四百二十三話 美貌には破壊力があるらしい
しっかり腹ごしらえの昼食を楽しんだ後――再び、【シードリアテイル】へログイン!
『おかえりしーどりあ~~!!!!』
「ただいま戻りました、みなさん!」
可愛らしい小さな四色の精霊さんたちに、ついつい満面の笑顔であいさつを返して、ベッドから身を起こす。
ジオの街の神殿、その宿部屋の窓から外を見ると、まだ昼の陽光が射し込んでいた。
陽光の眩しさに緑の瞳を細めつつ、精霊さんたちへと告げる。
「【タクティクス】のみなさんとお約束した、午後からのダンジョン攻略に遅刻しないよう、さっそく準備をいたしましょうか」
『はぁ~いっ!!!!』
元気な返事に微笑み、素早く各種精霊魔法とオリジナル魔法を持続展開して、慣れた準備を完了。
少し早く戻ってきたとはいえ、お約束の集合時間は、この大地での夕方に切り替わる頃。
あまり時間に余裕がないため、神々へのお祈りは広間の中で心を込めつつおこない、すぐに神殿を出る。
向かう先は――冒険者ギルドの近くにある、青いお屋根の一軒家。
ノンプレイヤーキャラクターである街の人々が、足早に行き交う大通りを進み。
たどり着いたレギオン【タクティクス】のクラン部屋の扉を開いて、中へと入る。
とたんに、すでに集合していたお仲間のみなさんが、いっせいにこちらを見た。
「あ! ロストシードさんだ!」
「来てくれたんだ~!」
「いらっしゃ~い!」
十人ほどの方々から、次々とかけられる歓迎の言葉をうけて、微笑みながら歩み寄り、ご挨拶を返していく。
その内、昼から夕方へと時間が移り変わり。
ディアさんや、アドルフさんとアリーセさんもログインして、さらに十数名のお仲間が集まった。
「みんな~! ポーションとか武器防具の忘れ物はない~?」
集まった数十人の戦友たちへと、サブリーダーのアリーセさんが最終確認をする。
みなさんに混ざって、私も確認や準備完了の旨を告げたのち。
「それじゃあ、ダンジョンに出発!」
天人族特有の大きな白い翼を、バサリと広げたアドルフさんのひと声で、ダンジョンへの移動を開始した。
クラン部屋を出て、大通りを進み、左の石門から外へ。
なかなかに大所帯な数十人の行列に混ざって、ジオの森を進み、ダンジョンへと移動して行く。
これほどの大人数での大移動は、【シードリアテイル】のサービスが開始した初日に、目醒めの地からエルフの里へと移動した時以来ではないだろうか?
思わず、その新鮮さを楽しみながら歩くことしばし。
たどり着いたダンジョンの入り口を目前にして、隊列が組まれることになった。
私の立ち位置はどうなるのだろう、と大人しく眺めていると、スゥ――と空中を滑って現れたディアさんが、さらりと告げる。
「ロストシードは、私の隣だよ」
フェアリー族自慢の美しい水色の翅を揺らして、ディアさんはそのまま私の手を引き、隊列の前列へと導いて……いえ、前列と言うより、ここは。
「私と一緒に遠距離魔法を撃ちつつ、状況に応じてアリーセのように前に出て戦うと良いよ」
そう微笑んだディアさんに、うっかりこの位置で本当に大丈夫なのかと、たずねてしまうところだった。
なにせ、今回の隊列におけるディアさんと私の立ち位置は、先頭を行くアドルフさんとアリーセさんのすぐ後ろ。
つまり、比較的自由に動く前のお二人を除くと、事実上の最前列なのだ。
たしかに、集団での戦闘方法は、浮遊大地での大規模戦闘時に学んではいる。
実力も、一応この実力者集団の足を引っ張らないていどにはあると、分かってはいるけれども。
それでも、まさか。
はじめて探索する最前線のダンジョン攻略で――隊列の最前線と言う、激戦確定の位置に立たされることになるとは、さすがに予想外ですよ!?
危うく真顔になりかけて、なんとか穏やかな微笑みを保つ。
「えぇっと……ご期待にそえるよう、励みます」
もはや、無難な言葉しか出てこない。
正直なところ、あまりにもはじめましての状況がすぎるので、許していただきたく……!
そう、思わず心の中で慌てていると、肩と頭の上でぽよっと軽く、小さな四色の精霊さんたちが跳ねた。
『ぼくたちもたたかう~!!!!』
どうやら、精霊さんたちはやる気に満ちているようで。
反射的に微笑みを深めながら、可愛らしいみなさんにうなずきを返す。
「えぇ、ぜひご一緒に。
怪我をしないように、気をつけて進んでまいりましょうね」
刹那、「精霊って怪我するの??」といった、盛大に疑問符を浮かべたような言葉が、周囲から零れ落ちた。
その声に、油断をしてはいけませんよと、胸の内で呟く。
思い出すのは、もうずいぶん前に感じる、サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんと釣りを楽しんだ時の帰り道。
急な混戦となった戦いの最中……アルテさんのお友達である、小さな緑の精霊さんが、フォレストウルフに襲われて痛みをうったえた時のこと。
あの一件で、精霊さんたちが痛みを感じることを知った身としては、この【シードリアテイル】の自由度ならば。
――精霊さんたちが怪我をすることさえ、充分にあり得ると思うから。
そう考えていると、精霊さんたちがまた、ぽよぽよと跳ねる。
『しーどりあも、きをつけて!』
『はじめてのまもの、いるかも?』
『じめんのわなも、あぶないよ~!』
『くらいときは、あかるくしてね!』
あぁ……本当に、精霊のみなさんは優しくて可愛らしい!!
この先もいったい何度、あるいはどれほど深く、私の心を射抜くおつもりですか!?
思わず、にっこりと満面の笑顔を咲かせてしまいますよ!
「はい! ご助言をありがとうございます。
その上で――大切なみなさんが怪我をしないように、お護りいたしますね」
せめてものお返しにと、心を込めてそう伝える。
とたんに、小さな四色の光がぽわっと強まった。
『わぁ~いっ!!!!
しーどりあは、ぼくたちがまもる~!!!!』
「ふふっ! 嬉しいです」
これほどまでに可愛らしい一方で、力強い頼もしさも感じる。
さすがは精霊さんたちだ、と指先で順番に撫でていると、目の前に立っていたアリーセさんが急に半歩、身を引いた。
「すっごい美貌の破壊力!」
叫び声に、緑の瞳を精霊さんたちからそちらへ向けると、口元をかすかに引きつらせたアリーセさんが、私を見ていらっしゃる。
「破壊力……とは?」
「ううん、口から出ただけだから気にしないで」
驚きながらの問いかけには、どこか真剣な表情で首を横に振りながら、そう返された。
「えぇっと、分かりました……?」
何一つ分からなかったけれど、アリーセさんがそうおっしゃるのならば、追及はしないほうが良いのだろう。
疑問をぬぐえないまま、しかし会話を終えようとした、その時。
『えっへん!!!! しーどりあはうつくしいの!!!!』
そう、なぜか精霊さんたちが自信たっぷりな声音で、アリーセさんへと告げる。
それに、アリーセさんは深々と神妙なお顔でうなずいた。
「ほんとにね」
はて? と、ついつい首をかしげてしまう。
たしかに、ロストシードの姿は美しいけれども。
結局、破壊力の意味は何だったのだろう……?
最後までよく分からなかった会話は、アドルフさんの翼がはためく音で、今度こそ終わりを迎える。
「さぁ――ダンジョン攻略、開始!」
凛と響いたリーダーの声に、レギオン【タクティクス】の一員として、応える声を響かせた。




