四百十五話 集団戦のお勉強
※戦闘描写あり!
楽しい歓談の時間は、またたく間に流れ――もうすぐで、朝から昼へと時間が切り替わると感じるほど、陽光にあたたかさが加わった頃。
「あ! 忘れてた!!」
唐突に、涼しげな蒼の瞳を見開き、アリーセさんがそう声を上げた。
何事かと、私やアドルフさん、ディアさんだけではなく、部屋中から視線が注ぐ中で、アリーセさんが私へと蒼の瞳を向ける。
「あたしたち、まだロストシードさんに集団戦での動きかたとか、教えてなかったよね?」
「あっ、えぇ、そうですね」
そう言われてみると、みなさんのそばで戦ったことはあるが……その時は本当に、そばで戦っただけだった。
しっかり集団の一員として、戦術を知った上で戦ったことは、まだない。
「だよねー!
ごめん、すっかりそのこと忘れてた」
「いえいえ。
私も、お尋ねすることを失念しておりましたので」
アリーセさんと共に、思わず小さく苦笑を零し合う。
「もうこんな時間か。
昼になったら、すぐにイベントの参戦に行くから、今から教えるのは間に合わないな」
アドルフさんも、うーんと腕を組んで考えてくださる中、ふとディアさんが片手を軽く上げた。
「それなら、私が実地で教えようか?」
「えっ、ディアが?」
「うん。役割としては、私もロストシードもそう変わらないから」
「あぁ、それもそうか」
ディアさんの提案に、アリーセさんとアドルフさんが納得したようにうなずく。
穏やかな水色の瞳と、私の緑の瞳が交わった。
どちらからともなく、ふわりと微笑む。
「ぜひ、ご教授をよろしくお願いいたします、ディアさん」
「任せて、ロストシード。
問題は……君の強さが、私の予想の斜め上を行く可能性が凄く高いこと、くらいかな?
まぁ、たぶんそれはそれで、何とかなると思うから大丈夫だよ」
……それは、果たして本当に、大丈夫なのでしょうか?
若干の不安を宿す言葉を、かろうじてのみ込み。
瞬間――ちょうど、時間が昼へと移り変わった。
ザッと素早く椅子から立つみなさんにつづき、少々そのやる気に満ち溢れた姿に驚きながら、同じく立ち上がる。
「よし、それなら、ロストシードのことはディアに任せるとして」
「みんなー!
今回もしっかり気合い入れて倒すわよー!!」
アドルフさんの言葉につづけた、アリーセさんのひと声に、思い思いの返答が部屋に響く。
さっそくと、全員で石盤を開き、大規模戦闘への参加ボタンを押して――浮遊大地へ、転送!
「〈プルス〉!」
浮遊感の後、足が大地を踏む感触と同時に、特効攻撃である浄化魔法を発動する。
拓けた周囲をそのままに、今回は他の魔法を発動することなく、そう遠くない位置に姿を見つけた【タクティクス】のみなさんもとへと、素早く駆け出した。
さいわいにもすぐに、前のほうへと出て来てくれていた、ディアさんの水色の瞳と視線が合う。
「ロストシード!」
「ディアさん! お待たせいたしました!」
『おまたせ~~!!!!』
「早かったね。
とりあえず、こっちに入って」
「はい!」
小さな四色の精霊さんたちと共に、ディアさんのそばに駆け寄ると、アドルフさんとアリーセさんの後ろに並ぶ【タクティクス】のお仲間の列よりも、もう一つ後ろの列へと導かれた。
「【タクティクス】に入ったばかりの新入りは、一応みんな、集団戦での戦いかたを学ぶことになっているんだよ。
それぞれの向き不向きや、得意分野を確認するためにね」
「なるほど」
説明してくださるディアさんと、うなずきを返す私に、なぜか視線が集中する。
しかし、どうしたのだろうかと周囲を見回しても、これまた何故かサッと視線が外れてしまい、交わらない。
「みんなにとっては、決闘の代わりになるくらい、私が君に集団戦について教える今の状況は、興味を惹かれる状況のようだね」
「そ、そうなのですね」
小首をかしげる私に、ディアさんが小さく笑みを零してから、視線の意味を教えてくださった。
――いったいどれほど、私とディアさんの決闘に興味を持つ方がいたのだろう?
少しだけ固まった口元を、気を取り直してほぐし、改めて穏やかな微笑みを浮かべる。
そんな私の心境を、察したようにまた笑みを零したディアさんは、しかしすぐにパタッと翅を揺らして穏やかな微笑みを浮かべ直した。
「実地で教えるのは久しぶりだから、説明の中でよく分からないことがあれば、遠慮なく確認してね」
「分かりました。よろしくお願いいたします」
真摯な言葉に、優雅な一礼を捧げると、お互いに自然と微笑みが交わる。
その後すぐに、穢れた魔物たちが埋めつくすこの浮遊大地にて――ディアさんから、実地で集団戦について学ぶ訓練がはじまった。
まずは、習得している魔法の中でも、遠距離から放つことが出来る魔法をいくつか見てもらうところから。
よく使うオリジナル魔法を実際に近くの魔物たちへと放ち、威力や範囲、使い勝手を確認してもらう。
「……やっぱり、単純な威力が頭一つ二つ抜き出ているね。
それに、合わせ技にした時の便利さが段違いだ」
嬉しいことに、お褒めの言葉をいただきました!
――水色の瞳が、どこか遠くのほうを見つめていた気がするのは、気のせいと言うことにしておきましょう。
オリジナル魔法の次は、精霊魔法をお見せする。
精霊のみなさんとの共闘を可能にする〈フィ・ロンド〉を展開すると、ディアさんが少し固まってしまった。
「ええっと……ディアさん?」
うかがうように声をかけると、ディアさんはたっぷり数秒間、瞳を閉じて押し黙った後。
そっと開いた瞳で私を見つめ、ふっと儚げに微笑みながら、口を開いた。
「予想の斜め上どころか……想像の遥か斜め上を行くんだね、君は」
「そう……でしたか?」
「――うん」
何やら、呆れられているような、もはや達観されているような、ひどく凪いだ表情をうかべたまま、ディアさんはそれでもしっかりと集団戦での動きかたについて教えてくださる。
「私たちが集団で動く時に気をつけている点は、タイミングをそろえて同時に攻撃を放つことだよ」
「タイミングをそろえての同時攻撃、ですね。
分かりました」
重要な点を記憶に刻みつつ、オリジナル魔法ならば、何度か息を合わせる練習を繰り返すだけで、タイミングをそろえることは可能だろうと予想ができた。
ただ……精霊魔法、特に〈フィ・ロンド〉も、タイミングをそろえることが出来るのかどうかまでは、分からない。
こういう時は――素直に、精霊のみなさんにたずねてみよう!
頭上でくるりと円形に並びうかぶ、小さな四色の精霊さんたちを見上げて、問いかける。
「精霊のみなさん。
精霊魔法も、使うタイミングを合わせていただくことは可能でしょうか?」
『できるよ~!』
『しーどりあと、いっしょにする~!』
『れんしゅうする~!』
『いっしょにこうげき、する!』
四色の精霊さんたちが、それぞれ返してくださる言葉にうなずき、ディアさんと視線を交わして微笑み合う。
「心得ました。
それではみなさん――私と一緒に魔法を使う、練習をいたしましょう!」
『はぁ~~いっ!!!!』
私の言葉に、元気な返事を響かせる精霊のみなさんにお願いをして、タイミングを合わせる練習を行った結果。
「うん。
たまにズレているけど、許容範囲内だから、ロストシードは精霊のみんなとも一緒に戦って大丈夫だよ」
そう、集団戦でも〈フィ・ロンド〉を活用しても良いと、ディアさんから許可が出たことが嬉しく――うっかり、満面の笑みを咲かせてしまった!




