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【PV・文字数 100万越え!】マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記  作者: 明星ユウ
三章 はじめての公式イベントを楽しもう
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四百三十五話 爆走鳥と疾走エルフ

 



 依頼完了の手続きを終え、冒険者ギルドを出て一息つくと、夜空にひときわ星々が煌く、深夜の時間へと移り変わった。


 人気のない街並みを眺め、さてこの後はどうしようかと考える。


 この深夜の時間が終わる頃には、就寝のためにログアウトをする事になるとはいえ、まだ深夜の時間ははじまったばかり。


 何かもう一つくらいは、楽しんでおきたいところだ。


 ふぅむと片手を口元にそえて、悩みながら当てもなく大通りを歩くことしばし。


 ジオの街の入り口にあたる、白亜の門から外の大草原へ視線を移すと、ちょうど元気よく爆走する、緑色の羽毛を持つヒクイドリ姿の魔物、グラスノンバードが目に留まり――閃く。


「そうです!

 一度、あのグラスノンバードと競争をしてみたいと、思っていたのでした!」


 思わず上げた声に、そわっそわと小さな精霊さんたちが小さな身を揺らし出す。


『しーどりあ、しょうぶする!?』

『あのまもののはやさと、しーどりあのはやさ? 気になる~!』

『しょうぶ、わくわく~!』

『たのしみ~!』


 ひときわわくわくな風の精霊さんと、やはり楽しみなのだろう他の三色の精霊さんたちの言葉に、笑顔でうなずいてみせる。


「えぇ!

 以前、アドルフさんとアリーセさんが、他のかたも競争をしていたとおっしゃっていましたから……私も、試してみます」


 白亜の門をくぐり抜け、大草原へと歩み出ると、お目当ての魔物へと近づいて行く。


「速さは……おそらく、一瞬ならば勝るはずなのですよね」


 穏やかに呟きながら、頭の中で素早く、今持っているスキルや魔法を思い浮かべる。


 爆走する魔物との速さ勝負に関係するものと言えば――。


 スキルはやはり、《疾走》だろう。


 敏速な走りかたに順応し、より速く走ることができるすぐれもので、常時発動型スキルのため、今もすでにかかっている。


 このスキルの力は、駆け出すだけで発揮できるから、準備はすでに出来ているようなものだ。


 魔法のほうは、〈オリジナル:敏速を与えし風の付与〉と〈瞬間加速 二〉。


 風の付与もすでに、足首にはめた銀色の輪――速き風をまとう足輪の名に合うよう、持続的な付与をかけることで、普段から敏速な動作を可能にしている。


 〈瞬間加速 二〉は、一瞬だけ身体速度を任意で一段階から二段階引き上げ、より加速させる身体魔法で、使った時の速さは今までの戦闘でもかなり役立っていた。


 これらの効果を合わせれば……まだ永続的には難しいかもしれないけれど、少なくとも一瞬だけならば、あの爆速を追い抜くことも可能だと思う。


 何はともあれ――物は試し、だ!


 少ないながらも、攻略系だろう他のシードリアのみなさんが戦闘をしている、大草原のただ中。


 ちょうど左側から爆走してきた、グラスノンバードに狙いを定めて、不敵に笑む。


 後は、時を待つだけ。


 速度を落とすことなく、爆速で迫るその姿が、あっという間に目前へ迫った、この瞬間!


 素早く身をひるがえし、並走するように立ち位置を変えて――いざ、勝負!!


 目測どおり、グラスノンバードが真横に並んだ刹那、〈瞬間加速 二〉を発動!


 ぐっと蹴った地面の感触を残して、景色が流れる。


 夜闇に沈む草原が、ザァッと過ぎた視界の端で緑に染まり、風が頬を打ち、長い髪が宙に浮く。


 勝負は、ほんの一瞬。


 けれどたしかに、横に流した視線の少し後方に……グラスノンバードはいた。


 かなりギリギリだけれど――それでもこれは、勝利だろう!!


 笑みが浮かんだ瞬間、再び踏んだ地面を蹴り、今度は軽やかに後方へと飛び上がって戦闘を回避する。


 私と一瞬の競争をしたグラスノンバードは、そのまま止まることなく、草原を爆走して行った。


 その姿を見送りながら着地して、詰めていた息をふっと吐き、忘れていた呼吸を再開する。


 とたんに、ぱっと眼前が華やいだ。


『しーどりあすご~~いっ!!!!』


 今まで肩と頭にぴたりとしがみついてくれていた、小さな四色の精霊さんたちが、ぴかぴかとその輝きをまたたかせて、歓声を響かせる。


 一拍遅れて、周囲からもどよめきと拍手が届いた。


 若干慌てて辺りを見回すと、たまたま私の行動を見ていたのだろうシードリアのみなさんが、こちらに笑顔を向けている。


 軽快に吹き鳴らされた指笛の音に視線を移すと、【タクティクス】のクラン部屋でお見かけした面々が手を振っていた。


 ふいに湧き出た気恥ずかしさに、戦友がたへ軽く手を振り返し、他の実力者だろう方々へもエルフ式の一礼をしたのち、さくさくと足を動かしてジオの街へと戻る。


 ……少しばかり頬が熱いのは、きっと全力で走ったからだ。

 そう言うことに、しておこう。


 兎にも角にも。


 現状持っているスキルや魔法だけで、一瞬ではあるものの、あの爆走するグラスノンバードとの速さ勝負に、勝つことが出来た!


 重要な点は、この結果と学びが得られたこと、だ。


『すごくはやかった~~!』


 喜ぶ精霊のみなさんの中でも、特に小さな風の精霊さんはこの結果を気に入ってくれたらしく、ひゅんひゅんといまだに私の周囲を飛んでいる。


 これほどまでに楽しんでもらえたのならば、勝負したかいもあったと言うものだ。


 ふふっと零れる笑い声を抑えて、精霊のみなさんへ告げる。


「また、このような遊びも楽しみましょうね」

『うんっ!!!! いっぱいあそぶ~~!!!!』


 きゃっきゃと、嬉しげな精霊さんたちに微笑みを深めながら、噴水のある中央広場でワープポルタを使い、トリアの街へと帰還。


 神殿でしっかりとお祈りを捧げてから、賢人の宿へと戻ってきた。


 宿部屋に入り、多色や水の精霊さんたちへとお礼を伝えて、各種精霊魔法とオリジナル魔法を解除した後。


 ふわふわと胸元へと降りてきた、小さな四色の精霊さんたちと一緒に、ベッドへと横になる。


「それではみなさん、私はまたしばし、空で休みます。

 みなさんもどうか、ゆっくりと休んで、次の冒険にそなえていてくださいね?」

『はぁ~い!!!!

 またね、しーどりあ~~!!!!』

「えぇ――また」


 胸に灯る一抹の名残惜しさは、明日の冒険を輝かせる、小さな要素に違いない。


 とびきり可愛らしい大切な精霊さんたちに微笑み、そっとログアウトを告げて瞳を閉じる。



 ふっと現実世界へ戻ってきた感覚に、満足感をともなう笑みが浮かんだ。


 十八日目も、まさしくこの満足感にふさわしい、なかなかに充実した時間を過ごすことが出来たと思う。


 色鮮やかによみがえる光景を振り返りつつ、胸で躍る好奇心をなだめる。


 さぁ、明日は何が起こるだろう?

 可愛らしい精霊さんたちと、どんな冒険を楽しめるだろうか?


 今日もまた、湧き出る期待を深呼吸で落ち着け、なんとか眠りにつくのだった。




※次回は、主人公の現実世界側での、

・番外編のお話

を投稿します。

お楽しみに!


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― 新着の感想 ―
わぁ〜!ついに例の魔物と競争をする機会が訪れましたね!そしてロストシードさん大健闘でした〜お見事です(≧▽≦) 顔見知りな皆さんに目撃されてしまいましたが、それはそれでまた世迷言板で話題になりそうで笑…
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