秋日挽歌
はるかなる 旅路の果ては 霜月の 世紀と一年 雨やわらかに
白菊と 竜胆の咲く 黒窓で 過日の笑顔 晴れやかなり
留守居にて 母の待ちたる気がすると 通夜振る舞いの 父の軽口
秋の蝿 香の煙に追われたる 君迷いしかと 払わざりけり
君のいた 古いソファを囲みつつ 昔語りに夜が更けて
西往きの E席に座せど 故郷に 富士は見えしやと 問う人ぞなき
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公式企画「俳人・歌人になろう!2023」参加作品です。
▼小説家になろう 公式企画サイト
https://syosetu.com/event/haikutanka2023/
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新幹線で私が帰省する度、「今日は富士山は見えたか?」と訊いてくれる祖母でした。
亡くなる数週間前まで寝付きもせず、昼間は今のソファの定位置にちょこんと座ってうとうとしていました。
通夜振る舞いの席で、父が「家に帰ったら、まだばあちゃんがおるような気がするわ」と言っていたのも分かります。
遺影は、私の披露宴で撮影した、とても晴れやかな笑顔。
告別式の最中、季節外れの蝿が式場に入り込んできたのですが、「ばあちゃんが様子を見に来たのかも!?」と思うと追い払えませんでしたね。
年末年始の帰省では、また孫で集まってばあちゃんの思い出を語ろうと思います。