四百十話 恩恵を願い祈った結果
※戦闘描写あり!
しっかりと夕食を楽しみ、再び【シードリアテイル】へと、ログイン!!
神殿の白亜の宿部屋、そのベッドの上でそろりと瞳を開いた、瞬間。
『おかえり、しーどりあ~~!!!!!』
目の前で輝く、小さな五色の精霊さんたちそろってのご挨拶に、思わず満面の笑みを咲かせてしまった!
「はい! ただいま戻りましたよ、みなさん!」
『わぁ~~いっ!!!!!』
私の返事に、きゃっきゃと喜びながら眼前を飛び交う精霊さんたちは、本当に可愛らしく、ついつい頬がゆるんでしまう。
夜明けの美しい薄青の光に照らされて、五色の小さな姿が煌く様子を、緑の瞳で追いかけながら、ようやくいつもの微笑みに口元を整えて、ベッドから身を起こす。
まずはと、もう慣れ親しんだ準備――精霊魔法とオリジナル魔法を持続展開して、一部をスキル《隠蔽 五》にて隠す、短くも大切な準備を終えた後。
「この後は、浮遊大地での大規模戦闘に参戦する予定ですが……その前に、神々へお祈りを捧げにまいりましょう」
『うんっ!!!!! おいのり、する~~!!!!!』
元気よく肩と頭の上でぽよっと跳ねた、五色の精霊さんたちに微笑み、それではさっそくと宿部屋を出て、階下の神聖な広間へ降りる。
最初はやはり、精霊神様へお祈りをしようと、祈りの間である小部屋へと入り込み――ふと、閃く。
そう言えば……戦闘時の強さを引き上げる可能性のある、まだ試していない手段があった!
『どうしたの? しーどりあ?』
「あぁ、いえ。
少々、名案を閃きまして」
『めいあんっ!』
『わくわく!!!!』
右肩に乗る、小さな水の精霊さんの問いかけに、少しイタズラめいた笑みで答えると、とたんに他の可愛いみなさんまで、そわそわと動きはじめる。
その姿ににっこりと微笑みながら、長椅子へと腰かけて両手を組み。
スキル《祈り》を発動して、まずはと日々の感謝を精霊神様へと伝える。
ここまでは、お祈りの際に毎回おこなう、大切なお作法のようなものだ。
今回はここに――さらなる願いを、追加してみよう!
深呼吸を一つ。
心を落ちつけて、真摯に願う。
「大規模戦闘に参加する際、より神聖なる恩恵をたまわれますように……」
小さな声でそう祈ったのは、ひとえに恩恵と言う偉大なるバフの存在を、思い出したからに他ならない。
自身での制御ができず、望む時に必ずしも発動するわけではないかわりに、魔力消費という対価なく能力を向上させることができる、この破格のバフ効果。
実戦時には、必ず力になってくれる一方で、やはり魔法などとは異なり、私自身が発動の瞬間を決めることができるわけではない点が、むずかしい部分だと思う。
けれど、だからこそ。
神々に神官だと認めていただけた、私が願い祈るならば。
もしかすると……もしかするかも、しれないのでは?
そう、たまにはこのように期待をしてみるのも、好いのではないだろうか?
ふわりと口元にうかぶ微笑みをそのままに、そう考えながら祈りを捧げる。
そうして、じっくりと精霊神様へと願った後は、他の神々にもいつものお祈りと共に、一つの願いを追加して――今回のお祈りの時間を終えた。
「それでは、もう一度神殿のお宿をお借りして、浮遊大地へ戦いにまいりましょうか!」
『うんっ!!!!! いっぱいたたかう~~!!!!!』
「えぇ!」
戦意あふれる、小さな五色の精霊さんたちの言葉に、力強くうなずきを返しながら、再度宿部屋をお借りして、いざ大規模戦闘へ!
転送の蒼光に、導かれたのち。
短い浮遊感の後、吹き抜ける風を感じながら、閉じていた緑の瞳を開く。
今立っている場所は、夕食前にアルさんと共に戦った、トリアの森にいる魔物たちが集まっている地点だ。
残念ながら、この場所で私が戦ってしまうと、少々どころではなく過剰火力なオーバーキルになってしまうため、ひとまずそうそうに駆け出して浮遊大地の奥を目指す。
私が全力を出して戦う、本来の戦場へと近づくにつれて、攻略系とおぼしきプレイヤーのみなさんが、真剣に、あるいは楽しげに戦う様子が目に入り、自然と口角が上がっていく。
まぎれもない強者として、魔物たちと戦うその姿は、本当に頼もしくてかっこいい!
こちらも自然と、戦意が満ちると言うものだ!
駆ける足はそのままに、笑みをフッと、不敵なものへと変える。
次に、姿を隠した状態で、と念じながら、精霊のみなさんと共闘をするための精霊魔法を、小声で詠唱。
「〈フィ・ロンド〉」
『いっしょにたたかう~~!!!!!』
声を上げ、小さな五色の精霊さんたちが頭上で円を描く動作を合図に、密やかな精霊魔法による、共闘がはじまった。
刹那、明らかに普段とは異なる威力の精霊魔法が放たれたことに、思わず真顔になりかけ、かろうじて微笑みを保つ。
今間違いなく、〈恩恵:ラ・フィ・ユース〉が発動した。
下級精霊の力で、精霊が関わるスキルや精霊魔法の効能を引き上げてくれるこの恩恵は、一目見るだけで違いが分かるほど、精霊魔法の威力を上げてくれている。
これは、もしかすると……本当にもしかするかもしれないのでは!?
胸を弾ませながら、本来の私の戦場よりも少し手前で立ち止まり、試しにオリジナル魔法を放つ。
〈オリジナル:昇華一:風まとう水渦の裂断〉を、素早く二段階目に移行。
すぐそばの空中にうかんでいた、七つの薄い円盤状の水の渦が、次々と近くの魔物たちへと飛来して、深く切り裂き――それぞれ一撃ずつ攻撃するだけで、消滅させた。
「これはもう間違いなく、恩恵のバフ効果ですね」
『おんけい、すご~~いっ!!!!!』
すごいの一言で片づけてはいけない気がするほどに、すごすぎると思います。
うっかり真顔になってしまった顔に、微笑みを戻しつつ……。
これはおそらく、今の夜明けの時間を含む、夜の時間帯で使用するすべての魔法の効能が少し向上する〈恩恵:夜の守り人〉のおかげだろうと判断する。
さらに思考を巡らせながら、今度はあえて近くの魔物から攻撃を受け、回復魔法をかけてみた結果。
一応、予想はしていたけれども、やはりこれまた、効果は絶大。
すべての回復魔法の効能が少し向上する〈恩恵:癒し人〉が、回復効果を向上させてくれているようで。
これはもう、さすがに察すると言うものでしょう。
どうやら本当に――願いが通じたようですね!?
これは明らかに、神殿でお祈りと共に神々へ願った、より恩恵を授けて欲しいと言う願いを、しっかりと叶えてくださっていますよ!!
『しーどりあ! おんけいすごい!!』
『おんけい、いっぱい~!!!!』
「本当に、少々とんでもなさすぎますね」
小さな水の精霊さんと、つづいた他の四色の精霊さんたちの言葉に、深々とうなずきを返す。
私とて、さすがに下級魔法が中級魔法のような威力になっているのを見逃すほど、魔法使い初心者ではない。
戦闘中、次々と発動していく恩恵のおかげで、今までよりも格段に戦いやすくなっている!
あぁ、このような素晴らしいバフ祭り――楽しまなくては、神々に失礼でしょう!!
フッと、口元が不敵に弧を描いたことを自覚しながら、精霊のみなさんへと方針を告げる。
「このような好機を、無駄にするわけにはまいりません。
存分に――奥にいる魔物たちを蹴散らしましょう!」
『わぁ~~いっ!!!!! まかせて~~!!!!!』
感情のままに、若干物騒な表現をしてしまったような気がするけれど、それを訂正するほどの余裕はなく。
少し遠くで戦っている、レギオン【タクティクス】のみなさんを横目に、さらなる奥地で強力な魔物たちを相手取り、以前よりも安定した戦闘を繰り広げる。
……とは言え、全力の戦闘を長くつづけると、さすがに疲れてしまうため、途中で後方にいた【タクティクス】のみなさんと合流したのち。
心の中で神々へと感謝を伝えながら、夜明けの時間が終わる手前で、一足お先に地上へと帰還した。




