四百五話 大草原とあの魔物たち
※戦闘描写あり!
ハイアーアースウルフとの戦闘を終え、素材を回収したのち。
昼の陽光が木漏れ日となって射す、浅い森に伸びた土の街道を進み、あっという間に森を抜けると――お次は大草原が広がっていた。
「これはまた……壮観ですね!」
『そうげんひろ~~いっ!!!!』
大草原を突っ切る形でつづく土の街道は、最前線のジオの街まで伸びていて、なかなかに冒険心をくすぐる光景が出来上がっている!
それすなわち――ロマン!!
「アドルフさん、アリーセさん! さっそくまいりましょう!」
「あははっ! 楽しそうで良かったよ、ロストシード!」
「なんか、こっちまで楽しくなってくるわね」
お二人にお声がけして、小さな四色の精霊さんたちと共に、意気揚々と大草原へ!
さわやかに吹き抜ける風が、私の腹部あたりまで高く伸びた周囲の草をゆらし、緑の香りが立つ様に心を躍らせながらも。
少し進んだところで、足を止める。
スキル《存在感知》は、すぐそばに潜んでいる魔物たちだけではなく、かなり遠い位置にいる魔物まで、しっかりと感知してくれていた。
魔物図鑑に書かれていた、情報の順番を考えると……。
すぐそばにいる小型の魔物たちは、草にまぎれる緑色の毛並みをもつ兎姿の魔物――グラスラビットの群れだろう。
街道の左右に広がる、背の高い草の中、十数匹の群れの存在を把握して、気を引きしめる。
後ろに振り向き、お二人と一度うなずき合ってから、私と精霊さんたちだけ、左側の草の中へと踏み入り――瞬間、針のような鋭い葉が数十本、いっせいにこちらへと飛来した。
半ば反射的に、身体魔法〈瞬間加速 二〉を発動し、ひらりと背の高い草より上へと飛び上がって、緑魔法の攻撃を回避。
そのまま空中で、〈オリジナル:吹雪き舞う凍結の細氷〉を発動!
ぶわりと吹雪いた陽光に煌く細氷が、グラスラビットの群れを包み込むと同時に、地面へ着地。
追い打ちの〈オリジナル:隠されし刃と転ずる攻勢の三つ渦〉にて、グラスラビットたちをまたたく間につむじ風へと変えた。
「お見事!」
「すご……」
パチパチパチ、と後方で打ち鳴らされた拍手と共に、土の街道から私の戦闘を見ていたアドルフさんとアリーセさんの声が届く。
すばやく素材を《同調魔力操作》でうかせて回収し、お二人のもとへと戻り微笑む。
「見守りをありがとうございます。
お次にまいりましょう!」
「あぁ、行こう!」
「はーい、行こ!」
『またしゅっぱ~~つ!!!!』
ぽよっと肩と頭で跳ねた、小さな四色の精霊さんたちに微笑み、再び街道を進んで行くと、やがて草の背丈が下がり、足首ほどの高さに変わった。
そして……。
「なるほど、ここにいたのですね」
思わずつぶやき、見つめる前方には――緑色の羽毛を持つ爆走ヒクイドリの魔物、グラスノンバードが大草原を爆走し、艶やかな茶色の毛並みを持つ巨大兎の魔物、ラージグランドラビットが大草原の草を食む光景が広がっていた。
「前に来た時は、誰かがグラスノンバードと競争してたわね」
「あははっ! してたしてた!」
「競争……」
『はやさしょうぶ、すごい!』
『すごい!!!』
サラッと語られた過去の不思議な状況に、緑の瞳をまたたく。
小さな風の精霊さんと、他の三色の精霊さんたちには、どうやら好評のようだ。
……機会があれば私も競争をして、精霊のみなさんに喜んでもらうことも、一興かもしれない。
内心で今後の予定を立てつつ、歩みは止めずに魔物たちの近くまでたどり着くと、流れるように戦闘を開始する。
まずは、下草を食む巨大兎、ラージグランドラビットから!
頭から背へと伸びた長い耳が、近づいた私に反応してピクリと動き、巨大兎の魔物が顔を上げる。
穢れの色に染まっていなければ……もしかすると、可愛らしかったのかもしれないと、大規模戦闘イベントの時にも、かすかに思っていたけれど。
やはり予想通り、艶やかな茶色の毛並みの巨大兎は、丸い姿が可愛らしい魔物だった!
……とは言え、可愛らしさは精霊さんたちのほうが圧倒的に上なので、その点は横へ置いて。
すぐに視線が合った赫い炯眼を見返し、不敵に笑む。
――初手はこちらがいただきましょう!
「〈ラ・フィ・ラピスリュタ〉!」
精霊魔法を唱えつつ、〈オリジナル:昇華一:風をまとう石杭の刺突〉を刹那に二段階目へ移行!
二種類の石を飛ばす、土と風の精霊さんたちの精霊魔法と、オリジナル魔法が射出され、素早く展開された巨大兎をおおう土壁さえ、いくつかはつらぬいて攻撃を通す。
堅固な土壁も、穴をあけてしまえば、こちらのもの!
〈オリジナル:昇華一:風まとう水渦の裂断〉と〈オリジナル:昇華一:風まとう氷柱の刺突〉を発動し二段階目に移行させ、凍結と攻撃を加えると、崩れた土壁の向こうから茶色のつむじ風が立ち昇った。
軽快な勝利に、不敵な笑みを深め、次の魔物へと視線を注ぐ。
今まさに――こちらへと爆走してくる、グラスノンバードに!
背の低い草を蹴散らす勢いで、正面から突撃してくる魔物相手に挑むのだ。
今回は私も、正面突破を試してみよう!
刹那に発動したのは、〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉。
閃いた雷光が空中を飛び、グラスノンバードに直撃すると、緑色の羽毛を持つ身に紫電が奔る。
次の瞬間、麻痺効果によりその身が勢いよく地面に突っ伏して滑った!
偶然にも目の前で止まった、まだ麻痺効果が残る魔物に勝利の笑みをうかべて――〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉を放ち、しっかりと倒し切る。
『しーどりあ、つよ~いっ!!!!』
「さすがロストシード!
やっぱり一対一なら、余裕だね!」
「ふふっ! ありがとうございます」
ちょうど言葉が重なった、精霊さんたちとアドルフさんにお礼を伝えた後。
倒した二種類の魔物の素材をカバンに入れて、街道へと戻ると、不思議そうに首をひねったアリーセさんが、蒼の瞳を私へと向けて口を開いた。
「う~ん?
ロストシードさんが上の戦闘で苦戦するのって、やっぱり数の多さが厄介なだけよね?」
「えぇ、実際の問題点となりますと、やはり数の多さがもっとも厄介ですね」
アリーセさんの問いかけに、浮遊大地での大規模戦闘の様子を思いうかべて、素直に答える。
一対一ならば、アドルフさんのおっしゃる通り、浮遊大地でも戦うことが出来るのだけれど……しかしどうしても、数の多さには押されてしまう。
つい、何か解決策があるのだろうかと、お二人に視線を注ぐと、顔を見合わせたお二人は、次いでにこりと綺麗な笑みを咲かせた。
「やっぱり、数には数だよね」
「まぁ、物量には物量よね」
「な、なるほど……」
数には数、物量には物量。
お二人の言葉に、かろうじて納得の言葉を返しつつ、考える。
あの数に数で対抗するとなると……やはり、パーティー戦になるのだろうか?
そう言う意味では――レギオンのような戦闘を好むプレイヤーの集まりは、間違いなく強いのだろう。
つまりは私も、集団戦に慣れていく必要があるのだろうか。
イイ笑顔のお二人を見て、なかば確信的に、そう思った。




