四十七話 幕間二 精霊と仲良しな情報通のあの人
※主人公とは別のプレイヤーの視点です。
浮遊感――その後目を開いて、明らかに森の中とはちがう街並みに、世迷言板を引っ張り出す。
もう見慣れたエルフたちの世迷言板に、さっと文字を打ち込んだ。
[今、次の街に来ました]
これは、ちょっとした情報共有。
すこしだけ待っていると、会話が進みだす。
[え! 次の街ですか!?]
[はい。詳細ははぶきますが、レベル十になると行けるみたいですね]
[そうなのですね! すごい! 楽しみになりました!]
[街は里とくらべるといろいろ違っていて、新鮮なので楽しめると思いますよ]
[わ~! 気になります!]
[同じく気になります。もう他のみなさんも、けっこう次の街に行ってます?]
一対一だった会話に加わった人からの問いに、すぐに返事をしていく。
[いいえ。たぶんですけど、まだそんなには来てないと思いますよ。他の種族の人たちとかも、語り板とか世迷言板を見る限り、今この街についているのはかなりやりこんでいる人たちみたいですから]
[そうなのですか!?]
[なるほど。なら攻略系の人たちですかね?]
あたしと同じく、ゲームを遊び慣れていそうな言葉に、分かりやすく付け加える。
[それと、戦闘が好きな人たち、ですね]
[あ~]
[えっと、ずっと戦っていたら、今日だけでもレベル十まで行けるのですか?]
[そうですね。というより、一番効率がいい経験値稼ぎが戦闘でした]
[戦闘すごい!]
[なるほど。生産職のスキルとか習得するより、無難に戦闘したほうがレベルをはやく上げたい時には効率がいいんですね]
[と、思います。ただ、あくまで初日現在は、ですね]
[参考になります! ありがとうございます!]
[ありがとうございます。あ~でも、神殿でお祈りするのはちょっとオススメしておきます]
[神殿でお祈り……あっ、本に書いてました!]
新しい土地へ移動することと比べた上でオススメされた内容と、つづいた気になる言葉にいそいで文字を送った。
[お祈り? 本?]
[本? 本が読める場所とかありました?]
[あっ、えっと、里の入り口の、一番近くにあるお家の本が読めます! 大きな木で本を読んでいるクインディーアさんというキャラクターのかたに、声をかけたら読ませてもらえました!]
「そんなことあるのね」
まったくの未知の情報に、うっかり独り言が出る。
[そうだったの? ぜんぜん知らなかった……]
[同じく。よくそんな要素見つけましたね。凄いな]
[あ! いえいえとんでもない! わたしも他のかたがそうしているのをぐうぜん見て、それで!]
[そうなのね。でも、情報感謝です]
[感謝です。いいことを聞けました]
[いえいえ!]
そこでふと、数時間前の世迷言板で起こったやり取りを思い出した。
精霊に話しかけることで、精霊と仲良くなれるってことを教えてもらったそのやりとりで、情報をくれたあの人なら、ノンプレイヤーキャラクターにも普通に話しかけていそう。
本について教えてくれた子は、たぶんあの時の会話に参加してたっぽい雰囲気があったから、問いかけてみる。
[……あの、もしかしてその他のかたって、前の世迷言板で精霊について教えてくれた人だったりします?]
[あ! そうです! あのかたです!]
[やっぱり]
ビンゴ。やっぱりあの人か。
金色からすこしずつ白い薄い色に変わっていく綺麗な長い髪をゆらしながら、下級精霊を肩とか頭にのせて移動してた、あの変わった人。
あの人から教わった精霊と仲良くなる方法を試したら、あたしも一体だけとは仲良くなれて、今もそばにいてくれているけど……。
――あれは、間違いなく別格だと思う。
すぐそばでふわふわういている風の下級精霊を眺めながら、世迷言板の会話も見る。
[あ~、それ知らないな。ちょっと見てきます]
後から会話に加わったこの人、ゲーム情報とか調べていそうなのに、知らなかったのね。
意外だけど、そう言えばあれは数時間前のやりとりだから、そこまでさかのぼって見るのって普通はたいへん。
健闘を込めて送り出しておこう。
[いってらっしゃい]
[いってらっしゃいませ! あのお兄さんのおかげで、わたし本からいろいろなことを学べました!]
さもありなん。
精霊と仲良しなあの人、絶対いろいろ情報収集してると思う。
というか実際に、装飾品のお店の可愛い店長さんを師匠呼びしてたし。
[あの人、いろいろなことを試しているみたいだったから、他にも何か知ってるかもしれませんね]
[ですねですね!]
[見てきました。その人、神殿にいたのを見ました]
――神殿、ね。
そう言えばこのゲーム慣れしてそうな雰囲気の人、さっき神殿の話しをしようとしてたね。
[おかえりなさい。神殿?]
[おかえりなさいませ!]
[ただいまです。あ~っと、さっきの神殿でお祈りするといいって話に戻るんですけど。ちょうど神官のキャラと話してる時、例の人とすれちがって。
その時に、神官のキャラから祈りの部屋でお祈りしてくれる人が増えてうれしいってきいて、試しに部屋に入って祈ってみたら、スキルと魔法をもらったんですよ]
「まじか」
おっと、またうっかり独り言が。
完璧に見落としていた部分だったから、一回里に帰って試しておこうかな。
[それはすごい]
[えー! すごいですね!]
[そういえばあの時、例の人その祈りの部屋から出てきたので、その時にはもうこの情報知ってたのかも?]
思わず、ジト目になった。
いや、本のことを教えてくれた子が、精霊と仲良しなあの人がそうしていたのを見たから本を読んで、情報収集をしたって言ってたわけだから、あの人が知っているのは何もおかしなことではないんだけど。
……ただ、いったいどれくらいの情報を知っていて動いているのかは、気になったりする。
[攻略系並みに情報通ですね、あの人]
[お兄さんすごいです!!]
[同じく、色々すごい人なんだなと思いました]
ここでいったん、会話が途切れる。
夜にそまる街を吹き抜ける、夜風がすずしい。
何とはなしに今日一日を振り返りながら、ふと思い出す。
たしか、装飾品のお店の店長さんが、あの人の名前を言ってた。
――ロストシードさん、だったかな?
すぐにこの街にも来るんだろうなって考えて、また変わったことをしているのを見る時が、ちょっとだけ楽しみになった。
※明日は、
・二日目のはじまりのお話し
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




