四百三十四話 ウーヌスの森の小探険
※戦闘描写あり!
宵の口から夜へと、暗く移り変わった空を葉の合間から見上げ、子供たちが家に帰る姿を見送ってから、村の端の探索を再開する。
村の入り口から見て、左側の端であろう場所にたどり着くと、ポツンと一軒だけ建っている家の前で、丸太に腰かけていたお爺様がゆったりと、こちらを見上げた。
『……ここより先、創世の女神様のご加護がまだ行き届いておらず、栄光なるシードリア様が進むことは出来ませぬ。
どうか、ご容赦を……』
真摯にそろりと頭を下げるお爺様に、こちらも丁寧にエルフ式の一礼を返す。
どうやらこのウーヌスの村にも、プレイヤーであるシードリアにとって、まだ進むことが出来ないとされる地との境界線が引かれていたらしい。
「教えていただき、ありがとうございます」
『……よい旅を』
親切なお爺様に、もう一度会釈をしてから、来た道を戻る。
時折、樹々の上で見かけるフォレストアウルに視線を流しつつ、次はどうしようかと思考を巡らせ……ふと、疑問が湧いた。
ウーヌスの村ではなく、その外――ウーヌスの森のほうは、進めるのだろうか?
「立地的には、村よりも奥に進むことになりますが……さて」
小さく呟き、村と森との境目で足を止める。
好奇心にふっと上がった口角をそのままにして、肩と頭の上で少しだけそわそわとしている四色の精霊さんたちへと、口を開く。
「お次は少しだけ、ウーヌスの森を探検してみましょう」
『たんけん、する~~!!!!』
ぽよっと跳ねる小さな姿に、どうやらお気に召していただけたようだと微笑みを深めながら、戦闘になる可能性を考えてランタンをカバンの中へしまい込み。
さっそく、森へと一歩、足を進めてみた。
さいわい、村人の誰かに止められることも、透明な壁にぶつかるようなこともなく、軽快な歩調で森の中に踏み入ることができ、内心でほっと安堵する。
それでも念のために、少々歩調をゆったりとしたものに変えて、慎重に並び立つ樹々の間を抜けていくと、一本の樹の根元に見覚えのある物を見つけた。
「あれは……マモリダケ、でしょうか?」
『うんっ! しーどりあ、だいせいかい~!』
左肩に乗る小さな土の精霊さんが、嬉しげにその身の色を輝かせる姿に、こちらも微笑みを深める。
マモリダケは、エルフの里にもあった、樹の根本に生えるシイタケに似たキノコで、防魔ポーションの素材。
何より、食べるととっても美味しい、珍味とされる貴重な食材だ!
あの美味しさを知っている身としては、このまま素通りすると言う選択肢は、ない!!
しっかりと採取して、さらに奥を目指して進み――ふいに反応したスキル《存在感知》に、ハッと遠くの樹々を見上げた。
風の精霊さんたちが、遠い場所の音を運び届けてくれる〈恩恵:シルフィ・リュース〉が発動し、何かが移動する葉擦れの音を届けてくれる。
油断なく身構え、魔物であろう敵の姿を確認するためにと、前方へ視線を注ぐ。
……しかし、前方に見えたのは、ガサリと枝葉が揺れる光景だけ。
次に左横の茂みが揺れ、反射的に地を蹴り距離を取った、次の瞬間。
闇属性の影を身にまとい、姿を隠しながら狙ってくる、茶色い毛並みに一筋の線を黒の毛で描いたイタチ姿の魔物をようやく、緑の瞳に映した。
刹那――紫電が迸る。
ほとんど反射的に放った〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉が、目の前で鋭い爪を空振った見慣れない魔物に突き刺さった。
至近距離で直撃した雷の一撃が、バチィ! と紫色の雷光を放つ。
闇夜に映える眩しさから、もう一歩距離を取り、地面で威嚇をする新しく出会ったイタチ姿の魔物を見据える。
黒い影をまとうその魔物の姿は、闇夜の中に紛れるために、最適な魔法を使っているように見えた。
「なるほど、かくれんぼがお上手なのですね。
危うく初手の一撃を受けてしまうところでした」
穏やかに呟きながらも、戦意を宿して不敵に笑む。
相手にとって、不足はない。
隠れることを得意とするのならば――徹底的に、見つけ出して戦うまで!
弱い麻痺効果にかかったらしく、動きの鈍った様子に、用心をしながら戦闘を続行。
合間に〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉を再度数回叩き込み、麻痺効果の継続と紫電をまとわせて見失わないようにしつつ、魔物の攻撃を確認していく。
イタチ姿の魔物が繰り出す攻撃自体は、噛みついたり、引っかいたりするシンプルなもの。
ただ、身にまとう闇魔法によって、一段と姿が見えづらい状態であることが、厄介に思える。
なにせ、夜目が利いても見えづらいのだ。
攻撃を避けるためには、時に反射神経が試されることが多く、とっさの対応が少し難しい。
それでも、浮遊大地での激戦と比べてしまえば、楽なものだ。
ふらりと体勢を崩した魔物へ、迷うことなく精霊魔法を詠唱する。
「〈ラ・フィ・ラピスリュタ〉!」
ぱっと空中に現れた、土と風の小さな精霊さんたちが、鋭い石を風圧で飛ばし、見事イタチ姿の魔物を黒色のつむじ風へと変えてくれた。
『しーどりあのかち~~!!!!』
「えぇ、無事に勝てました」
ふわっと眼前へ飛び出してきた精霊さんたちと、笑顔でハイタッチを交わし、それなりに緊張感のあった戦闘を終えて、ふぅと吐息を零す。
地面に転がっていた、黒色の魔石と尻尾を拾い上げてカバンに入れ、改めて前方へと緑の瞳を向ける。
樹々が連なる先――森の奥は、以前コロポックルの遺跡で見たように、樹々が密集して壁となり、それ以上先には行けないようになっていた。
明確に行き止まりを示す光景に、一つうなずき、定位置に戻った小さな精霊さんたちへ紡ぐ。
「今回の森の探索は、この辺りで切り上げますね。
もともとは依頼のために訪れていましたから、冒険者ギルドが閉まってしまう前に、ご報告にまいりましょう」
『はぁ~~いっ!!!!』
元気な精霊さんたちの返事に笑顔を返して、素早く静かにウーヌスの森と村を抜け、ジオの森も駆け抜けて街へと戻ってくる。
足早に街中を進み、たどり着いた冒険者ギルドの建物へと入ると、同じ栗色の瞳が三対、そろってこちらを見た。
『お疲れ様です!!!』
深夜に近く、すっかり人気のなくなった室内に、元気な三重奏が響く。
それに微笑みながら、受付を勤めていらっしゃる三つ子のお嬢さんがたが並ぶ、カウンターへと歩み寄った。
私の担当なのだろう、茶色の長髪をポニーテールにしたお嬢さんが、笑顔で口を開く。
『お帰りなさいませ、ロストシード様!
お怪我などは……』
「ご心配いただき、ありがとうございます。
採取も村へのお届けも、怪我なく無事に終えて戻ってまいりました」
心配の色の強い声音に、穏やかな声で返しつつ、カバンから依頼紙を抜き取りお嬢さんに差し出す。
ほっと、またもや三つそろって零された安堵の吐息に、お嬢さんがたの優しさがにじむ。
改めて、実に有意義な依頼だったことを振り返りながら、依頼完了の手続きが終わるまでの短い時間を、あたたかな気持ちで過ごすのだった。




