四百十八話 馴染みと戦友とイベント四日目
※戦闘描写あり!
ぱちりと目を覚まし、朝の空気を楽しみながら、起き上がる。
日課の散歩と、昨夜寝る前に決めていた朝食を美味しくいただいた後。
十八日目、そしてイベント四日目となった【シードリアテイル】へ、いざログイン!
背に当たるベッドの感覚と共に、そっと緑の瞳を開き、次いでまたたいた。
……普段はまっさきに聴こえる、小さな精霊さんたちの声が聴こえない。
少し不安になって、あたたかさや冷たさやそよ風を感じる、胸元へ視線を向けると――。
『しーどりあおかえり~~!!!!』
元気にひゅんっと、私の服の中から飛び出して来た、水と風、土と闇の精霊さんたちが、目の前の空中に浮かび、ご挨拶を返してくださった。
「みなさん! ただいま戻りました。
良かったです……お声が聴こえなかったので、何かあったのかと」
『あのねあのね! かくれんぼのれんしゅうをしてたんだよ!』
『ぼくたち、かくれるのじょうずでしょ~!』
『しーどりあに、みつからなかった!』
『かくれんぼ、たのしい~!』
――なるほど、そう言うことでしたか!
「本当にお上手でした!
たくさん練習をしてくださり、ありがとうございます、みなさん!」
『わぁ~い!!!! しーどりあにほめられた~~!!!!』
くるくると、目の前で舞う小さな可愛らしい姿に、つい口元がゆるんでしまう。
いつまでも眺めていたい光景だが、しかしと微笑みを整える。
そろそろ、改めてログイン直後の準備をはじめよう!
ベッドから身を起こし、宵の口のまだ明るい夜空を窓から眺めつつ、各種精霊魔法とオリジナル魔法を展開。
オリジナル魔法をスキル《隠蔽 五》で隠し、小さな多色と水の精霊さんたちには、自力でのかくれんぼをお願いして――いつもの準備は完了だ。
つづけて、流れるようにジオの街の神殿の宿部屋から一度出て、階下のお祈り部屋へ向かい、神々へしっかりとお祈りを捧げる。
そうして、日課とも呼べる行動を楽しんだのち。
「お次は、また宿部屋をお借りして――浮遊大地での戦いに、参戦いたしましょう!」
『うんっ!!!! たたかう~~!!!!』
「えぇ!」
戦意は、私も小さな四色の精霊さんたちも充分だ!
もうすっかりと、【シードリアテイル】でイベントが開催されていると言うこの状況にも、馴染んだと言えるだろう。
本日一回目の開幕戦を、レギオン【タクティクス】の戦友のみなさんと共闘する、集団戦にて飾ろうと思えるほど、心の余裕がある。
と言うことで、さっそく灰色の石盤を開き――大規模戦闘へ参戦!
ヒュオウ――と吹き抜ける風を合図に、閉じていた緑の瞳を素早く開く。
魔法の音につられて横を見ると、思ったよりもすぐ近くに、【タクティクス】のみなさんがいらっしゃった!
パチッと、黄緑色のポニーテールを跳ねさせる、アリーセさんの蒼の瞳と目が合う。
とたんに笑顔を咲かせて、ひらりと片手を振ってくださった。
「ロストシードさんおはよー! はやいねー!!」
「おはようございます! みなさんもお早い参戦ですね!」
少し距離のある位置からこちらへと、大きめの声でご挨拶をしてくださるアリーセさんに、こちらも声を張ってご挨拶を返してから、小声で〈フィ・ロンド〉を紡ぐ。
襲ってくる魔物たちにオリジナル魔法を放ちつつ、小さな四色の精霊さんたちが、頭上で円を描く様子を見届けてから、【タクティクス】のみなさんの元へと駆ける。
予定通り合流して、集団戦に加わらせていただこう!
美しい白羽をバサリとはためかせる、絶賛戦闘中なアドルフさんに会釈をして、ス――と静かに移動して来てくださった、ディアさんのそばへ。
「おはよう、ロストシード。
こっちで一緒に遠距離魔法を撃とうか」
「おはようございます、ディアさん。
承知いたしました」
えぇ――ご希望とあらば!!
フッと浮かんだ不敵な笑みをそのままに、ディアさんの指示に従って、集団戦の端から魔法を撃っていく。
他のみなさんが風の刃や氷の槍を放つと同時に、こちらは〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉を発動。
昇華した各種オリジナル魔法たち……〈オリジナル:昇華一:風まとう氷柱の刺突〉や〈オリジナル:昇華一:風をまとう石杭の刺突〉も、この場では大活躍だ。
もちろん、〈フィ・ロンド〉による共闘で、精霊のみなさんが放っている精霊魔法も、大大大活躍している!
周囲を埋めつくす魔物たちの群れの一角を、息を合わせて的確に一掃するこの戦いかたも、みなさんと一緒につづけてみるとなかなかに楽しいもので。
少し慣れてきた集団戦に、自然と口角が上がった。
「同時攻撃が上手になったね、ロストシード」
「そうでしょうか?
ディアさんにお褒めいただけて、とても光栄です」
「あたしから見ても、上手だと思うわよロストシードさーん!」
「アリーセさんも、ありがとうございます!」
隣のディアさん、前方のアリーセさんと、お二方から順にお褒めいただき、つい嬉しさで微笑みが深くなる。
――鮮やかに魔法の色が散り、爆ぜ、広がる戦場。
それは、この場が決して、穢れの魔物たちだけの舞台ではないことを、私たちシードリアが教えているかのような光景に見えた。
「みんな! もうひと踏ん張りだ!!」
そう叫んだアドルフさんの声に、みなさんも私も応えの声を元気に返す。
戦いはじめてから、もうそろそろ区切りの一時間だ。
ふいに、周囲の敵をアリーセさんに任せたアドルフさんが、後ろを向く。
楽しげに煌く青の瞳が、こちらを見た。
「一時間後に、また上に行く予定だから、ロストシードも一緒に戦わないかい?」
アドルフさんの素敵なお誘いに、すぐさまうなずきを返す。
「ぜひご一緒させてください!」
「あぁ! 頼もしいよ!」
お互いににこりと笑顔を咲かせて、短い会話を切り上げる。
予定の確認は、これだけで十分。
やがて、一足先に蒼光に包まれて地上へと戻っていくみなさんを見送りながら、私も一時間の区切りを迎えて――ジオの街の神殿、その中の宿部屋へと帰って来た。
ふぅ、と吐息をつき、〈フィ・ロンド〉を解除する。
「みなさん、今回も素晴らしい共闘を、ありがとうございました」
『たのしかった~~!!!!』
「それは何よりです」
本格的な夜の暗さが広がる部屋の中で、三色に輝く水と風と土の小さな精霊さんたちと、夜の色にとても近しい小さな闇の精霊さんが、くるくると気持ちを表すように舞う。
その美しさに見惚れながら、頭の中ではこの後の予定を決めていく。
一つ目は、【タクティクス】のみなさんと時間を合わせて浮遊大地に上り、集団で殲滅戦をすること。
それと、昨夜考えていた、浮遊大地にいる穢れの魔物の内、奥の地にいる強敵について。
やはりあのような強敵とは、実際に地上でも戦い、実戦での学びを得たい。
と、言うことで。
二つ目は、ジオの街周辺のフィールド探索をすること、にしよう。
ひとまず、午前中はこの二つの予定兼目標を、楽しむことに決定!
そうと決まれば、だ。
「それでは――お次は、街の外に探検しにまいりましょう!」
『わぁ~い!!!! たんけんする~~!!!!』
ひゅんっと素早く、肩と頭の定位置に乗った精霊さんたちに微笑み、さっそくと宿部屋を出る。
胸に湧き出た好奇心を自覚しながら、微笑みを深めて――夜のジオの街へと踏み出した。




