八話 装飾品とはじめての師匠
「さて、気になる情報もいただけましたし、次は装飾品のお店に行ってみましょうか」
『は~い!』
『かざりきれいなの~!』
『おみせ~!』
フィオーララさんの服の店を出た後、普通にその場ではおることができたマントをなびかせ、次はその斜め前にある装飾品の店へ。
さきほどの色の話しから発展した、魔石による魔法の威力向上についてさらなる情報があるかもしれない。
もっとも、単純に装飾品が気になるという気持ちもある。エルフの匠による細工は、さぞや美しいのではないだろうか、と。
そうして入った装飾品の店には、書庫でも見た白に近い薄緑色の蔓でつくられた長い机に、キラキラと煌くような繊細で綺麗な飾り物が並べられていた。
『まぁ! いらっしゃいませ、シードリア!』
一人きりの店内で、商品をそろりと並べなおしていたエルフの小柄な少女が、ぱっと後頭部で結った黄緑色の長髪を跳ねさせて振り返り、そう幼げな笑顔で歓迎してくれる。
ぱちりと交わった瞳は深い蒼色で、容姿はまだ幼さを残していた。
彼女しかこの場にいないということは、おそらく幼く見えても彼女がこの店の店主なのだろう。
にこにこと愛らしい笑顔で迎えてくれた、外見年齢としては十二歳ていどの少女に、少し慣れてきたエルフの一礼で挨拶をする。
「こんにちは。ロストシードと申します」
『まぁまぁ! リリーのお店へようこそ、ロストシード! あたしはリラルリシア! 気軽にリリーって呼んでね!』
「はい、よろしくお願いいたします、リリーさん」
無邪気な笑顔とぴょこぴょこと嬉しそうに動く様子が、とても可愛らしい店主さんだ。
こちらまで思わず笑顔になる。
お互いににこにこと笑顔を交わし合いながら、自然と視線は飾られた品々に移った。
『ここの装飾品は、ぜ~んぶあたしの手作りなの! ロストシードは、なにかほしい物があるの?』
「ええっと、実はそもそもどのようなものがあるのか、分からないからこそ立ち寄らせていただいた次第で……」
『まぁ、そうだったのね! ここには、指輪や腕輪、耳飾りや首飾り、それからブローチやマントとかローブとかの留め具もあるの! この森は奥に入らないと魔物とかもいなくて安全だから、魔石の性能はあまりたかくないけど、飾りとしてのキレイさは大老さまたちにもほめられたことがあるから、安心してかざってね!』
「なるほど、たしかにどの飾りもとても繊細で綺麗な細工ですね」
『えへへ、そうでしょそうでしょ?』
照れたようにはにかむリリーさんと、『かざりきれい~!』と言いながらくるくると指輪や首飾りの上を回っている精霊のみなさんを眺めつつ、新情報に好奇心がわき上がるのを感じる。
さすがは序盤も序盤のはじまりの地。
リリーさんが語ってくれた言葉通りならば、森の奥に入るまで、そもそもこの森の中の里と里の周辺は安全地帯なのだろう。
そしておそらく、その魔物もそこまで強くはないと予想する。
魔石が魔法の威力を向上させるのだというフィオーララさんの説明と合わせると、その魔石の性能が高くないということは端的に、この森の中では魔法の威力をそこまで上げる必要がないということだろうから。
思わぬ角度から入った情報に喜びつつ、改めて気になっていた魔石についてリリーさんにたずねてみる。
「あの、リリーさん、魔石とはこの……指輪に宝石のようにはめこまれているもの、ですか?」
『大正解よ! この緑色の魔石は、土から枝分かれした緑の属性の魔石で、この水色の魔石は、みためどおりの水の属性の魔石!』
「おぉ、ではこの緑の魔石は緑の属性の魔法の威力を上げるもので、水の魔石は水の魔法の威力を上げるものなのですね」
『またまた大正解~!! そのとおりよ、ロストシード!』
「認識が合っているようでよかったです。……そう言えば、魔石はどのように入手するものなのですか?」
『う~ん、魔石が手に入れられる鉱山や森や川もあるけど、いちばん簡単なのは、魔物をたおすことかな? 魔物は魔力をたっぷり身体にためてるから、それをたおすと身体は消えて世界にかえるけど、魔力の塊――つまり魔石は、のこされることがおおいんだって!』
「なるほど……魔物や魔石とは、そのようなものなのですね」
リリーさんの分かりやすい説明に聴き入りつつ、理解できることが増えていく感覚に笑みがうかぶ。
実は、魔物についてはもう少し詳しい情報を、書庫の本から学んでいた。
最初に読んだ魔法の本の後半に、魔法の属性と魔物の属性の話しが書かれていたのだ。
いわく、魔物が得意とする属性と同じ属性の魔法で戦うことは難しく、属性の相性に応じて魔法を使わなければならない、とのこと。
さいわい、このような設定自体はありふれたものなので、その点はすぐに理解できた。
そして魔物の属性とその魔物が倒された時に残す魔石の属性とは、おそらくだが同じ属性だろう、と予想しておく。リリーさんにたずねてみれば答えてくれるだろうが、これは実際に戦ったあとの、確認のお楽しみに残しておこう。
それとは別に、リリーさんには訊いてみたいことがあった。
「リリーさんの細工は本当にどれも素晴らしく見えるのですが、たとえば私がこのような飾り物を作ることは、できるのでしょうか?」
【シードリアテイル】に限らず、古き画面ゲームですら存在した要素――つまり、生産系の制作技術が学べるのかどうか。
私の素朴な問いかけに、リリーさんはその澄んだ蒼瞳をキラキラと煌かせた。
『ロストシード! あなた、細工技術に興味があるの!?』
「え、えぇ、可能なら私も作ってみたいと思いまして……!」
『まぁ!!!』
食い気味に迫ってくる小さな姿に、若干のけぞったのはご愛嬌。
すかさず目の前に伸びてきた小さな手に、首をかしげた。
すると、リリーさんは実に嬉しそうな笑顔で、こう告げた。
『あたしが教えるわ! 今日からよろしくね、ロストシード!』
晴れやかで愛らしい笑みと、差し出された手を交互に見比べて。
驚愕は、束の間。
リリーさん直伝の細工技術が学べるという幸運に、心底感謝して、その手を握り返した。
今から、リリーさんは私の細工技術の師匠だ。
「ありがとうございます! よろしくお願いします、リリー師匠!」
『えへへ~! 師匠だなんててれる! でもうれしい!』
かたく握り合った手を、嬉しさからなのか照れ隠しなのか、ぶんぶんと振られながらも、互いに笑い合う。
これは思いがけない良き収穫だ。
おそらく仕様的に、例えばフィオーララさんの所でも服を作る技術を学ぶこともできたのだろう。
とは言え、元々私が興味をもっていた生産系の技術は、この装飾品を作る細工技術と、物に魔法を付与する付与魔法の技術、そして生命力や魔力を回復させるポーションなどを作る錬金技術だ。
細工技術がリリー師匠のもとで学べるというのであれば、まさに渡りに船。
――存分に学ばせていただこう。