第03話 祀られし麒族
夕焼けに照らされた舞鶴学園二年A組の教室。
全ての授業を終えた室内に、すでに人影は見当たらない。
生徒たちの息吹は、遠く校庭から聞こえる運動部員のかけ声だけだ。
そんな無人の空間で、翼を休めている一羽の大きな鳥がいた。
否、一柱の小天狗がいた。
餓鸞童子。
その失われた左の羽根は、まだ半分ほどしか再生していない。今しばらくの休息が必要だろう。
「この程度の損傷なら完全に回復出来るはずだ。若輩者とはいえ、やはり風月丸は侮りがたいな――だけど、あんなボロボロの鬼包丁じゃあ戦いの結末は目に見えている。あとは、皆の力を結集させるだけでいい。そうすれば、あいつらに『強烈な一撃』を食らわせることが出来るんだ」
餓鸞童子は開いた窓枠に腰掛けたまま、外から流れてくる風を大きく吸い込んだ。
「それにしても、この学園は麒族の匂いでいっぱいだな……もうそんなにたくさんの仲間たちがやって来たのか?」
そのとき、餓鸞童子はハッとして振り向いた。教室の出入り口、その引き戸がいつの間にか開いていて、一人の女性が立っていたからだ。
その人間は言った。
「強烈な一撃とは何かな?」
冷徹なその声に、餓鸞童子は聞き覚えがあった。
「!!……お前様は真那霞姫。こんなところで何をしているんだい!?」
「真那霞姫? 知らんな――私はこの舞鶴学園の教師で、名を姫野美人という。ここは神聖な学舎だ、関係者以外の立ち入りは禁止されている。出て行ってもらおうか」
「変な冗談はよしておくれ。雪の女王と謳われたお前様が、人の姿で何をしている?」
「何をしているもない。お前が眠っていた七年の間に情勢は大きく変わったのだ。我々は美鶴神社に降った」
「降った? 最強の麒族の一柱であるお前様が、なぜ人間どもの軍門に降らなければならないんだ? 意味がわからないよ」
「情勢が変わったと言っただろう。もはやこの世界では昼と夜が交わり、その境界を定める理も崩壊してしまった。全てが昼で、全てが夜なのだ。お前も我々のように生き延びたければ美鶴神社に祀られるといい。口利きくらいはしてやるぞ」
「我々――我々と言ったな。他にも美鶴神社に……そうか、この立ち込める麒族の匂いは、お前様のように裏切った者たちの匂いか」
「考えを柔軟に持て。人間と接して生きるのも悪くはないぞ。この学園で過ごす麒族たちはみな安らかな時を、安寧を謳歌している」
「だまされるもんか。麒族が人間と共生できるはずがない」
「我々麒族はすでに終焉の時代を迎えている。余生を静かに過ごすのも有望な選択肢の一つだと思うがな。それをお前は禁忌を破ってまであがこうとしている」
「最後まで生き延びる権利は誰にでもある」
「お前に食われた人間たちもそう思っただろうな」




