八十話 幕間五 やっぱり規格外だった
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
(幕間二のプレイヤーさんです)
※プレイヤーの閃きにより、ほんのりホラーっぽい瞬間がありますが、怖いものは出てこないのでご安心ください。
【シードリアテイル】で遊びはじめて二日目。
それも三日目にかわる時間が近づいてきたあたりで、パルの街からエルフの里に戻ってきてみた。
目的は、以前世迷言板で情報提供してもらった、お祈り。
パルの街にも神殿はあったけど、場所によっていろいろと変わったりすることも想定して、ここでお祈りすることにした。
入った真っ白な空間に、目がチカチカしそうになる。
パルの街の外のフィールドにいる敵は結構強くて、生命力をぜんぶ削られて神殿に強制転送されたことがあったから、眩しい空間なのはわかってはいたけど。
あの時は生命力を回復してくれた神官の人にお礼を言って、すぐにまた戦いに行ったから、こうして神殿の中をじっくり見るのははじめて。
色んな姿の神様たちの像を見て回り、とりあえず妖精族っぽい神様……たぶん精霊神様の像の後ろにある小部屋に入って、無事に《祈り》と新しい魔法を習得。
世迷言板で情報をくれた、ゲーム慣れしてそうな人に心の中でありがと、って言いながら神殿の外に出て、パルの街とは違う森の空気を吸い込む。
「んー! さぁて、これからどうしよっかな~」
『どこにいく~?』
「そうねぇ……」
一緒にいる風の下級精霊の言葉に、ふと神殿の後ろには何かあるのか、気になった。
「ちょっと後ろ、行ってみよっか」
『うんっ!』
森を指差してそう言うと、幼い声が元気に返事をする。
だいぶ慣れてきたやり取りに、足を動かして真っ白な壁伝いに森の奥、神殿の後ろ側へと進んで行く。
神殿の後ろにあるものと言えば、ゲームでお馴染みなのは――墓地よね。
もう夜の時間になってるから、ちょっとした肝試しみたいで、わくわくする。
さくさく進んで神殿の裏につくと……そこには変わらない森が広がっていた。
驚くほど、何もない。ちょっと期待した分、残念な気持ちになる。
ガクッと肩を落とし、それでも何かないかって森の奥を見た時。
――たしかに、何かが光った!
思わず飛びのいて、神殿の壁に身を隠す。
ホラーは好きだけど、怖いものは怖いし、普通に驚きもする。
しかも、さっきの光は青白い感じだったから、はじめて見るゴースト系の魔物かもしれない!
でも、正式サービス開始前の事前テストとかの情報では、ゴースト系はパルの街のその次の街でようやく出てくる魔物だって、調べた記憶があるのよね……。
壁に隠れながら森の奥をじっと見つめ、確認のために〈遠見〉を発動して――思い切り脱力した。
片手で顔をおおって、はあ、とため息を吐く。
……どこかで、もしかして、という予感がまったくなかったと言えば、ウソになるけど。
「まさか、あの人とはね」
小声で呟き、もう一度〈遠見〉を発動させてよくよく見てみる。
やっぱり、間違いない。
初日に世迷言板で、あたしたちに精霊と仲良くなる方法を教えてくれた、あのロストシードさんだ。
あの青白い光は、彼が使っている魔法だったみたい。
ゴースト系の魔物じゃなかったことを残念に思えばいいのか、それともあのロストシードさんが魔法を使っている姿を見ることができたことを、貴重だと喜べばいいのか……。
とりあえずジト目で観察をつづけていると、また青白い球体状の魔法を発動して、すぐに消したのが見えた。
――明らかに、どこからどう見ても、知らない魔法だ。
語り板でも、あんな特徴的な見た目の魔法は語られてなかった。
つまり、オリジナル魔法か、あるいはレアな魔法ってとこかな。
一瞬頭をよぎったネタバレ対策は……わざわざ隠れて使っているから、してくれているのは分かる。
だからネタバレ問題に関しては、これはもう見てしまったあたしの問題になるわけだけど。
……それはそれとして、あの魔法、なに?
そもそもあんまりネタバレを気にしない分、そっちのほうが気になるんだけど!!
繰り返し発動してはすぐに消される魔法を、何度見てもさすがにあの一瞬だけだとどんな魔法なのか想像もできない。
青白い色の中の白は銀っぽくも見えるから、風属性の魔法かとも思ったけど、それにしては球体の真ん中は黒で、もしかして闇属性だったりするのかも……?
しばらく見つめてみたものの、それ以上のことはさっぱりわからないままで。
ふわっとした、風の下級精霊が肩に乗る感覚で、壁から乗り出しそうになっていた身体を慌てて引き戻した。
いや、そもそもわざわざ隠れて魔法の練習? をしている人の様子を、いつまでも盗み見しているのはよくないか。
いっそ声をかけに行ってみようか、とまで思ったけど、やめておく。
「触らぬなんとかに、って言うしね」
静かに立ち去りながら、小さく独り言を零す。
色々な先駆者になっていそうな気配と、予測不可能な行動。
やっぱりどう考えても、規格外な気しかしないあの人が、よく分からないけど隠れて何かをしている。
――そういうのには、触れないほうがいいでしょ。
「ま、パルの街に来てくれれば、また話す機会もあるわよね」
『ね!』
再三の呟きに、風の子が右肩で同意してくれる。
まぁ……あの人がいったいいつパルの街に来るのかが、一番分からないんだけど。
※明日は、
・三日目のはじまりのお話し
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




