七十七話 星魔法の練習をしよう!
※ウルフが倒される描写あり!
食事と寝る前の準備を終わらせ、再び【シードリアテイル】へとログイン。
現実世界から没入ゲームへと感覚が移り、瞳を開くと小さな三色の精霊さんたちの可愛らしい声が響いた。
『しーどりあ、おかえり~!』
『おかえり~!』
『あそぼ~!』
「――はい、ただいま戻りました。この後はさっそく、星魔法の練習をおこなおうかと」
『わ~い!!!』
寝心地の好いベッドから起き上がり、みなさんにそう紡ぐと、くるくると嬉しげな舞を披露してくれる。
微笑ましさに口元をゆるませながら、すっかり慣れた一連の流れをおこなう。
多色の小さな精霊さんたちを〈フィ〉でお呼びし、〈ラ・フィ・フリュー〉を展開。みなさんにはかくれんぼをしてもらい、脚にまとった〈オリジナル:敏速を与えし風の付与〉も隠蔽する。
《並行魔法操作》で発動することができる残り一つは、戦闘時に使う星魔法や他の魔法のためにあけておく。
「さぁ、この夜も楽しむといたしましょう!」
『しょう~!!!』
三色のみなさんのかけ声に合わせ、宿屋から出て神々にお祈りを捧げ、神殿を後にする。
そのまま宵の口の薄暗さが深まる対面の森へと入り、枝の上を移動しながらウルフたちのなわばりの中でも、人気のない場所を探し出す。
食堂の裏側の森から、星の石がある方向に幾分か近しい場所ならば、ホーンウルフの群れも少なく他のシードリアもいないようだ。
「では、今日はここで戦いながら魔法の練習をしますね」
『は~い!』
『がんばって、しーどりあ!』
『おてつだいもするよ~!』
「えぇ、ありがとうございます、みなさん。ええっと……まずは、星魔法の消費魔力量の確認、それから感覚に慣れていきましょうか」
これからおこなうことの伝達と確認、よし。
――いざ、星魔法の練習開始!
枝の上から、〈遠見〉でざっと遠くにいるホーンウルフの群れを確認し、近づいてきたところで手飾りをゆらして右手をかかげ、魔法名を宣言する。
「〈スターリア〉」
サッと振り下ろした右手と共に、頭上から美しくも脅威を宿す流れ星が一つ、群れの先頭にいたホーンウルフへと流れて貫き、掻き消す。
忘れずに見やった視界の左上にある魔力ゲージは、オリジナル魔法を発動する際に消費する魔力量の倍には届かないものの、やはりそれに近しいほどには魔力を消費していた。以前使用した時に感じた予想は、どうやら当たっていたらしい。
つづけざまに、もう一つの星魔法も発動する。
「〈スターレイン〉」
ゲーム世界から現実世界へと戻る時の感覚に近しい、重力体験型の加速遊具で遊ぶ際に起こる、ぐっと不思議な圧がかかるような発動感覚に、まだ少し戸惑う。
しかし発動さえしてしまえば、さすがは必殺の一撃。こちらへと向かって遠くから駆けてくる、残り四匹のホーンウルフたちへ、五つの星が流れ落ち……またたく間に敵を消し去った。
ふぅ、と出てもいない額の汗をそっとぬぐう。
「やはり、発動感覚が違いますね……」
思わず呟きつつ、ふぅむと口元に片手をそえる。
無詠唱によって発動するため、既存の魔法よりも多く魔力消費をしているはずのオリジナル魔法の発動感覚は、もっとなめらかにするりと移動する、ふわりとうくような感覚なのだ。
――どうやら、一度に消費する魔力量によって感覚が変わってくるという部分も、【シードリアテイル】の醍醐味らしい。
ふっと口角が上がり、微笑みがうかぶ。
「魔力の総量が増えることで、また感覚が変わってくるかもしれませんね」
『まりょくいっぱい、いいこと~!』
『いいこと~!』
『だいじなこと~!』
「たしかに、魔力量は多いほど好いと思います。その分、魔法が使えるということですからね!」
一瞬で満ちた高揚に、思わず声が弾んだ。
魔法そのものに深いロマンを感じる者の一人としては、必然的に魔力量は多いほうが好ましいと思ってしまうもので、こればかりは仕方がない。
気を取り直し、二集団目のホーンウルフを星魔法で倒した後、リンゴーン、しゃらんとなにやら立てつづけに効果音が響く。
レベルアップは十八から十九に上がったことが明白なので横に置き、眼前にうかぶ光る文字たちに注目する。
「《夜戦慣れ》に《存在感知》、ですか。内容は……《夜戦慣れ》のほうは[夜の闇に慣れ、暗闇での戦闘時により見通し察知して戦うことができる。常時発動型スキル]。なるほど、夜に戦っていたことが習得に繋がったのでしょうね」
素早く灰色の石盤を開き、スキルの説明文を読み上げて、納得。
そう言われてみると、昼間よりも夜に戦闘をしていた回数のほうが多い。なにせ、初陣が夜だった。
うんうんと誰にともなくうなずきつつ、《存在感知》のほうも読み上げる。
「こちらは、[潜み、見えざる存在を感知する。シードリアには無効。常時発動型スキル]、と言うことは――奇襲攻撃を回避できますね!」
『お~~!!!』
小さな三色の精霊さんたちの歓声に、力強くうなずきを返す。
これはずいぶんとありがたいスキルだ。
先の討伐依頼の際、ホーンウルフに奇襲された記憶はまだ新しい。
あの時は風の精霊のみなさんによる恩恵が音を届けてくれたことで、かろうじて攻撃を防ぐことはできたものの、逆に言ってしまうと恩恵がなければ対応が間に合わなかったはずだ。
改めて《存在感知》と刻まれた文字を見つめ、微笑みを深める。
これで、自身で対策ができるだろう。
……まぁ、シードリアには効果が無いとのことなので、引きつづき人目には気をつけなければいけないわけだが。
つい微妙な表情になりかけて、軽く頭を振る。
その点に関しては、ネタバレ以外では私自身が目立つと気恥ずかしいので、致し方ない。
一応基礎情報のページも開き、間違いなくレベル十九になっていることも確認し、さっそく《存在感知》で周囲を索敵してみるものの、ホーンウルフは近くにいないようで。
さてどうしたものかと考え――はっと閃く。
「発動の練習だけならば、発動後すぐに魔法を消すことで可能なのでは!?」
思わず上げた声が、宵闇の森に響いて行った――。




