四百十二話 気になるご同業と新情報?
ご挨拶後、盛り上がった室内で、ばさりと翼を動かす音が鳴る。
窓から射し込む朝の陽射しを浴びて、より神々しさが増したアドルフさんが、甘やかな美貌に微笑みを浮かべた。
「みんな、ロストシードとも仲良くね」
みなさんへと向けた言葉に、さまざまな表現で了解の言葉が響く。
嬉しさに微笑みを深めていると、アドルフさんが私にも微笑みかけてくださった。
つい二人そろって、にこにこと笑顔を交わし合う。
広い室内はすぐに、にぎやかな歓談がはじまった。
アリーセさんとアドルフさんのお二人が、するりと椅子に腰かける姿を見て、私もアリーセさんが案内をしてくださった席に着く。
すると、何やらアリーセさんが涼やかな蒼の瞳を細めて、こちらを見た。
その瞳が、まるで獲物を捕らえる手前のようにキラリと煌いて見えたのは……気のせいだと思いたい。
「さっきの上での戦闘中、なんかロストシードさん、また強くなってなかった?」
その言葉に、少し前におこなっていた、浮遊大地での戦闘を思い出す。
途中から、【タクティクス】のみなさんと合流して、集団の近くで戦っていたのだが……強くなったように見えたのは、間違いなく神々の恩恵によるバフのおかげだろう。
――さて、これはどうお答えしたものか……。
「あぁ、えぇっと。
それには少々、理由がありまして……」
苦笑をしながら、そう切り出した時だった。
「その話、私も聴いて良いかな?」
隣の席から、穏やかな声がかけられる。
そちらを振り向くと、波打つ蒼色の長髪と、淡い水色の翅がゆれる姿が、緑の瞳に映った。
優しげな美貌にそろう、翅と同じ水色の穏やかな瞳が、好奇心を宿してこちらを見つめている。
「あぁ、ディアはこういう話、気になるよね」
「ディアのことは、ロストシードさんに紹介しないとって、けっこう前から思ってたから、あたしは大歓迎!」
穏やかな雰囲気を持った、フェアリー族の青年の問いかけに、アドルフさんは納得を、アリーセさんは肯定を返して、私へと向き直った。
「ロストシードも、良いかい?」
アドルフさんの確認に、攻略系のかたがたにならば、恩恵のことを伝えても大丈夫だろうと、すぐに判断してうなずきを返す。
「えぇ、構いません」
「ありがとう」
嬉しそうに礼を紡ぎ、席をこちらの机へと移したフェアリー族の青年は、やわらかな表情で、私へと水色の瞳を注いだ。
「私はディア。
見てのとおりのフェアリー族で、魔法使いだよ。
――ようやく会えたね、シードリアの魔導師殿?」
私やアリーセさんと同じ、魔法使いだと告げたフェアリー族の青年、ディアさん。
そのやわらかな表情に、楽しげな色が混ざる。
一方で、こちらは少しの気恥ずかしさに、眉が下がった。
「はじめまして、ディアさん。
その……よろしければ、ロストシードと呼んでいただけると、ありがたいのですが……」
『しーどりあは、はずかしがりやさんなの!』
何やら、右肩に乗る可愛らしい小さな水の精霊さんに、サラリと暴露されてしまった気がしますね??
「恥ずかしがり屋さんだったのか。
それなら、ロストシードと呼ばせてもらうね」
「はい、そちらでお願いいたします」
とにもかくにも、ディアさんに名前で呼んで貰えるようなので、良しとしましょう。
「ディアは、攻略系で一番の魔法使いって言われるくらい、オリジナル魔法が得意な人よ、ロストシードさん!」
そっと上げた右手で、小さな水の精霊さんをよしよしと撫でていると、アリーセさんが楽しげに口角を上げて、そう私に教えてくださった。
攻略系で一番の魔法使い。
その評価はたしか、以前にもアリーセさんから聞いたことがあった。
「もしかして……レギオン参加のお誘いの時に、おっしゃっていたかた、ですか?」
「アタリ!」
――これは私も、楽しくなってきましたね!
思わず、緑の瞳を煌かせるような笑顔で、ディアさんを見つめてしまう。
私の視線に、にこりと優しげな微笑みで応えてくださったディアさんは、かすかに水色の翅をゆらしてから、お返しのようにキラリと翅と同じ色の瞳を煌かせた。
「もしかして、私の知識が役立つような理由なのかな?」
「そうだった! それでそれで!? 理由って!?」
綺麗に本題へと話題を戻してくださったディアさんと、わくわくなアリーセさん。
その隣で、静かにキラキラと瞳を煌かせるアドルフさんを前に、ついこちらも微笑みが深まる。
それでは――ご希望どおり、私がまた強くなったように見えた理由を、お伝えいたしましょう。
「実は、恩恵のバフを活用していたのです」
「恩恵って……あの、祝福とは別のやつよね?」
「自動的に勝手に発動する、バフ効果のことだよね」
密やかに、小声で告げた私に合わせて、アリーセさんとディアさんもこそこそと、声量を落として話してくださる。
お二人の言葉にうなずくと、今度はアドルフさんも、そっと机に身をよせた。
「たまたま、あの時に恩恵が発動したの?」
「いえ。今回の戦闘時に授かった恩恵は……たまたま、と言うよりは、必然的なものでしたね」
そう――なにせあの時は、お祈り効果によって、ほぼほぼ必然的と呼べるほど確実に、恩恵を授かっていたのだから。
「待って、いきなりわかんなくなった」
サッと片手を上げて、待ったをかけるアリーセさん。
その隣で、思案するようにゆるく握った片手で口元を隠したディアさんが、ふっとその手を外して、真剣な表情で口を開いた。
「私たち自身の意思で発動できない恩恵を、必然的に発動させた……と言うことかい?」
「事実上、そのような状態でした」
ディアさんの疑問に答えながらうなずくと、アドルフさんが不思議そうな表情をうかべて、ディアさんを見る。
「ディアは出来るかい?」
「出来るなら、まっさきに君やアリーセに方法を伝えているよ」
「あぁ……それはそうだね」
うん、と笑顔でうなずくアドルフさんに、ディアさんが小さく苦笑したところで、アリーセさんが机に撃沈した。
ゴンッとなかなかにいい音が鳴ったのだけれど……大丈夫だろうか?
「アリー? 大丈夫かい?」
そっと肩に手を当て、そうたずねるアドルフさんの声音は、少し心配そうな響きを宿している。
たっぷり、一拍の間ののち。
ガバッと身を起こしたアリーセさんが、大きく口を開く瞬間を見た。
「これで語り板に情報載ってなかったら、また新情報発見してるってことだからねロストシードさんっ!!」
「あっ、はい。
……えっ?」
もしかして、今回の恩恵の件は。
……攻略系のみなさんでも、ご存知ないものでした?




