四百三十六話 番外編八 Per asprera ad astra(困難を克服して栄光へ)
※現実世界でのお話です。
※少しだけ飯テロ注意です。
朝の空気に目を覚まし、ぐっと伸びをして眠気を散らす。
今日も今日とて、日課の散歩をしっかりとこなしながら、その途中で軽く目を通そうと、空中に出した情報の中。
【シードリアテイル】の公式情報をチラリと見て――華麗なる二度見を決めた。
「なん、だと……!?」
動揺のあまり、どこかのキャラクターが告げるような言葉が口から出たのは、一周回ってむしろ冷静なのかもしれない。
いやまったく冷静ではないのだが。
とにかく今は、おかしな発言を訂正する時間も惜しい。
間違いなく、のんきにゆったりと散歩を楽しんでいる場合ではない、と言うことだけは確かだ。
それでも運動は大切なので、今日は駆け足で散歩を終わらせ、そうそうに部屋へと戻ってくる。
そうして改めて空中に展開した、【シードリアテイル】の公式お知らせ欄には……新しい情報が、目立つように書かれていた。
食べ慣れた朝食を手早く注文しつつ、じっくりと目を通していく。
まずは、いま開催されている大規模戦闘イベントについて。
こちらのほうの情報は、イベントの魔物の殲滅具合によって起こる、変化について書かれていた。
一つは、単純に報酬の変化。
これは特に、驚くような情報ではない。
問題なのは、もう一つのほうだ。
「穢れの魔物の討伐状況次第では――舞台である世界の今後の情勢にまで、影響が出る……」
視線でなぞりながら呟いた内容には、おおいに思うところがある。
それは以前、レギオン【タクティクス】の面々と一緒に、歴史語りをした際。
私が一同へと語った内容……すなわち、今回のイベントの結果次第では、今後の冒険にさえ変化が起こる可能性がある、と伝えたあの予想が、本当に的中してしまったのだ!
これはさすがに、由々しき事態、というやつだろう。
今日のログイン後は、すぐに【タクティクス】のメンバーと今後の討伐戦について、作戦会議を開くことになるかもしれない。
注文して届いた朝食――塩加減がちょうど良い、梅のおむすびを口に運びながら、次の情報を確認する。
次に書かれていたのは、メンテナンスの情報だ。
今週中楽しめるこのイベント期間後、つまり次の週は、はじまりの日曜日に午前中いっぱいのメンテナンスがあるらしい。
ふむ、と美味しいおむすびをのみ込み、メンテナンスの内容について書かれた欄を見て、思わず口を開いた。
「新しいフィールド!?」
驚愕の内容に、慌てて文字の連なりを読み込む。
衝撃の情報は、いたってシンプルに書かれていた。
日曜日のメンテナンスが終わった後。
【シードリアテイル】に降り立った、すべてのシードリアに。
――新しいフィールドが解放される、と。
もうこの一文だけで、普段より一つ二つ多く、おむすびがお腹に入る気がしてくる!
イベントの結果による世界の変化も重要だが、こちらもこちらで、とんでもない新展開だと言えるだろう!
具体的な情報はまだないが、それはこれから開示されるか……あるいは。
「――メンテナンス後の、お楽しみ?」
ふっと上がった口角に、私は今、とても楽しげな笑みを浮かべているのだろうと察する。
どちらであっても、楽しみであることに違いはない。
おむすびを食べ終え、空中に展開した情報を消して、ログインの準備をしながら思う。
きっと、この心が弾むような気持ちを味わっているのは、私だけではない。
むしろ多くのプレイヤーたちにとって、この新情報は胸躍るものであるはずだ。
であれば、今日の【シードリアテイル】はもしかすると――今までとはまた異なる楽しさが、あるかもしれない!
準備を終えて、クッションに身を沈めながら、もう一度好奇心に笑む。
【シードリアテイル】がはじまって、十九日目。
イベントがはじまって五日目、終了までは残り三日。
今日もまた――【シードリアテイル】へ、ログイン!
※次回は、
・十九日目のはじまりのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




