四百十三話 精霊と恩恵の先駆者でした
間違いなく、攻略系プレイヤーであるアリーセさんやアドルフさん、それにディアさんが、どうやらご存知ないらしいと気づいた、今回の恩恵バフの一件。
……な、何はともあれ、ひとまずご説明をしてみましょうか!
さきほど私がお伝えした、必然的に恩恵を授かったという部分だけでは、そもそも単純に説明不足ですからね!
コホン、と軽く咳払いを響かせてから、改めて三人へと説明を紡ぐ。
「神々へのお祈りの際、恩恵をより授かれるようにお願いをしましたところ、それはもう、驚くほどの頻度で発動する、バフ祭りのような状況になりまして」
『おんけい、いっぱいだった!!!!』
あぁ、可愛らしい小さな四色の精霊さんたちのわくわくなお声に、なぜか今は特に癒されますね!
「それは凄いね!」
「お祈り……バフ祭り……」
「バフ祭りのような状態になりまして――って、そんなのはじめて聞いたんだけど!?」
えぇ、はい。
説明不足などと言う次元のお話ではありませんでしたか、そうですか……。
純粋に青の瞳を輝かせている、アドルフさんはともかくとして。
思考の海に沈んでいるディアさんと、明らかに全力で驚いているアリーセさんを見ても察することができないほど、私もにぶくはないつもりですとも!
つまり、お祈り効果による恩恵バフ祭りは――攻略系のかたでも、はじめて聞くような方法だったということですね!?
少しだけ引きつりかけた口元を、気合いと根性で整えて、穏やかな微笑みに戻していると、頭を抱えていたアリーセさんがバッと立ち上がった。
「ちょっとみんな!! 協力して!!
神殿でお祈りする時に、恩恵発動してほしいって願ったら、ホントに発動した――みたいな情報が出てないか、探して!!」
広々とした部屋に、凛と響き渡るサブリーダーの声は、なかなかに効果絶大だったらしく。
並ぶ机を囲んで談笑していたみなさんが、あっという間に石盤を出現させて、操作をはじめる。
なんとも身も蓋もない言いかたで、検索されているような気がするけれど……今は横に置いておくとして。
「新しい分野の先駆者が確定するかもしれないから、念入りに探したほうが良いかもね」
「それよ! それ!!」
ディアさんの穏やかな水色の瞳と、アリーセさんの涼しげな蒼の瞳が、同時にこちらを見た。
「新しい分野の……先駆者、ですか?」
『しーどりあのこと????』
半ば反射的に問いかけると、肩と頭の上に乗る四色の精霊さんたちが、コテッと小さな身体をかたむけて、そうお二人にたずねる。
お二人は、片や微笑んだまま、片や真顔で、深々とうなずいた。
「ロストシードならありえる気がしてくるから、不思議だな」
そこに関しましては、私のほうが全力で不思議だと思っていますよ、アドルフさん。
ついつい、視線を窓の外に広がる、晴れ渡った朝の青空へと放り投げる。
「あった?」
「ない」
「こっちも無い」
「見つからない」
「もしかしなくても、やっぱり新情報?」
そう、確認の言葉たちが部屋の中を飛び交う時間が、しばらくつづいた後。
「やっぱり、ないわよね」
「ないね」
「無いみたいだね」
アリーセさん、アドルフさん、ディアさんの言葉により、事実上の確定を察した。
「ロストシードさん、やっぱりお祈りで恩恵バフ祭りにする方法は、ロストシードさんが先駆者っぽいよ」
真顔で伝えてくださったアリーセさんの結果発表に、思わず苦笑が零れる。
「いえ、その、お祈りと言うよりは、お祈り中におこなった、神々へのお願いの結果なのですが……」
「なら、恩恵お願いバフ祭り?」
「神頼み恩恵バフ祭り、とか?」
さらに身も蓋もない感じが増してしまった。
いや、そもそも、本題はそこではない。
そこも大切だけれど、もっと重要な部分を、反射的に横に置いてしまった。
「……私、精霊の先駆者だけではなく、恩恵バフ祭りの先駆者にもなってしまったのですね……」
「少なくとも、恩恵を意識的に活用する方法を見つけたという情報は、ロストシードがついさっき、誰よりも早く情報開示したことになるかな」
「そうですか……」
若干悩ましげな私の呟きに、ディアさんが穏やかな表情で、的確に答えてくださる。
「ほら、石盤を出して、ロストシード。
こういう感じで、情報を書き込むんだよ」
「あ、えぇ、承知いたしました」
アドルフさんが出していた石盤のページ――語り板の情報を書き込むページを確認して、自ら開いた新しいページに情報を書き込んでいく。
正直なところ、これほどハッキリと新情報を提供する行動をしていても、まだ私自身がこの方法の先駆者であるとは、信じられないのだけれど……。
「そう言えば、ロストシードさんってそもそも、お祈りの先駆者だったりしない?」
おっと? なんだか流れがあやしくなってきましたね!?
いきなり、そのようなことを言いはじめたアリーセさんに、情報を書き込む指先を止めてしまう。
「うぅん……?
それはちょっと、分からないね。
元々神官ロールプレイをしようとしていたプレイヤーのほうが、早かった可能性があるんじゃないかな?」
「あ、そっか!」
ディアさんの冷静なご判断が、不思議ととても頼もしく感じます!!
「それなら、恩恵の先駆者とかは?」
アドルフさん!?
そのなぜか私に先駆者要素をつけ足そうとする流れには、出来れば乗らないでいただきたかったのですが!?
「恩恵は……あるかも」
ディアさん!!
そこは否定をしてくださるところでは!?
違いましたか、そうですか……!
「ロストシードさん、一つ目の恩恵を習得したのって、いつだった?」
アリーセさんに問われて、書き込みを終えた石盤を消しながら、記憶をさかのぼってみる。
種族特性により、エルフ族のプレイヤーが最初から習得している、〈恩恵:シルフィ・リュース〉は例外として。
最初に習得した恩恵は……〈恩恵:ラ・フィ・ユース〉。
恩恵により発動する、永続型の補助系下級精霊魔法であり、下級精霊の力で、精霊が関わるスキルや精霊魔法の効能を引き上げてくれる、すぐれもの。
この恩恵を授かったのは、たしか精霊神様へお祈りをしていた時で……。
「一日目の夜頃だったかと」
「ハイ確定! 恩恵の先駆者だった!!」
「えっ」
そこまで速攻で確定する内容でした!?
あまりにも勢いよく確定するアリーセさんに、つい助けを求めるような視線を、ディアさんに向けてしまう。
「一日目の夜は早すぎる。
二日目以降なら、もしかすると私のほうが早かったかもしれないけど、一日目の夜はさすがに……うん」
否定の余地がありませんでしたか、そうですか……。
波打つ蒼色の長髪をゆらして、首を横に振るディアさんに、そろりと肩を落とす。
「ロストシードさんは、精霊と恩恵の先駆者だったのね!」
「その……ようですね」
しみじみと、しかしどこかやり遂げた満足感をかもしだしながら、そうしっかりとトドメを刺し……いえ、確定した事実を伝えてくださるアリーセさんに、かろうじて微笑みを返す。
個人的には、究極的なマイペースを発揮して、遊んでいたサービス開始初日。
あの日に、二種類の分野での先駆者になっていたという事実を前にして……もう、驚きが隠せませんよ!!




