四百三十八話 真なる殲滅戦
※戦闘描写あり!
一瞬の浮遊感の後、地に足がつく感覚と共に、パッと閉じていた緑の瞳を開く。
戦闘音が少し遠いここは、イベントの開始地点にあたる、高台の上。
昨日の最後の殲滅戦を切り上げた後に、ここでポーションを露店販売すると言う、新しい楽しみを発見した。
結果、この場で一時間の区切りの強制帰還を迎えたため、本日一回目の参戦時にこの位置に転送することは、想定済み。
安全地帯と言う利点を活かし、すぐさま準備を整える。
「〈フィ・ロンド〉」
『せんとうかいし~~!!!!!』
精霊のみなさんとの共闘を願う精霊魔法を唱えると、小さな五色の精霊さんたちがくるりと頭上で円を描く。
他の魔法は、レギオン【タクティクス】の戦友たちと合流してからにしよう。
最後に、近くでこちらの様子を眺めていた、露店を開いている生産系プレイヤーのみなさんに軽く会釈をしてから、前方へ駆け出す。
夜明けの美しい薄青の光が降り注ぐ戦場を、風を切って走り抜け、やがて奥へとたどり着くと、すぐに【タクティクス】のみなさんを見つけた。
急いで最前列へと合流し、ディアさんに声をかける。
「お待たせいたしました!」
「待っていたよ、ロストシード。
君はアドルフの横で、思う存分戦って」
「――心得ました!」
優しげな表情のまま杖を振るい、強力なオリジナル魔法をくり出すディアさんの言葉に、不敵な笑みで了承を返す。
タッと素早く、前方のアドルフさんが浮かぶ場所から、少し距離をあけた左側へと移動して、押し寄せる魔物を前に息を吸った。
開いた口から発するべき魔法名は、すでに決まっている。
「〈プルス〉!」
穢れを祓う白光が、周囲一帯の魔物たちの姿をおおい隠す。
特効攻撃である、浄化魔法の奔流にのみ込まれた魔物たちは、一瞬でその姿を消滅させて、周囲は空白地帯と化した。
「さぁ――殲滅をはじめましょう!」
『せんめつ、かいし~~!!!!!』
戦意を宿す宣言に、頭上で円を描く可愛らしい精霊さんたちまでもが、やる気に満ち満ちた声を上げる。
けれど今日からは、これでいい。
今日からイベントが終了するその瞬間まで――遠慮など消し飛ばして、この魔物たちを殲滅するのだから!!
ゴオォと低く響く旋風の音と、小さな雷鳴を引き連れて、この身を囲むように発動させたのは、〈オリジナル:雷石旋風の攻防円環〉。
雷光と大量の小石を交ぜて高速回転する、広い帯状の円環が、攻防一体の効果を宿して、継続的に安全地帯を確保してくれる様を横目に確認したのち。
ジオの森や大草原にいた、すっかり姿が見えるようになっている魔物たちへと、不敵な笑みのまま魔法を放つ。
先手を取って、浮遊球体の魔物たちを〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉による計十八本の雷矢で撃ち落とし。
巨大兎や、昨夜速さ勝負をした爆走鳥は、〈オリジナル:残痕刻む雷花水の渦〉で、雷光と毒のある花弁を混ぜた流水の渦で包み込み、残留する麻痺と毒と感電効果を与える。
そうして動きをにぶらせてしまえば、こちらのもの!
横で戦闘をしている、アドルフさんやアリーセさんと視線を交わしながら、次々と範囲魔法を放ち、一歩一歩確実に前進して行く。
姿が見える魔物たちが減ると、次に襲い来るのはいまだ穢れの色に染まり、本来の姿が見えない魔物たち。
さまざまな形をしている雑多なこの魔物たちへは、特効攻撃である浄化魔法や星魔法を、遠慮なく降り注がせる。
事前に飲んだ攻撃力向上ポーションの効果と、神々に願った恩恵がしっかり発動して活躍する戦闘は、もはや爽快感さえともなう!
合間に放たれる精霊魔法も、より確実に魔物へと突き刺さっており、精霊さんたちの絶好調が伝わってくるかのようだ!
後方にいるディアさんや【タクティクス】の戦友がたからも、援護に魔法や矢が届けられ、これが集団戦の強さか、と思わず感嘆の吐息が零れた。
感覚的な話ではあるが……この全力を出した殲滅戦の場合、合計二時間半くらいで、一日のイベント評価上限に到達してしまうのではないだろうか?
普段はもう少し遅く流れる戦闘時間さえ、今はまたたく間に感じる。
これこそが――真なる殲滅戦と呼ぶべきものだったに、違いない!
高まる私の戦意を褒めるかのように、次々と発動する恩恵に、不敵な笑みが深くなる。
途中で朝へと切り替わり、小さな闇の精霊さんと短くまたねを交わして姿を見送りながらも、引き続き効率よく討伐数を稼いでいく。
戦闘の合間に、自作の魔力回復ポーションを飲み、確実に魔力を回復することも忘れない。
そうして小休憩を挟みつつ、チラリと空にも視線を飛ばす。
この場所から見上げると、空はすっかりと舞い飛ぶ魔物たちにおおわれて、朝の光がほとんど届いていない。
〈プルス〉の浄化効果で周囲の魔物を減らし、この間にと空へ右手をかかげる。
「〈スターレイン〉!」
凛と唱えた魔法名に応えて、天から降り注いだ五つの流星が、複数の魔物を穿ち消す。
ふと視界の端に、私が放った〈スターレイン〉とは別の〈スターレイン〉――他のシードリアが放った星魔法が見えて、少し驚きながら地上の戦闘に戻る。
私が知る限り、星魔法を使う私以外のシードリアは、サロン【ユグドラシルのお茶会】のお仲間である、幼げな少女ステラさんだけ。
もちろん、私やステラさんが習得しているのだから、他のシードリアが習得していること自体は、何もおかしなことではないのだけれど……。
「今の星魔法……何やら物凄く連発していたような……?」
『ぴかぴかいっぱいだった~~!!!!』
「ですよね?
〈プルス〉!」
白光で空白地帯を確保しつつ、思わず首をかしげる。
さすがに、ステラさんはあれほどまで、間髪入れずに星魔法を連発するような戦い方をするかたではないと思う。
となると……やはり、私の知らない星魔法の使い手のかたが、あの流星雨のような星魔法連発戦法を使っていた、と言うことになる。
その事実に、胸に湧き出たのは、好奇心と感心。
いったいどのようなシードリアが、あれほどまでに鮮やかな星魔法の戦法をもちいていらっしゃるのか、好奇心がうずく。
それと同時に、今まさにこの殲滅戦で有効な戦法に、思わず深く感服した。
「――私も試してみます!」
『しーどりあ!?!?』
感動のあまり、勢いのまま星魔法を連発して、可愛らしい精霊さんたちと【タクティクス】のみなさんから、何かあったのかと心配されたのは……ご愛嬌ということでっ!




