四百二十八話 この楽しみ方もありました!
※戦闘描写あり!
深夜の時間を、神殿の技神様のお祈り部屋で、精霊さんたちとまったり言の葉を交わしながら、装飾品とポーション製作を楽しむ時間にした後。
夜明けと共にぱっと姿を現した、小さな光の精霊さんを加えて向かったのは、神殿の二階にある宿部屋。
白亜の室内へと足を踏み入れ、一息ついたところで――小さく、不敵な笑みを浮かべる。
「充分に癒されたあとは……本日最後の殲滅戦を楽しみましょう!」
『まものいっぱいたおす~~!!!!!』
精霊さんたちと一緒に戦意を湧き上がらせ、素早く石盤を開くと、迷うことなく参戦のボタンを押す。
とたんに輝いた蒼光が、またたく間に天空の戦場へと送ってくれた。
「〈プルス〉!」
初手に特効攻撃である浄化魔法を放ち、白光で周囲を空白地帯にしたのち。
精霊のみなさんとの共闘を可能にする〈フィ・ロンド〉と、攻防一体の効果を宿した帯状の円環を周囲に展開する〈オリジナル:雷石旋風の攻防円環〉を即座に発動。
美しい薄青の光が降り注ぐ、夜明けの時間の清らかな雰囲気とはかけ離れた戦場で、フッと不敵な笑みを咲かせる。
さぁ――殲滅戦の開幕だ!
範囲攻撃に連続した複数攻撃、そして特効攻撃である浄化魔法や星魔法を存分に有効活用して、精霊のみなさんと共に穢れた魔物たちを倒していく。
さまざまな種類が集う魔物集団は、一部だけ姿を見ることが出来るようになっていて、改めて地上での戦闘体験の大切さを実感できた。
とは言え、やはり全力での戦闘をしばらくつづけていると、自然と疲れがたまっていくことだけは、どれほど戦闘に慣れたとしても起こる現象なのだろう。
ひとしきり戦った後は、一度少し後方へと下がり、魔力回復ポーションを飲むついでに、石盤を開いてイベントの評価ゲージを確認する。
しっかりと上限に到達していることを見て取り、展開しつづけていた〈オリジナル:雷石旋風の攻防円環〉を解除した。
『しーどりあ?????』
頭上で円を描く、五色の精霊さんたちからかけられた不思議そうな声に、ふわりと穏やかな微笑みを浮かべて答える。
「本日の殲滅戦は、ここまでにいたしましょう。
代わりの息抜きに、あの最初に降り立った高台で、浮遊大地全体を眺めるのはいかがでしょう?」
『うんっ!!!!! ながめる~~!!!!!』
どうやら、思い付きの息抜き案は、気に入ってもらえたようだ。
小さくさざめく好奇心に微笑みを深め、くるりと後ろを振り返り、この浮遊大地にはじめて降り立った場所――最初の高台を目指して、さっそく戦場を駆け抜けていく。
途中で〈フィ・ロンド〉も解除しつつ、一気に魔物たちと他のシードリアが戦火を散らす空間を通りすぎた。
ふぅ、と軽く吐息を零しながら足を止め、チラリと駆けてきたばかりの後方を振り返る。
そこにはまるで、戦場と安全地帯を区切る見えない壁があるように、先へと進むことの出来ない魔物たちが複数体、うろうろとさまよっていた。
ふと抱いた違和感に記憶をたどり、記憶にあるイベント初日との違いに気づいて、肩と頭の上に乗っている五色の精霊さんたちへと語りかける。
「この辺りの魔物たちは、ずいぶんと数が減りましたね」
『うん!!!!! まもの、へってる~~!!!!!』
初日では、この場所もそれなりの魔物が周囲を埋めつくしていたが、今ではポツリポツリと姿があるのみ。
これは他でもない――私たちシードリアが穢れた魔物を倒して、数を減らすことが出来ているという、たしかな証拠。
さいわいなことに、イベント戦は順調なようだと、微笑みが浮かぶ。
では、全体の眺めはどうなっているのだろう?
はっきりと湧き出た好奇心に、心なしか歩調を速めて高台へとのぼり……思わず、足を止める。
「これは……!」
緑の瞳に映った光景は、少々予想外なもので、ついつい興味深く辺りを見回してしまう。
安全地帯の高台に広がっていたのは――それぞれの自慢の品だろうポーションを販売する、生産系プレイヤーたちの楽しげな姿だった。
高台へ登ってくる前から、複数人の声が耳に届いていたため、他の方々がいらっしゃることは分かっていたけれど……まさか、露天市場になっていたとは!
「なるほど、このような楽しみ方もありましたか!」
感動が胸を弾ませ、思わず声まで弾んだ。
これは間違いなく、生産系プレイヤーにとって、このイベント期間ならではの楽しみ方の一つと言えるだろう!
元々、ポーションなどを製作するだけで、生産系のシードリアにはイベントの評価ポイントが入る。
その上で、この戦場の安全地帯でポーションをつくり、そのまま必要とする人々が買って補充できる状態を最初に整えたシードリアは、生粋の商売人さんだったのかもしれない。
なにせ、売る側も買う側も、両方がありがたい状態になっているのだから!
この形の商売方法……いわゆる、商人ギルドを通さずに個人で売るという形を、一部の生産系プレイヤーたちが以前からおこなっている事は、アトリエ【紡ぎ人】の皆さんとの雑談の際に聞いてはいた。
それを、この浮遊大地でも出来るところが、自由度の高さを売りにする【シードリアテイル】の魅力なのだ。
そうと分かればさっそく――この広々とした露店市へ、参加させていただきましょう!!
『しーどりあ、わくわくしてる!!!!!』
「さすがはみなさん、お見通しですね!
実は、楽しめそうな息抜き案がつい今しがた、二つに増えたところでして」
『ぼくたちもわくわく!!!!!』
私のわくわくを見通し、自らもわくわくに小さな身をぽよっと跳ねさせる精霊さんたちに微笑みを深めて、思いついた二つ目の息抜き案を提案する。
「景色を楽しむついでに――露店での商売も、楽しむことにいたしましょう!」
『わぁ~~いっ!!!!! たのしむ~~!!!!!』
方針が決まった後は、即行動!
近くで先に商売をしていらっしゃった方々に丁寧なご挨拶をして、この場での商売に関する情報を教えていただき、流れるように場所を確保する。
「えぇっと。
他のみなさんのように、ポーションを並べるための机や布はありませんが……ここはひとつ、ハイアーラファールウルフの毛皮を代わりに敷いておきましょう」
地面に広げた銀色の毛皮は、ラファール高山の強風から身を護る、防風のマントの素材。
丈夫かつ美しい銀の毛色がうりのこの毛皮は、見ようによっては上質な敷き布に見えないことも……ないはず!
そう思い、しわのないように敷いてみたものの、近くの商人さんがこちらを二度見していたように見えたので、やはり普通の布のほうが見栄えが良いのだろうか?
とは言え、ないものは仕方がない。
次回の教訓として頭の片隅に刻みつつ、もふもふなため少し置きにくい毛皮の上に、ゆっくりと各種ポーションを並べていく。
無事に並べ終わった直後、ちょうど目の前のゆるやかな上り坂を登って来た、魔法使いらしきエルフ族の青年と視線が合った。
小さな五色の精霊さんたちが、ふわふわとポーションの周りを飛んでいるため、目を惹かれたのだろう。
やわらかく微笑みながら、そっと片手でポーションを示してみると、ありがたいことにこちらへと歩み寄り、魔力回復ポーションを三本買ってくださった。
立ち去りながら、すぐにその内の一本を、青年がのどへと流した瞬間。
「うま!? 甘い!!」
とたんに上がった声に、嬉しさでうっかり頬がゆるみかけ、内心慌てて満面の笑みに整える。
「ありがとうございます」
「あっ、えっと、こちらこそ!」
背中へと感謝の言葉を投げかけると、青年も振り返って会釈を返してから、今度こそ再び戦場へと走り去って行った。
そして――どうやらこれが、きっかけとなったらしく。
何気なく、しかしたしかに戦場にて、評判が広まったのだろう。
その結果。
「甘くてうまい魔力ポーションがあると聞いて!」
と、瞳を輝かせた魔法使いのシードリアが数名、ありがたいことにその後もポーションを買いに来てくださり。
予期せず、自作ポーションの宣伝になったことに、遅まきながら気づいた。
「嬉しいことですね」
『うんうんっ!!!!!』
精霊のみなさんと穏やかに言の葉を交わしつつ、前方に広がる光景を眺める。
高台に近いほど魔物の数が少なくまばらに、奥へ行くほどまだひしめきあってうごめく光景は、殲滅が進んでいると同時に、さらなる奮闘が必要だと感じるもの。
改めて、密かに気合いを入れ直しながら、そろそろ区切りとなる一時間になることを確認して、手早く店仕舞いをしたのち。
強制転送にて、パルの街の神殿内にある白亜の宿部屋へと、戻って来た。




