八十九話 新魔法習得劇!
薄明るい宵闇の森を抜け、神殿へとたどり着くと、さっそくまずは精霊神様の神像へと向かう。
見知ったロランレフさんの姿を見かけ、優雅な一礼と少しの会話を交わしたのち、お祈り部屋へ。
変わらない白亜の小部屋の長椅子に腰かけ、丁寧に掌を組んで《祈り》を発動。
しばしリリー師匠との約束のことや、キングアースベアーとの戦闘のことをお伝えしつつ、引きつづき精霊のみなさんとご一緒できる感謝を伝えてから――いざ、新しい魔法の習得を!
キングアースベアーとの戦闘の改善点をふまえて、高い防御力をほこる敵をも貫く攻撃魔法を考えてみる。
例えば、するどい石を土の魔法でつくり出すことができれば、防御を貫くことができるのではないだろうか?
そこに風の魔法により回転や速度を加えると、少なくとも今使っているオリジナル魔法よりは、効果があると思う。
閃きは大切に。集中して、イメージをしていく。
近くの空中に、風をまとい回旋する硬い石の杭を出現させ、それを前方の複数の敵へと放つ――。
ずいぶんとイメージも慣れたもので、今回はすぐにしゃらんと美しい音が鳴った。
見やった眼前には、[〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉]と、もう一つ[〈ラ・フィ・ラピスリュタ〉]の文字がうかんでいる。
一つ目のオリジナル魔法はさきほどイメージした魔法に違いないが、二つ目の魔法は精霊魔法の表記で、こちらには心当たりがない。
不思議に思ったものの、以前の出来事から考えるに精霊魔法のほうはおそらく《祈り》により授かったものだろう。
効能に関しても、説明文を読むことであるていどの察しはつくのではないか、と予想する。
サッと開いた灰色の石盤で、まずは〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉のほうの説明文を確認。
「[無詠唱で発動させた、小範囲型のオリジナル攻撃系複合下級風兼土魔法。発動者の近くに回旋する硬い石の杭を三つ出現させ(一段階)、複数の敵に飛来し突き刺さる(二段階)。二段階の魔法操作が可能。無詠唱でのみ発動する]。これは上手く習得できましたね」
『あたらしいまほうだ~!』
『ぼくたちのもあたらしいよ~!』
『しーどりあ、みてみて~!』
「えぇ、さきほど授かった精霊魔法ですね」
オリジナル魔法のほうは、問題なく二段階発動が可能な魔法として習得できたのでよしとして。
小さな三色の精霊さんたちの言葉にうなずき、精霊魔法のほうも説明文を読み上げる。
「[小範囲型の攻撃系下級精霊魔法。土と風の下級精霊の力で、攻撃性を有する鋭い石を風圧で複数の敵へと飛ばす。詠唱必須]……なんと! こちらは、オリジナル魔法と近しい形の精霊魔法なのですね!」
予想外の嬉しい授かりものに、思わず声音が跳ねた。
オリジナル魔法に似たこの精霊魔法の意味は、小さな精霊の石風切り、といったところか。
心強い精霊魔法の習得に、口角が上がる。
『しーどりあのまほうと、にてる!』
『おそろい?』
『おそろい~!』
「ふふっ! はい、お揃い、ですね」
嬉しげに声を上げた精霊のみなさんが可愛らしく、つい笑みを零しながら紡ぐ。
これで、攻撃面はおそらく、なんとかなるだろう。
オリジナル魔法も上手く習得できた上、精霊魔法に関しては恩恵の補助もある。
もちろん恩恵に関しては、必ずしも発動するとは言えないものの、きっと手助けをしてくれる――そのような、安心感がいつもあるのだから。
微笑みを深め、改めて精霊神様へと感謝の祈りを捧げたのち、次の行動を開始する。
精霊神様のお祈り部屋を静かに出ると、次は天神様のお祈り部屋へ。
こちらも変わらず清らかな空気を思わせる小部屋の中、長椅子に座りまずは《祈り》を発動する。
しばしの祈りの後、瞳を開き出現させた石盤に語り板を映し、記憶を頼りに情報を確認していく。
「あ、こちらですね」
『どれ~?』
『なぁに~?』
『なになに~?』
見つけた情報を見つめて呟いた言葉に、三色の精霊のみなさんが石盤へと近寄ってくる。
興味津々な様子に笑みを深めながら、質問に答えるためにと口を開く。
「実は以前、回復魔法についてのある情報を目にしたことを、思い出しまして」
『かいふくまほう?』
「はい。どうやら、回復魔法や、補助系の中でもバフ効果のある魔法ならば、他のシードリアのかたにもかけることができるらしいのですよ」
『ほかのしーどりあにも、かける?』
『しーどりあが、しーどりあのおてつだい、する?』
「えぇ。せっかく新しい魔法を習得するのですから、いざという時、他のかたのお手伝いができるような魔法を習得したいと思います」
『おぉ~~!!!』
楽しげに響いた歓声を聴く限り、どうやら良案だったようだ。
わくわくとした雰囲気をただよわせる精霊のみなさんを見て、そう確信する。
であればさっそく、習得に取りかかるとしよう!
今回イメージするのは、範囲型の回復魔法。
光によって煌く小雨が、私と私の周囲にいる他の者たち、あるいは示した場所にいる者たちを癒していく様子を、想像していく。
開いた瞳に、キラキラと煌き落ちていく雨が映り、次いでしゃらんと効果音が鳴る。
美しい光景が消えていく様子に微笑みつつ、眼前に現れた文字を見やると、[〈オリジナル:癒しを与えし光の小雨〉]と書かれていた。
こちらも習得、大成功だ。
さっそくと開いた石盤の中、刻まれた説明文を読む。
「[無詠唱で発動させた、小範囲型のオリジナル回復系複合下級光兼水魔法。発動者の周囲、あるいは指定した地点に光りを宿した癒しの小雨を降らす。無詠唱でのみ発動する]――完璧ですね!」
あまりにもイメージした内容そのままに仕上がったオリジナル魔法に、思わず拳を握る。
ここまで想像通りの魔法が習得できると、嬉しさで頬がゆるんでしまうのも、当然と言って良いだろう。
ついにこにこと満面の笑みをうかべていると、精霊のみなさんもくるくると楽しげに舞いはじめる。
私が楽しむと精霊のみなさんも楽しくなり、精霊のみなさんが楽しんでいると私も楽しくなるのだから、私たちは本当に素晴らしい友情で結ばれているに違いない。
胸の内にさらに嬉しさを加えながら、天神様へと感謝の祈りを捧げる。
無事に回復魔法も習得できたことで、今後はよりいっそう戦闘も楽しむことができるだろう。
微笑みを深め、しばしこの喜びにひたりながら、祈りをつづけることにした。




