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【PV・文字数 100万越え!】マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記  作者: 明星ユウ
三章 はじめての公式イベントを楽しもう
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四百七話 まさかの未実装だった件について

 



 夕方から、宵の口へと時間が移り変わり、小さな光の精霊さんとまたねを交わして、小さな闇の精霊さんを迎え入れた後。


 つづく華やかなお茶会の中、ふとアルさんを見て、思い出したことをそのまま言葉に変える。


「そう言えば、アルさん。

 以前【紡ぎ人】のみなさんとお話ししていました、中級技術の件ですが……その後、何か進展はありましたか?」


 思い出した素朴な疑問を、そのまま言葉にした私の問いかけに、アルさんは肩を過ぎた長めの灰色の髪をゆらし、首を横に振った。


「いや、残念ながら、な。

 語り板とかにも、まだ情報が出てないんだよなぁ~」

「そうでしたか……」


 情報が出ていないことに関しては、おそらく……【紡ぎ人】のみなさんこそが、生産職としては最先端に近い場所にいるからだろうけれど。


 そう思いながらも、素直にうなずきを返した瞬間。


 ――閃きに、口角が上がった。


 私の表情を見て、アルさんのみならず、みなさんから不思議そうな視線が注がれる中、アルさんへ穏やかに名案を告げる。


「では、一緒にエルフの里へ里帰りして、直接師匠や先生にたずねてみる、という案はいかがでしょう?」

「のったぁ!!」


 アルさんの返答は、雷魔法のように素早かった。



 サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんと挨拶を交わし、クラン部屋を出た私とアルさんは、さっそくパルの街のワープポルタを使って、エルフの里へと転送する。


 頬を撫でるそよ風に、緑の瞳を開き、ふわりと懐かしさに微笑む。


「ひっさしぶりだな~! エルフの里!」

「えぇ。いつ帰ってきても、素敵な場所ですね」

「だな!」

『えるふのさと、すき~~!!!!』

『すき~~!!!』


 ぐっと伸びをしたアルさんと思いを分かち合い、可愛らしい小さな精霊さんたちとも一緒に笑顔を交し合うと、まずはリリー師匠のお店へと向けて歩き出す。


 穏やかな土の香りが立つ土道を進み、装飾品のお店を入り口からのぞくと、つぶらな蒼い瞳と視線が合った。


『まぁ! ロストシード! 帰ってきていたのね!』


 タッと駆け出し、ぴょこっと入り口から顔を出してくださったリリー師匠に、笑顔でエルフ式の一礼を返す。


「またまたご無沙汰しております、リリー師匠。

 こちらは、同じアトリエのお仲間で、友人のアルさんです」

『あなたは……アードリオンのところの子ね!』

「どうも、アルって言います」


 すぐさま閃きに蒼い瞳を煌かせたリリー師匠に、アルさんが会釈をしてあいさつを紡ぐ。


 にこにこなリリー師匠と、穏やかなアルさんの様子に微笑みながら、本日の本題をリリー師匠へ伝えた。


「実は今回、少々リリー師匠とアード先生にたずねたいことがあり、まいりました」

『あらっ! それなら一緒に、アードリオンのお店までいきましょう!

 ちょうど、ポーションを買いたかったの!』


 ぽんっと手を打ち、名案に笑んだリリー師匠の提案に、アルさんとそろってうなずきを返し、今度は三人で土道を行く。


 そう時間をかけずにたどり着いたアード先生のお店へ、遠慮なく扉を開いて入り込むリリー師匠の小さな背中を追うと――すぐに、切れ長の深緑の瞳と視線が合う。


『……アルとロストシードか』

『あたしもいるのよ! アードリオン!』

『見えていないわけではない、リラルリシア』


 先にアルさんと私の名を呼んだアード先生に、ぴょんぴょんと跳ねて存在を主張するリリー師匠が可愛らしくて、ついアルさんと一緒に小さく笑みを零してしまった。


 その間も、リリー師匠がアード先生へと軽く、私とアルさんが訊きたいことがあるらしいと説明をしてくださる。

 次いで、そろって私たちへと二つの視線が注がれた。


『さぁ、二人とも! ききたいことはなにかしら?

 なんでもど~~んときいていいのよ!』

『遠慮なく訊くといい』

「ありがとうございます、リリー師匠、アード先生。

 お二方に教えていただきたいことは、中級の技術についてでして――」


 そう、アルさんと共に、以前アトリエ【紡ぎ人】のみなさんと議論を交わした、中級技術の習得方法についてたずねてみた結果。


 予想していたものの二つである、実際に中級の作品をつくりあげ、それを師匠が確認することが、習得条件だと分かった……までは、良かったのだけれど。


 ここで一つ、前提となる問題が判明した。


『ただ……この中級の作品につかう素材は、王都とか、その先の街でしか、入手できないものなのよね~』


 小さな眉を下げて、リリー師匠が告げた言葉に、アード先生も無言でうなずいていらっしゃる。


 ……まさかの、根本的に素材が入手できないと言うオチに、アルさんがガックリと肩を落とした。


「まさか本当に、未実装だったとはなぁ……」

「本当に、まさかの展開ですね……」

「だなぁ……」


 アルさんの下がった肩をいたわりながら、内心でうっすらと、抜け道くらいならばありそうだけれど、と思考を巡らせる。


 ただ、アード先生やリリー師匠があえて教えてくださらないということは、やはり職人の成長には順序があるのだろう。

 そう思い、口から出しかけた可能性の言葉は、そっと飲み込み。


 リリー師匠とアード先生にお礼を告げてから、しょんぼりとしてしまったアルさんと一緒に、エルフの里を後にした。



 ワープポルタを使い、アルさんと一緒に帰って来たのは、トリアの街。


 宵の口のまだ明るい夜の街中を、足取り重く、アトリエ【紡ぎ人】のクラン部屋へと移動する。


 たどり着き、開いた扉の先では――机の上に布を広げたノイナさんとナノさん、それに高い音を響かせて金づちを振るうドバンスさんが、それぞれの作業を進めていた。


「あっ! アルさんおかえり~!

 ロストシードさんもいらっしゃ~い!」

「お二人とも、ご一緒だったのです?」

「えぇ、色々ありまして……」


 元気なノイナさんと、少しだけ不思議そうにガーネットの瞳で見つめてくるナノさんに、どこから話したものかと一瞬悩んだ、直後。


「よーし! みんなもこの嘆きの道連れだ!!

 ドバンスもそこでいいから聞け!」

「落ち着け、どうした」

「えっ、なになに?」

「何かあったのです?」

「それがなぁ!!」


 そう、半ば愚痴のようにはじまったアルさんの語りに、何事かと耳を澄ませていたお三方の表情は、アルさんの宣言通り、非常に微妙なものへと変わって行った。


 以前採取した素材たちを使って、ポーションを製作しながら、中級技術の真相について語り終えたアルさんと、ついには頭を抱えてしまったみなさんを見つめる。


「そ、そんなぁ……!」

「未実装は、予想外なのです~!」

「だろぉ!?」

「……実装されるまで、腕を磨くしかなかろう。

 これまでと同じと思えばいい」


 嘆くノイナさんとナノさんとアルさんに、鎚を振るう手を止めていたドバンスさんが、再びカーンッ! と音を響かせながら紡ぐ。


 たしかに、ドバンスさんのおっしゃる通り、未実装ならばそれはそれで、今まで通り腕を磨きつづけていけば好い。


 それは必ず――【紡ぎ人】のみなさんにとって、糧になるのだから。


 ふわりと微笑み、私もみなさんへ声をかける。


「私も、ドバンスさんのお考えに賛成です。

 中級技術が実装された時、真っ先に中級の作品を作り上げるためにも、腕を磨きつづけることは、やはり大切かと。

 ――みなさんも、そうお考えでしょう?」


 私の少しだけイタズラめいた問いかけに――お三方は迷うことなく、肯定の笑顔を咲かせた。




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― 新着の感想 ―
わぁ〜久し振りのエルフの里ににっこりです〜♪ そしてまさかのリリー師匠とアード先生との貴重な交流…!一気に懐かしい気持ちになりました〜❁ からのまさかの未実装w 運営さんがきっと今頃、裏で開発を頑張っ…
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