四百二十一話 右側のジオの森
※戦闘描写あり!
夜明けの時間を表す、神秘的な薄青の光に照らされながら、再び街を抜ける。
広々とした畑を通りすぎてしまえば――そこはもう、右側に広がるジオの森の入り口だ。
「それでは、こちらの魔物とも戦ってみましょう」
『たたかう~~っ!!!!!』
肩と頭の上で、元気よくぽよっと跳ねた、小さな五色の精霊さんたちに微笑んだのち。
さっそく、前方に見える空中にういた球体の魔物へと、近づいていく。
落ち葉を踏みながら足を進めていると、ふよふよ漂っていた綺麗な銀色の球体が、ふいにピタリと動きを止める。
刹那――球状の風魔法が、勢いよくこちらへと飛んで来た!
「おや」
焦らず慌てず、華麗に避ける。
それから、こちらも反撃にと〈フィ・ロンド〉を唱えた。
『ぼくたちがかつよ~~!!!!!』
五色の精霊さんたちが響かせた、可愛らしくも凛々しい、勝利を宣言する言葉に、ついにっこりと口角が上がる。
輪になって現れたお仲間の精霊さんたちが、次々と精霊魔法を放つ姿は、本当に頼もしい。
対する銀色の浮遊球体の魔物は、いくつかの精霊魔法を器用にふよっと避け、またこちらへと風魔法で攻撃をしてきた。
お互いに避けつつ、攻撃し合う魔法戦を少しつづけた後。
精霊魔法の合間に放った〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉にて、球体の魔物は銀色のつむじ風となりかき消えた。
浮遊大地での大規模戦闘と比べると、なんともあっけない一戦だったと感じてしまうのも……さすがに、無理はないだろう。
とは言え、数種の魔物たちが入り乱れるあの戦場とこの森とでは、状況が違うことは明らかだ。
群れると厄介な各種魔物たちも、単体ならば十分に対応できると分かったのだから、ここは良い学びを得たと考えよう。
一つうなずき、若干複雑になった感情を納得に落とし込む。
その場に落ちていた、銀色の魔石を回収しながら気を取り直し、共闘してくださった精霊さんたちへと微笑んだ。
「さすがはみなさん!
素晴らしい戦いでしたね」
『えっへん!!!!!』
くるりと頭上で円状に並んだまま、そう応える精霊のみなさんはたいへんお可愛らしい!!
うっかりゆるみかけた微笑みを整えつつ、眩く朝の時間へと移り変わる中で、小さな闇の精霊さんを見送り。
――そのまま続けて、薄青色をまとう球体の魔物との戦闘を開始する。
こちらは、氷の塊を飛ばして来たので、氷魔法を使う魔物だったようだ。
おそらくこの浮遊球体の魔物たちは、使う魔法の種類に合わせた色をしているのだろう。
今回も難なく倒して、先へと進む。
しばらく行くと、陽光に照らされた白亜の防壁が、やはり途中で崩れてしまっている光景が遠くに見えた。
さらに、その奥へと向けた緑の瞳に、木造の家々らしき小さめの建物たちが映る。
「村……でしょうか?」
『うん、むら~!!!!』
私の疑問を乗せた呟きに、小さな四色の精霊さんたちが答えを返してくださった。
なるほど、とうなずきを返してから、紡ぐ。
「もうそろそろ、空へと帰る時間が近づいて来ていますから……あちらの村には、また今度行きましょう」
『はぁ~~い!!!!』
――お楽しみは、また後で。
小さな精霊さんたちと微笑み合い、再びくるりと振り向いて、見つけた素材を採取しつつ来た道を帰る。
ジオの街の中へと入り、神殿まで戻ると、神々へお祈りを捧げてから、宿部屋を借りた。
白亜の宿部屋に、窓から明るい朝の光が射し込む眩さに、ついつい緑の瞳を細めながら一息ついた――その時。
ポンッと可愛らしい、効果音が鳴った。
「おや? どなたからのメッセージでしょう?」
『なになに~????』
フレンドさんの誰かから、メッセージが届いたことを示す音に、素早く石盤を開く。
確認をしてみると、アドルフさんとアリーセさんのお二人が、共同で送ってくださったもののようだった。
[やぁ、ロストシード。
さっきは一緒に戦えて、楽しかったよ]
[ありがと、ロストシードさん!
ところで、ロストシードさんって、ダンジョンに興味あったりしない?]
そう送られていた内容に、微笑みを深めながら返事を送る。
[こちらこそ、ご一緒ありがとうございました。
ダンジョンには、とても興味がありますよ]
私の即答に、お二人からもすぐさま次のメッセージが届いた。
[良かった。
実は僕たち【タクティクス】の皆で、最前線のダンジョン攻略を進めているんだ]
[お昼ご飯のあと、みんなで集まって、ダンジョンボスのところまで潜ろうって、さっき決まったのよ~。
ロストシードさんも、いっしょに行く?]
攻略系レギオン【タクティクス】のみなさんが、ちょうど今攻略を進めている、ダンジョン。
……それはとても、思い当たる節がある。
ほんの少し前に探索したばかりの、左側のジオの森、その奥地。
あの場所にあった洞窟が、おそらく――。
閃きをそのまま文字にして、お二人へと送ってみる。
[もしや、左側のジオの森を進んだ奥にある、ダンジョンのことでしょうか?]
[それそれ!
さっすがロストシードさん、やっぱりもう知ってたんだ!]
――やはり、正解だったようだ。
[僕たちは、もうかなり奥まで攻略を進めているけど、ロストシードも攻略していたのかい?]
[いえ、私はつい先ほど、入り口を確認しただけなのです。
ちょうど気になっていましたから、ぜひ攻略にお供させていただけますか?]
[うん、一緒に行こう]
[やった~~!
戦力かくほ~~!!]
[頼りにしているよ、ロストシード]
[心得ました。
お役にたてるよう、励みますね]
[それじゃ、お昼ご飯を食べたあと、クラン部屋に集合で!]
[はい、承知いたしました]
とんとん拍子で進んだメッセージでのやり取りを終え、深く微笑む。
「ダンジョン自体も気になっていましたが……これでまた、攻略系のみなさんならではの戦いかたを、拝見できますね」
『しーどりあ、わくわく!!!!
ぼくたちも、わくわく!!!!』
「えぇ! それでは、この後のわくわくに備えて――私は少し、空に帰りますね」
『はぁ~い!!!!』
小さな四色のみなさんへ今後の方針を伝え、各種魔法を解除して、ベッドへと横になる。
いろいろな楽しみができたことを、嬉しく思いながら――昼食のためにと、ログアウトを呟いた。
※次回は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。




