四十四話 見えざる盾をまとう腕輪
お次にと見やったのは、男性にしては細く白い左腕。
正確には、左手首に飾っている、銀の腕輪だ。
私の一作目の装飾品であり、風の魔石と純性魔石の二つの魔石をはめてつくった、風属性の魔法の威力を高める効果をもつこの腕輪。
これに――付与魔法をかける!
「物にかける意識をすることで、装飾品に魔法を付与することができるはず……ですよね」
誰にともなく、そう呟く。深みを帯びた高めの声音が、するりと耳に届いた。
思案する時、この作り上げた好みの声音は思考を決して邪魔しない点が、思わぬ副産物としてさらに好ましく思う。
とは言え、今は自身の声音に癒されている場合ではない。
この銀色に煌く腕輪にふさわしい、付与する魔法を考えなくては。
「うぅん……どのようなものがいいのでしょうかねぇ……」
腕を組み、片手を口元にそえながら思案する。
一応、この銀の腕輪をつくることを思いついた際に、閃いた案はあった。
テルさんは、魔法自体を物に付与する付与魔法はそこまで難しくないのだとおっしゃり、私も自身の脚にまとわせる高速移動を可能にした風の付与魔法を習得している。
つまるところ、今の私でも何らかの効果を持つ魔法を、この腕輪に付与することは可能であるはずなのだ。
そのような点をふまえて、では腕輪につける魔法の効果として思いつくものといえば、案外単純なもので……。
「純性魔石で持続展開させる風の盾をつけるか、魔力をとおした際に風の攻撃をするようなものをつけるか……」
いくつかの案を吟味しつつ、せっかくなので小さな風の精霊さんにもたずねてみる。
「小さな風の精霊さん、少しおたずねしても?」
まだ声に出して呼び表していなかった、クインさんたちノンプレイヤーキャラクターのみなさんが表現する下級精霊さんへの呼び方で声をかけると、他の二色の精霊さんたちの中からすぅっと風の下級精霊さんが近づいて来てくれた。
『なぁに? しーどりあ!』
「えぇ、実はこの風属性の魔法の効果を高める腕輪に、どのような風の魔法を付与するかで悩んでおりまして。――風の精霊さんは、どのような魔法がお好みですか?」
今までの三色の精霊さんたちの言葉から、みなさんが好むものこそが私にとって必要であったり、役立つものだったりしたことをふまえての問いかけに、風の精霊さんはふらふらとゆれながら思案する様子を見せる。
そののち、くるりと小さく一回転して、元気な声を響かせてくれた。
『しーどりあを、まもってくれるまほうがいいよ! まものをたおすなら、ぼくたちがてつだう! まもるのは、ちょっとむずかしい~!』
「なるほど……ありがとうございます、とても参考になります。たしかに、戦闘時はみなさんにお手伝いしていただくほうが、腕輪に付与した魔法を放つより、威力の高い攻撃が可能でしょう。それならば、難しいとおっしゃる分、護りの魔法を付与するほうがよいのですね」
『うんっ! そうだよ~!』
少々つたない表現であっても、理解することはそう難しくはない。
明確な提案に感謝しつつ、私なりの解釈を言葉にすると、小さな風の精霊さんは嬉しげに声音を跳ねさせた。
同時に記憶をたどり、そう言えばいまだ防御系の精霊魔法と巡りあえていないことを確認する。
風の精霊さんの言葉通りならば、もしかすると風の精霊、あるいは下級精霊や精霊さんたち自体が、防御系の精霊魔法を苦手としているのかもしれない。
新しいこの情報が、これから先の冒険でどのような意味や状態になるのか、今から心が弾む。
何はともあれ、これで腕輪に付与する魔法の種類は、防御系で決まった。
あとはどのような内容の魔法にするかだが、ここはシンプルに最初に考えていた風の盾にしよう。
ただ今回は――風魔法の可能性を、追求することをつけ加える。
そっと瞳を閉じ、祈る時のように心を落ち着けていく。
実際にスキルの《祈り》は発動しつづけているが、今からイメージするのはオリジナル魔法のほうだ。
右手でそっと左腕の腕輪に触れる。
冷たいつるりとした金属の感触に、編み込みの凹凸と、かすかなそよ風をまとう丸い風の魔石の涼しさ。
ここに、風の魔法特有の銀色の魔法痕を隠して、見えないように透明な状態になった、持続する風圧の盾をまとわせる。
攻撃的なものが近づくと、軽いものならば弾き飛ばせるほどに強い風圧が、見えないようにぐるりと腕輪に付与されている、イメージ。
ふっと開いた瞳で、しっかりと右手で触れている左手首の腕輪を見つめ、もう一度はっきりとイメージすると――刹那、涼やかで力強い風の流れのような感覚に、右手の指が押し上げられた。
腕輪からふわっとういた右手を不思議な心地で眺めると同時に、しゃらんと綺麗な効果音が響く。
見やった空中には、[〈オリジナル:見えざる護りの風盾の付与〉]と刻まれていた。
ぱっと表情が華やぐのを自覚する。
素早く石盤を開き、魔法のページの中にある新しく習得した付与魔法を見つけ、説明文を思わず声に出して読み上げていく。
「[無詠唱で発動させた、付与型のオリジナル防御系下級風魔法。銀の色を隠した風圧で身を護る盾の付与。無詠唱でのみ発動する]。ひとまず、魔法自体は想像通りです、が……?」
呟きながら、そう言えば装備に魔法が付与されている、といったたぐいの情報はどこで見られるのかと疑問が湧いた。
――こういう時は、イメージをして開けばいい。
種族特性を探した時の学びを活かし、装備や付与した魔法の確認、といったイメージをすると、パッと名前やレベルが刻まれている、基礎情報のページが開いた。
すっと視線を下げると、下のほうに種族特性と並び、[装備情報]と刻まれている。
そう言えば、この装備情報の文字自体は以前からこのページにあったものだったが、内容を確認することを失念していた。
意識をして装備情報のページへと切り替えると、初期装備である服やズボン、カバンや靴をのぞいた、マントと手飾りと髪飾り、そして腕飾りである腕輪の文字が明滅している。
その腕輪の文字を意識すると、スキルや魔法の説明文と同じように、すらすらと文字が追加された。
[名無しの腕輪
風の魔法の効果を少し高める腕輪。
純性魔石がはめられており、風の魔石の補助や、付与魔法の持続発動に使用できる。
シードリアの、ロストシード作。
第一作。
状態:持続的な〈オリジナル:見えざる護りの風盾の付与〉の付与状態]
最後の一文を目でなぞり、ほっと安堵の息を零す。
装飾品への付与魔法の付与も、無事成功だ!
そろりと落とした視線が、銀色に煌く腕輪を映す。
何も見えない腕輪のすぐ近くの空間で、時折銀色の帯のような流れがうっすらと見えるが、これは風の盾の魔法痕だろう。
どうやらオリジナル魔法といえども、《隠蔽 一》などのスキルのように、完全に魔法の痕跡を消せるわけではないようだ。
とは言え、付与した装飾品が銀色の煌きもまばゆい腕輪であるため、この魔法痕が目立っているようには見えない。
少なくとも風魔法ならば、その魔法自体の発動をそれとなく隠した状態のオリジナル魔法をつくることは、一応は可能だと考えていいだろう。
他の魔法でも、もしかすると似たような状態のオリジナル魔法を生み出すことができる……かもしれない。
それはまた、今後のお楽しみ、というものだ。
見えない風の盾をまとった腕輪をかかげるように、左腕を上げる。天井から降り注ぐ白光の明かりが、銀色をキラリと煌かせた。
ふっと、微笑みがうかび、喜びが胸に満ちる。
付与魔法の楽しさと、装飾品作りの楽しさ。
どちらも、私にとってはとても好奇心をくすぐるものなのだと、改めて再認識をした。




