九十二話 神殿破壊にご注意を!?
しっかりと昼食を食べ終え、充分な気力と共に、再び【シードリアテイル】へログイン!
『おかえり! しーどりあ~!!!』
見事にそろった小さな三色の精霊さんたちのあいさつに、すっと瞼を開き穏やかに微笑む。
「ただいま戻りました、みなさん」
『わ~~い!!!』
とたんにぴたりと胸元へとくっつく様子が可愛らしく、思わず笑みが零れる。
小さな三色の姿を、指先で優しく撫でながら身体を起こすと、両耳で星のカケラの耳飾りがゆれる感覚があった。そっと手を伸ばし、星空色の五角柱に触れてそのつるりとした手触りと冷たさを楽しむ。
視線を向けた窓から射し込む光は、美しい夜明けの青色。
ぱっと胸元から、前方の空中へと躍り出た三色のみなさんに導かれるように、夜明けの光を反射する姿見の鏡の前へ歩みよる。
姿を映した鏡には、好奇心を秘めて微笑む穏やかな風貌のエルフが一人、三色の精霊さんたちに囲まれて楽しげに立っていた。
これが他者から見た普段の私の姿だとすると、なかなかエルフらしい、好い雰囲気を出せているのではないだろうか?
自然と深まる笑みに、鏡に映る姿もずいぶんと満足気な笑顔へと変わる。
さぁ、ご機嫌になったところで――三日目のつづきを、楽しむとしよう!
すっかりお馴染みとなった〈フィ〉と〈ラ・フィ・フリュー〉による、小さな多色の精霊さんたちにご協力をしてもらう一連の流れと、両脚にオリジナルの風の付与魔法を付与する流れとをおこない、スキル《隠蔽 二》で隠して今回も準備は完了。
小さな三色の精霊さんたちと一緒に宿部屋を出て、まだ神官のみなさんの姿も少ない中、いつものようにまずは精霊神様のお祈り部屋へ入る。
美麗な精霊神様の神像に感嘆の吐息を零しつつ、長椅子に座って《祈り》を発動し、今回も精霊のみなさんと共に在れる幸福に感謝を捧ぐ。
しばらくお祈りをして、特別変化のないことを確認後、組んでいた手をほどいて立ち上がる。
この後は、以前星魔法の発動の練習をしていた際に、少し考えていたことを実践してみようと思う。
すなわち――もっとも属性に親しむことができるこの場所で、魔法の練習をする!
拳を握り意気込みつつ、大切な確認は忘れない。
そばでふよふよとういて遊んでいる小さな三色の精霊さんたちに、穏やかに問いかける。
「みなさん、これから少しこの場で魔法の練習を試してみたいのですが……これは精霊神様への、ご無礼になってしまいますか?」
少々緊張しながらの問いに、互いに一度身をよせ合った精霊のみなさんは、次いでそれぞれの輝きを増して、答えてくれた。
『だいじょうぶだよ~!』
『まほうつかうの、すきだよ!』
『いっぱいれんしゅうだいじ~!』
明るく元気いっぱいな返答を聴く限り、どうやらこの場での魔法の練習は、失礼にはならないらしい。
ほっと胸を撫でおろし、みなさんに笑顔で礼を告げる。
「それはよかったです。みなさん、教えてくださりありがとうございます」
『どういたしまして~!!!』
綺麗に揃った返事に微笑みを深め、それではさっそくと幾つかのオリジナル魔法を発動し、床や壁に当たる前に消滅する様子を確認していく。
以前の練習の際に習得したスキル《効率魔法操作》が示すように、魔法は練習や使用を繰り返すことで、より少ない魔力で強い魔法を使えるようになる可能性が高い。
この予想が正しければ、今習得している魔法一つ一つの強さを引き上げることも、出来るかもしれない、とも思う。
エルフの里にかけられている様々な加護のことを、紅い表紙の本を読み知っている以上、どうしても可能性に好奇心がうずく。
当然として神殿にも加護はかけられており、その内容についても書かれていた。
いわく、神殿内はすべての神々に護られている絶対安全の場所であり、いかなる攻撃魔法やデバフ系の補助魔法もその効能を発揮できない、とのこと。
また、やはり他の場所よりも魔法を習得しやすく、熟練度も上がりやすいのだとか。
この事実を学び、そしてどの時間帯でもお祈り部屋を使用できると気づいた身としては、この場で魔法を練習しようと思い立つのは実に自然な流れだった。
「さて……上手く熟練度なども上がると良いのですが」
『しーどりあ、がんばって~!』
『しーどりあなら、できる!』
『れんしゅう、がんばって~!』
「ご声援ありがとうございます、みなさん。いっそう練習がはかどります!」
願いを秘めた呟きに、元気をもらえる応援の声が響き、口元の笑みを深めて感謝と意気込みを伝える。
そうして精霊のみなさんの声援を聴きながら、また幾つかのオリジナル魔法を練習した後、ふと一つの疑問がうかんだ。
……星魔法も、この場で練習することができるのだろうか?
降って湧いた素朴な疑問を、精霊のみなさんへたずねてみる。
「あの、みなさん。星魔法は……室内でも撃つことが出来るのでしょうか?」
『うてるよ~!!!』
「撃てるのですか!?」
迷いない即答に、思わず驚愕の声が出た。
そういえば、たしかに空からというより、頭上に出現して流れ落ちていく魔法だったか。それならば、室内でも発動できるということにも納得だ。
一つうなずき、ならばと紡ぐ。
「練習、してみます!」
『わ~~い!!!』
三色のみなさんの楽しげな声を聴きながら、深呼吸をして集中力を高める。
静かに前方の白亜の壁を見つめ、すぅっと吸い込んだ形なき空気を、魔法名に変えて告ぐ。
「〈スターリア〉!」
凛、と響いた深みを帯びた声音に従い、頭上に出現した一つの星が銀と蒼の光の尾を引き流れ――そのまま消えずに壁に触れ……ゴッっと響いた派手な音に、思考より先に〈スターリア〉を消していた。
「え……?」
呆然としながらも、反射的に疑問の声が零れ落ちる。
何度緑の瞳をまたたいても、前方に見えるのは、明らかに何かにえぐられたように陥没しひびまで入った、確実に壊れている白亜の壁。
――あまりの出来事に、思考が追いつかない。
慌てたようにすぃっすぃっと壁の近くを動き回る、小さな三色の精霊さんたちの声が、白亜の小部屋に響いた。
『こわれた~!?』
『ほしまほうすご~い!!』
『しんでんこわせる~??』
……神殿って、壊せるものでした?
※建造物損壊は犯罪です。
この物語内以外では、許されない行為です。
なお、この物語内での扱いに関しては、次回の話にて語られます。




