六十二話 幕間三 すごいはずなのに謎な人
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
最新の没入ゲーム【シードリアテイル】がはじまって、二日目の朝。
「マジか!? もう次の街にいけるとか、すごすぎねぇ!?」
語り板を見て、声を上げるくらいおどろいた。
ゲーム開始二日目で、別のマップにいけるとか、そんなゲームあったんだな。
「おれも早くいきてーなー!」
めちゃくちゃ楽しそうだし、なんて思いながら【シードリアテイル】にログインする。
『しーどりあ! おかえり~!』
「おう! ただいま!」
銀色の小さいホタルみたいな、風の下級精霊にあいさつして、ログイン地点の森の中をみまわす。
昨日はたしか、アースウルフを倒してレベルを九にしたあと、カフェみたいなでかい建物が見えるここまでもどってログアウトしたんだった。
「今日もとりあえずはレベ上げするかあ」
『うるふたおす~?』
「おう! 行こうぜ!」
『わ~い!』
風の下級精霊と話しながら、かるく走りだす。
エルフの身体ってすげぇかるくて、動きもはやい。
だから思い切って武器は剣をえらんだけど、おもったよりずっと戦いやすくてびっくりした。
いつもの狩り場まで走ったら、他のプレイヤーのジャマにならないようにだけは気をつけて、三匹の小さな群れでおそってくるアースウルフを剣と魔法で倒していく。
これはもう昨日からやってることだから、朝飯前ってやつだ。
魔法で足止めしたり、すきをつくって、そこでいっきに剣を使って倒すのをかなりの数くりかえして、よーやくレベルが十になった!
「うっし! ちょっと休憩するかあ」
出てない汗をぬぐって、狩り場から走ってはなれたあたりで、つんつんと手をつつかれる。
「お? どうした?」
はじめての反応をした風の下級精霊にきくと、小さい子どもみたいなかわいい話し方で、パルっていう次の街にいけるようになったっておしえてくれた。
「マジで!? どうやったらいけるんだ!?」
『こっち~!』
びっくりしてきいたら、案内してくれるみたいに里の中にはいっていくから、あわてておいかける。
里にはいると、おれ以外にもそこそこな数のプレイヤーが下級精霊に案内してもらってるみたいで、ぞろぞろとみんなして歩いていく。
……そう言えば、たくさんのプレイヤーが見えるけど、あの人はいないな。
昨日の夜、世迷言板でおれたちに精霊となかよくなるコツをおしえてくれた、やたらと精霊がくっついてたきれいな男の人。
たしか、グラデーションのかかった長い金髪だったとおもうけど……やっぱりいない。
ってことは、もうパルの街ってところにいってるんだろうな。
すごい人の背中をおってるみたいで、わくわくしてきた!
みんなと一緒に里の入り口まで歩いて、そこで移動はおわり。
へんな石の像が、次の街にいくための装置ってことを風の下級精霊とか、まわりの人たちの話し声からきいて、めっちゃテンションが上がった!
あの丸い蒼い石に手をあてたら、一瞬でパルの街にいけるとか、やばい。
おれもはやくやってみたい。でも、順番は守らないとな。
ざわざわとした空気の中、ひとりずつ転送? していく前のほうの人たちがうらやましい。
なんとなく、気になってうしろのほうを見て、やっぱりけっこううしろにもプレイヤーいるな~って思ってたら……見つけた。
世迷言板で精霊のことおしえてくれた、あの人だ!
ちょっと信じられなくて、二度見してみたけど、やっぱりあの人だ。
下級精霊を三体もくっつけてるプレイヤーなんて、ざっとみただけでもやっぱりあの人以外はいないし。
でも――なんでまだ里にいるんだ?
じっと見るのは失礼だから、顔は前向きにもどしたけど、頭の中は謎に思うことばかりがうかぶ。
てっきりあの人は攻略系のプレイヤーで、昨日の夜にはパルの街にいってるんだとおもってたけど、うしろにいるし。
もしパルの街にいってたけど、かえってきてるんだったら、逆にここに不思議そうな顔して見にきてる意味がわからねぇ。
そーいえば、一度も広場で魔法を練習してるところとか見たことがないけど、魔法とかおぼえてるのか?
てか、レベル上げに最適っておれでもしってる、カフェみたいなでかい建物の奥の森でも、そういえば見かけたことがない。
そこまでかんがえて、もしかして、実はそんなに戦闘とかしてなくて、レベルが上がってなかったりして……ってとこまでいきついた。
や、でもそのわりには、身につける装飾品とかふえてるしなあ……。
あの装飾品の効果をつかって、魔物倒してレベ上げしてないんだったら、ただ店で買い物してただけってことになるけど。
さすがにそれは、ないだろ。うん。
精霊となかよくする方法をおしえてくれるような人が、そんな……や、もしかして、逆にすげぇほのぼのするのが好きなプレイヤーだったり?
だんだん混乱してきた。
世迷言板で精霊のことおしえてくれたときには、めっちゃすごい人!! っておもったんだけど……。
なんか、おもってたよりずっと、謎な人なんだなあ。
もう一度うしろをチラ見してから、前に進む。
ワープポルタ、だっけ? パルの街に転送してくれる石の像の前に立つ順番が、やーっとまわってきた。
きれいな蒼い丸い石に手をのばしたら、いっきに輝いて――ざわってにぎやかな音がきこえて目を開けたら、もう街の中。
「すげぇ!」
『わ~い! ぱるのまち~!』
風の下級精霊と一緒に、里とはなにもかもがちがう街を見てさわぐ。
見たことがないものばかりで、すっげぇたのしくて。
あの人もはやく街に来れたらいいな、なんておもった。
※明日は、
・二日目のつづきのお話し
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




