアした一族です。今回も静観させていただきますよ」

「なら、どうしてこんなことを? 屋敷でくつろいでいればいいだろう?」

「戦争に首を突っ込む真似は出来ませんが、お友達のピンチに駆けつけるのは当然でしょう? 時女宵子さんはまだ生きていると私は信じています。事は一刻を争いますからね。あなたと五郎くんをほうっておいたら、美鶴神社から歩いてこの登山道を目指しかねませんでしたから。そんな時間の浪費は捨て置けません」

「む…………」

 痛いところを突かれた。流一郎は「自転車で来るつもりだった」と答えかけたが、大した差はないと判断し、反論するのをやめた。

「死ノ儀くん」

 小夜子があらたまって話しかけてくる。

「時女さんをよろしくお願い致します。私にとって初めての人間の親友なんです」

 流一郎は小夜子の赤く染まった瞳をまっすぐに見据えて「ああ」と答えた。

 ザザッ……。

 そのとき、駐車場に敷かれた玉砂利が鳴った。音のほうを自然と全員が見やる。

「はぐれ亡霊人……」

 小夜子がつぶやいた。

 そこにいたのは、いかにもサラリーマンという出で立ちの亡霊人だった。だがどれだけの年数をこうしてさまよっていたのだろう? 身にまとったスーツはボロボロに傷み、まるでミイラの包帯のようだ。

「五郎、バットをくれ」

「はいよ」

 そう言うと五郎は、両肩にかけたスポーツバッグから手頃な一本を選んで流一郎に手渡す。五郎は、計二○本の金属バットを持参していた。野球部の部室にあったものをすべて「拝借」してきたのだという。その経緯に流一郎は眉をひそめたが、麒族との戦いにあたって大きな助けになるのは間違いない。

 また、凛の申し出を受けて、全ての金属バットに「まがつ鋼の矢じり」を取り付けていた。ガムテープで貼り付けただけの急造仕様だが、それでも亡霊人や麒族相手には一定以上の効果があるはずだ。

 流一郎は、ためらうことなく亡霊人に近付いていった。

 そして金属バットを腰だめに構えると、そのままスッと力を入れずに振り抜く。

 ガシャーーーーン。

 たったそれだけで亡霊人は粉々に砕けてしまった。

 金属バットに貼り付けられた「まがつ鋼の矢じり」は抜群の威力を有していた。亡霊人相手ならこれ一本で十分かもしれなかった。

「このあたりも、じきに亡霊人や麒族たちの通り道になるだろう。伏見、きみはそろそろ帰ったほうがいい」

 流一郎の提案に小夜子もうなずく。元より足手まといになるつもりはなかった。

「夜明けが訪れたら――またここに来ます。二人ともご無事で」

「ああ、まかせとけって。見事、時女宵子を救い出して、ここまで戻ってみせるぜ」

 そう言って自分の胸を叩く五郎に、小夜子は信頼の笑みを送った。

「それでは、一時、離れます――」

 伏見小夜子を乗せた白いリムジンは、谷口の運転で静かに発進し、市街地へ向かって滑るように走り去っていった。

 秋月登山道の駐車場に再び静寂が訪れる。

 満月だけが、あたりをこうこうと照らしていた。


        × × ×


 現在時刻は二二時三〇分。

 秋月登山道から山中に進入した流一郎と五郎は、すでに全体の半分を上りきっていた。

 このまま道なりに進めば、やがて巨石遺跡・カミヤムネに到達するはずである。

 登山道はきちんと整備されていて、満月の明かりだけでも十分に歩くことが出来た。

 年に一度の祭り以外では訪れる市民も少ないはずだが、なぜここまで丁寧に整えられているのだろう。もしかすると今回のような非常事態の際に、渡殺者たちが緊急に駆けつけることが出来るように設計されているのではないか、と流一郎は察した。

 そうなると指示を出したのは美鶴御前ということになる。

 全く……底知れない人だ。

 目的のカミヤムネは外輪山の中腹、およそ六合目に位置している。あと小一時間も登れば現地に到着するだろう。今のうちに、一流麒族との戦闘が始まった際の、五郎の避難方法も考えておかねばならない。五郎は当然嫌がるだろうが、一般人をこれ以上深く巻き込むわけにはいかなかった。

「おい死ノ儀、あそこ、何か動いてねーか?」

 五郎が前方を指さした。

 さすがに月明かりだけでは遠くのものまで視認するのは難しいが、全体のシルエットから、それが人間の形をしていないことは見て取れた。

 だとすれば、三流あるいは二流麒族だろう。

「麒族ってのも色々だな」

「ああ――」

「死ノ儀、バットはそれでいいのか?」

「大丈夫だ、問題ない」

 麒族は依然としてゆらゆらと歩いていた。

 流一郎は麒族を興奮させないように近づき、寸前のところで力を込めた。

「秒殺!!」

 ガシャーーーーン!

「ナイスバッティング! 死ノ儀よ、お前、野球始めたほうがいいんじゃねーか?」

「おべっかはいい」

「へへ!」

「それより急ごう。奴らは麒族の中でも過激派だ。時女の命に保証がない」

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