表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昭和葬零 - Aristorequiem -  作者: 堀幸司 - holycozy - 
第三章『麒族(きぞく)』
13/41

第03話 麒族VS流一郎②

 白磁の鬼も学習していた。行く先々での生徒たちの悲鳴が、流一郎を呼び寄せていることに気付いたのだ。だから今度は、人の気配の少ない体育館の裏を逃げ場所に選んだ。

 だがそれが逆に、鬼に引導を渡すことになった。

 白磁の鬼が逃げ込んだ体育館の裏には、確かに生徒は一人もいなかった。

 だが無人だったわけではない。

 そこには一人の教師が立っていた。

 姫野美人。

 流一郎たちの担任である美貌の女性教師が一人、そこにたたずんでいた。

 白磁の鬼は、彼女を蹴散らして突破しようと目論んだが、数メートル手前でそれを思いとどまった。麒族としての本能がそうさせたのだ。

 白磁の鬼を追う流一郎も、すぐにそこに現れた。

 一柱の鬼を、二人の人間が挟み撃ちにしている――そんな構図が出来上がっている。鬼は、姫野先生と流一郎を見比べた。弱いほうに突撃するつもりなのだろう。しかし、いくら見比べても、その答えを出せずにいる。そしてそれは正しい判断でもあった。

 冷徹な笑みを浮かべながら、姫野先生が流一郎に向かって「助太刀が必要か? 風月丸(ふうげつまる)よ」と言った。

 流一郎は「遠慮しておく」と即答するが、姫野先生は笑みを崩さない。

「まぁ、そう言うな。生徒の安全を守るのも教師の務めでな」

 そう言うと姫野先生は、手のひらを口元に当ててフッと息を吹きかけた。途端に白磁の鬼の両足が絶対零度で凍り付き、地面から離れなくなってしまう。氷結はみるみる広がっていき、足首から膝、太ももへとその束縛を強めていく。

 その隙を見逃す流一郎ではなかった。金属バットを腰だめに構えると勢いよく振り抜いた。その眼光が鋭く光る。

「秒殺!!」

 ガシャーーーーン!

 今度こそ、復元が不可能なほど粉々に白磁の鬼を粉砕することが出来た。

 だが流一郎の表情は浮かない。その視線は姫野先生に向いている。

「余計な真似を――」

「結末が同じなら、面倒は省いたほうがいいだろう? それとも、あのまま続けたら、お前は負けていたのか?」

 姫野先生がフフンと挑発的に笑う。一般の生徒たちには絶対に見せない表情だ。

「お前は俺たち渡殺者(わざもの)の実力を試しているのか?」と流一郎が詰め寄る。

「試す? ――これは珍妙なことを言う奴だ。試してどうする」

「渡殺者たちの油断を突いて、麒族の世界を再興するつもりじゃないだろうな?」

「ハッハッハッ、人間の間ではそんな流言飛語が真実味を帯びているのか――なんと愉快な。私はすでに美鶴神社に祀られた神だ。美鶴神社に鎮まる全ての神の承認を得なければ、もう、自由を手にすることはない」

「理屈ではそうだが――俺は、お前が、誰もが思い描く普通の道を歩んでいくとは思えない」

「フン――買い被りすぎだ。私は、本当の力を失った生き神だ。それ以上でも以下でもないよ」

 そこに激しい息遣いで、宵子たち三人がようやくたどり着いた。特に宵子は、流一郎が無事だったのを見て胸をなで下ろしている。

 頂五郎は、あたりに飛散した白磁の鬼の残骸を見渡す。

「こりゃ……粉々だな。やるじゃねえか死ノ儀!」

 ただ一人冷静だったのは伏見小夜子だ。

「でも三流麒族が融合して、一柱になるというのは初めて見ました。決して油断は出来ませんよ」

 そして、先ほどの白磁の鬼を割った音を聞きつけたのだろう――一般の生徒たちも物見遊山でわらわらと集まってきた。流一郎が「人」ではなく「獰猛で危険な鬼」を割ったという噂が、生徒たちの間で一気に広まっていく。

 群衆は現金なもので、流一郎を中心とした人だかりを作り、まるでヒーローインタビューのような質問を投げかけてくる。殺人鬼の息子とまで呼ばれた流一郎が、すっかり英雄の扱いだ。一般の生徒は「麒族」に対してその程度の知識しか持ち合わせていないことがよく分かる。人混みはますます盛り上がりを見せ、さらに膨れ上がろうとしていた。

 流一郎は、おしくらまんじゅうと化した混乱の中に「彼女」の姿を求めた。

 だが、姫野先生の姿はいつしか、かき消えていた。


 (りん)


 突然、力強い鈴の音が鳴り響き、浮ついた生徒たちの心に冷や水を浴びせた。

 生徒たちから狂乱の表情は消え失せ、皆、神妙な面持ちで鈴の鳴った方向を見つめる。すると、たくさんの人混みを押し分けるようにして、一人の巫女が静かに歩み出てきた。その姿が目に入るや否や、人々は自然と道を開ける。あまりにも美しい巫女の佇まいに、場の空気が一瞬にして変わったのだ。その可憐さに圧倒され、女子生徒たちでさえ感嘆のため息を漏らすほどだった。

 橘凛(たちばなりん)というその巫女は、白衣と緋袴の巫女装束に身を包み、柔らかな物腰でそこにたたずんでいた。流一郎がよく見知った顔だった。

「凛か。どうした?」

 流一郎は極めて事務的にその巫女――凛に語りかける。

風月丸(ふうげつまる)様、美鶴御前がお呼びです」答える凛の所作も、どこか芝居がかっていた。

 そしてそれを見ていた宵子は「風月丸……?」と首をかしげた。宵子は、姫野先生もまた流一郎のことを風月丸と呼んでいた事実を知らない。もっとも、宵子は流一郎のパーソナリティを何も知らないに等しいのだが……。

 風月丸と呼ばれた流一郎は、凛に対して、つっけんどんに答える。

「呼ばれなくても、こちらから行こうと思っていたところだ。明日にでも顔を出すと美鶴御前には伝えておいて――」「なりません」ぴしゃりと凛が言い放つ。

「風月丸様はその名の通り風来坊。一度つかまえたら、首に縄をかけてでもお連れしなければ、待てど暮らせどお越しにならないではありませんか」

「人聞きの悪いことを言うな。俺は亡霊人を割って歩いてるんだ。健康のために散歩してるわけじゃない」

「それはそうでしょうが……美鶴神社にも中期計画というものがあります。ただいたずらに亡霊人を割るだけでは、御前様のご意向に沿うことは出来ませんよ」

「分かっている。そのために――」と、ここまでしゃべって、流一郎は言い淀んでしまった。

 おそらく問答では凛に敵わないと悟ったのだろう。さっきまでの勢いはどこへやら、ただ単に「このまま参上する」とだけ言葉を返した。

 その反応に気をよくしたのか、凛のほうからひとつの提案が示される。

「そう言えば風月丸様、すぐそこの宝満(ほうまん)川――亡霊人が一柱うろついておりましたが、どうでしょう? 美鶴御前にお目通り願うのは、これを討伐なさってからに致しては?」

 流一郎の答えを聞くまでもないのだが、凛はその返事を静かに待った。

「当然だ。案内してくれ」

 期待通りの回答に凛は微笑み、流一郎は金属バットをブンと振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ