四百六話 小観光のち華の歓談
大草原にて、例の魔物たちとの戦いを体験した後、つづく土の街道をさらに進むことしばし。
――ついに、今の最前線の街、ジオの街に到着!!
「ここが、ジオの街……!」
『わぁ~~!!!!』
「なかなか良いところだよ」
「パルの街と似てて、居心地いいのよね~!」
昼の眩い陽光に照らされた、白亜の門をくぐった先は、アリーセさんがおっしゃった通り、パルの街のように色とりどりな屋根を飾る家々が連なっていた。
構造上は、パルやトリアの街とそう変わらないとは思うけれど、それはそれとして新しい街への興味はある!
ついつい踊る心のままに、お二人へと笑顔を向けて、確認を問う。
「アドルフさん、アリーセさん!
少しだけ、観光をしてもかまいませんか?」
「あぁ、もちろん!」
「夕方になったら、あたしたちはまた戦いに行くけど、それまでは付き合うわ。
一緒に楽しみましょ、ロストシードさん」
「はい、ありがとうございます!」
『わぁい!!!! あたらしいまち、みる~~!!!!』
肩と頭の上で、元気に跳ねる小さな四色の精霊さんたちにも微笑みを返し、さっそくと眼前に伸びる広い石畳の大通りを歩いて行く。
両端に各種ギルドの建物が並ぶギルド通りを抜け、白亜の神殿を右手に眺めながら進む中、アドルフさんとアリーセさんが、ジオの街の評判を語ってくださる。
「この街は、王都に一番近い街で、大草原と川の景観と、美味しい食事が有名らしいよ」
「そうそう。
あのパルとかトリアの街にもある、大きな噴水広場の左側の通路に、美食の店が並んでるんだって」
「おや! それは美食のお店巡りが楽しみですね」
「ふ~ん? ロストシードさんは、花より団子なの?」
「いえいえ。美食だけではなく、景観もしっかりと楽しませていただきますよ!」
思わず拳を握って宣言すると、とたんにお二人から笑い声が上がり、つられて私も笑みを零す。
そうして進んだ先には、街の中央地点を示す、広い円形の噴水広場があった。
広場の前方へさらにつづく大通りと、右側の通路から広がる住宅街は、もはや見慣れた街並みと言える。
少し違う部分があるのは、さきほどの会話に出てきた、左側の通路だ。
お話の通り、書館や職人通りがない代わりに、左側の通路には食事処が軒を連ねていて、その奥に貴族街が広がっている。
――ここで忘れてはいけないのは、大噴水の近くにある、ワープポルタの存在だ。
いつでもこの街への転送を可能にするため、手早くジオの街の登録を終える。
登録後、作業を見守ってくださっていたアドルフさんとアリーセさんを振り返ると、予想通りそろそろお時間とのことで、お二人とはこの場で解散することになった。
「今度はクラン部屋に招待するよ」
「その前にこっちに移ってると思うけどね……」
「あぁ、そう言えば……」
「ふふっ。ジオの街のクラン部屋も、素敵な場所が見つかると良いですね」
「あぁ!」
「そうね」
そう言の葉を交わし、現在レギオン【タクティクス】のクラン部屋があるトリアの街へと、お二人が転送で戻る姿を見送ったのち。
自然と零れた吐息に、小さく苦笑する。
今までマイペースに遊んで来たからこそ、最前線を行く攻略系のお二人を前にして、さすがに少々緊張していたらしい。
とは言え、お二人との時間そのものは、とても有意義で楽しいものだった。
「ぜひまた、いろいろとご教授いただきたいものですね」
小さくつぶやき、次の機会に思いをはせる。
きっとその際もまた、多くの学びがあることだろう。
学びと言えば……と、一瞬だけ奥に伸びる大通りを見やり、しかし軽く首を横に振る。
ジオの街周辺のフィールド自体にも、おおいに興味はあるのだけれども。
この場所での冒険は、一時保留にして――緊張をほぐすためにも、サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんとお話をして、たくさん癒しをいただこう!!
「みなさん。
お次はパルの街に戻って、サロンのみなさんに、逢いに行きましょう」
『はぁ~~いっ!!!!』
楽しげな精霊さんたちの声に微笑み、目の前のワープポルタを使って、またたく間にパルの街へと帰還!
昼から夕方へと、眩く移り変わった時間の中、夕陽に照らされる大通りを進み、サロンのクラン部屋へ。
足早に歩いてたどり着いた扉の前で、一呼吸置いてから扉を開くと――。
「おっ! ロストシードさん! お邪魔してるぞ~!」
「……アルさん?」
なぜか、サロン【ユグドラシルのお茶会】のクラン部屋に、アルさんがいらっしゃる。
あまりにも不思議な状況に、ぱちぱちと緑の瞳をまたたいていると、そろっているサロンのみなさんが現状の説明をしてくださった。
――いわく、商人ギルドのフィードさんへと商品を届け、トリアの街に帰るところだったアルさんをフローラお嬢様が見つけ、ロゼさんがヒマならばぜひにとクラン部屋へ招いた、とのこと。
……そう言えば、クラン部屋にはサロンの参加者だけではなく、招かれたプレイヤーも入ることができたことを思い出して、納得にうなずく。
説明の間に、フローラお嬢様がいれてくれたお茶がいつもの席の前に置かれ、ようやく優雅に席へと腰かけて、お茶を楽しむ。
アルさんがいらっしゃることには驚いたけれど、当初の予定はこうしてみなさんとお茶を楽しみながら歓談して、癒されることだったので何も問題はない。
むしろアルさんは、楽しさを引き立たせる言動がお上手なかたなので、どちらかと言わずとも、大歓迎だ!
――と、油断していた結果。
「それで?
あの超有名な攻略系レギオン!
【タクティクス】に参加した感想を教えてくれよ、ロストシードさん!」
……あやうく、美味しいお茶が口から噴き出るところでしたよ、アルさん。
ロールプレイの都合上、ロストシードとしては、そのような失態をおかすわけにはいかないというのに……。
心なしか、サロンのみなさんまで瞳を煌かせているような……気がするのは、気のせいではないようなので、しっかりお答えしよう。
ゆっくりと、口の中の美味しいお茶をのどへ通してから、アルさんの質問に答える。
「いえ、なにせまだ本当に参加した直後なものですから……正直な感想としましては、あの【タクティクス】に参加したと言う実感も、あまりありませんねぇ」
「おぉ? それは意外だったな。
俺は、ロストシードさんがついに攻略系になったと思うだけで、結構感慨深いんだが」
私の返答に対して、言葉通り意外そうに眉を上げて返されたアルさんの言葉に、ついついこちらは眉が下がった。
「いえ、私自身は、攻略系ではないのですが……」
戸惑いながらの訂正に、なぜかアルさんは視線を遠くへと飛ばしながらつぶやく。
「――もうややこしいから、攻略系ってことでもいいと思うぞ、ロストシードさんの場合は」
「いえいえ。
精霊の先駆者としての参加という点は、その通りだと理解しておりますが。
攻略系とは、とても」
「……マイペースに遊んでるだけ、だからかぁ」
「はい! マイペースに遊んでいるだけ、ですので」
にっこり笑顔で告げると、どうしたことか、アルさんは目の前の机に突っ伏してしまった。
「麗しのロストシードは、こうでなくてはね」
「ですわね!!」
「だよなぁ~!!」
「ですね……!」
「あぁ」
「うんうんっ!」
そう、ロゼさんからつづいたサロンのみなさんの肯定に、一人だけ事態の流れがつかめず、つい小首をかしげてしまう。
……アルさんは、いったいどうしてしまったのだろうか?
そしてみなさんは、いったい何を肯定していらっしゃるのだろう??
頭の中に増えていく疑問符は、その後につづいた歓談の中でも、残念ながら消えることはなかった。




