四百二十六話 勘違いの訂正と不思議な生態
※戦闘描写(?)あり!
無事に精霊さんたちとの再会を果たし、上機嫌で進むことになった帰路の道中。
ふいに先頭を歩くアリーセさんが、ポニーテールにした黄緑の長髪を揺らして、くるりと後方を振り返った。
「そう言えば、けっこう【タクティクス】のみんなは勘違いしてるけど」
切られた口火に、何事だろうかと雑談が止む。
戦友のみなさんの視線を受けたアリーセさんは、平然とした表情で再度口を開いた。
「あたし、精霊魔法の先駆者、じゃないよ。
そっちもロストシードさんのほうだから。
って言うか、精霊の先駆者、にそのあたりぜんぶ入ってるから」
――それはまた、初耳ですね??
思わず微笑みを固めていると、隣ではっとディアさんが息をのむ。
「えっ、あっ……。
そう言われてみると……そうだね?」
驚きを含んだディアさんの納得に、アリーセさんが深々とうなずき、再び口を開く。
「そうなのよ。
精霊魔法が使えるようになったのは、そもそも精霊魔法を習得するために絶対必要な、精霊と仲良くなる方法を、初日の世迷言板でロストシードさんが助言をしてくれたおかげだから」
「そうか……だから、精霊魔法の先駆者もアリーじゃなくて、ロストシードなんだね」
「そーゆーコト!
みんな、ずっと勘違いしてたでしょ?
せっかくロストシードさんが入ってきてくれたんだから、ここは訂正しておかないとって思ってたのよ。
今言えて、スッキリしたわ~!」
納得の表情を浮かべたアドルフさんの隣で、ぐっと伸びをするアリーセさんからは、言葉通り解放感が伝わってくる。
その清々しい表情に、つい微笑みを深めてしまいながらも、ふと思い返した。
そう言えば――初耳だったのですよね、この情報。
まさか、精霊さんたちと仲良くなる部分だけではなく、精霊魔法の習得という部分まで、先駆者になっていたとは。
勘違いどころか、当の本人である私はそもそも知らなかった真実が、今ここで明らかになっていますよ、アリーセさん。
心の中だけで呟きながら、ここで知ることができなかった場合に思いをはせる。
その場合は……きっとまた、私は盛大に驚く結果になっていたことだろう。
話題を出してくださったアリーセさんに、胸中で密やかに感謝を捧げる。
こうして、多くのみなさんにとっては勘違いの訂正、私にとっては純粋に知識を得た会話が終わった後は――お楽しみの機会が巡ってきた!
「あ、ロストシード!
ロックワームがいたよ」
「えぇ、お知らせをありがとうございます、アドルフさん」
すでに気づいておりましたとも!
スゥっと浮かぶ位置をずらして、身体と大きな翼を壁際に寄せてくださったアドルフさんが、手で示した先。
前方の岩の地面、その一部が円形状に、うっすらと色を変えている。
そこに、スキル《存在感知》が示す魔物の反応があった。
フッと、半ば反射的に口角が上がる。
これは、胸弾む楽しさの表れだ。
行きの道中では見送ることを決め、この帰りの道中でおこなうと決めていたこと。
そう、今からはじまるのは――落とし穴の魔物、ロックワームとの戯れ!!
『わくわくっ!!!!』
肩と頭の上で、ぽよぽよと跳ねる小さな四色の精霊さんたちからも、期待が伝わってくる。
であれば……さっそく!
「踏みますね」
わくわくの気持ちをたずさえて、アドルフさんとアリーセさんの間にひらかれた道を歩み進む。
「うん、気をつけて」
「気をつけるのなら踏まないのよ、普通」
「あっ、そうだった」
お二人の軽快な会話に、後方から上がった笑い声を聞きながら、目的地に到着。
ピタリと、精霊さんたちがくっついてきた感覚に笑みを深め――そっと、右足で罠を踏んだ。
刹那、ボコッと落ちくぼんだ低い穴に、そのまま優雅に着地する。
おぉ! と短く上がった歓声に近いみなさんの声が、洞窟内に響く。
私のほうは、と言うと……。
『しーどりあ、たべられてる!!!!』
「食まれていますねぇ……やわらかに」
少しだけ慌て気味の精霊さんたちに、ことさら穏やかに言葉を返す。
実際、そう切羽詰まった状況ではないのだ。
と言うよりも、むしろこれは、なんと表現すればいいのだろう……?
たしかに、食まれてはいる。
ただそれがとても……やはり、ソフトタッチなのだ。
さすがに、いい感じにぎゅっと挟まるタイミングの時は、少し多めに生命力が削られてはいるけれども。
それさえ、隠して持続展開している〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉の回復力によって、すぐに全回復している。
この浅い落とし穴の中は、魔物製の罠にしてはずいぶんと、脅威のない場所だと分かった。
つまるところ、アースワームの時とほとんど同じ結果だと言えるだろう。
一つうなずき、普通に動かせる足でトンと側面を蹴る。
次の瞬間、もごもごと口を動かすように穴の中が波打ち――予想通り、ぺっと出された!!
今回は心構えをしていたので、慌てることなく地面に手をつき身をひねって、華麗な着地に成功!
軽く手を払いながら立ち上がると、どよめきと共にみなさんからの拍手が鳴り響いた。
『しーどりあ、だいじょうぶだった????』
ぽよっと小さく跳ねて、私の状態確認をしてくださる精霊さんたちに、嬉しさでゆるみかける口元をなんとか整えつつ、返答を紡ぐ。
「えぇ、大丈夫ですよ。
減った生命力も、もう回復しています」
『よかったぁ~~!!!!』
穏やかな私の言葉に、精霊さんたちの小さなその身に宿す色が、ぽわぽわと強く光る。
どうやら、無事に安心していただけたようだ。
自然と深くなる微笑みをそのままに、お次はと【タクティクス】のみなさんに笑顔を向ける。
「学びを得る時間をつくっていただき、ありがとうございました」
感謝を伝えた後、つい反射的にさきほどのロックワームとの戯れを思い出して、笑みが零れた。
「ふふっ、落とし穴の魔物は相変わらずでした」
「うん、なにが???」
そこはかとなく、デジャブを感じる。
またもや、アリーセさんに不思議そうな顔をされてしまった。
――いえ、私もさすがに、説明不足だったとは思います。
目が点になっていらっしゃるアリーセさんに、内心少々慌てながらも、表面は穏やかに説明の言葉を返す。
「アースワームやロックワームなど、落とし穴型の罠をはる魔物たちは、不思議な生態の魔物だと思いまして」
一拍、間があいたのち。
「……あたしには、ロストシードさんも、かな~~り不思議な生態かも」
「えっ?」
そう返されたアリーセさんの言葉に、今度は私の目が点になってしまった。
果たして……私はいったいいつ、不思議な生態を披露してしまったのだろうか?
――謎は深まるばかりである。




