四百四話 参加報告と相談と実戦
※戦闘描写あり!
眩い陽光が射し込む、昼の時間へと移り変わり。
浮遊大地での一時間の戦闘を終えて、トリアの街の噴水広場へと戻ってきた。
「あっははは!! やっぱりロストシードはすごいなあ!!」
「……そこはわかってたのよ。
でも、無自覚戦闘狂なのは、予想外よ……」
地上へと帰ってきたとたんに、楽しげな笑い声を上げたアドルフさんと、遠くかなたへと視線を飛ばしたアリーセさん。
ひとまず〈フィ・ロンド〉を解除してから、お二人へと戦闘後のご挨拶を紡ぐ。
「えぇっと……お疲れさまでした」
「あぁ! お疲れさま!」
「ん、お疲れさま」
すぐに返された同じ言葉に、安堵の微笑みをうかべつつ、これからの予定を尋ねる。
まずはと、アリーセさんが灰色の石盤を開いた。
「ロストシードさんの自己紹介簡易動画を撮って、【タクティクス】の語り板に送りたいんだけど、いい?」
「えぇ、承知いたしました」
「語り板に送れば、仲間のみんなと直接顔を合わせることができなくても、みんなに君のことを知ってもらえるんだ。
ね、アリー?」
「そーゆーコト!」
「なるほど」
はじめての試みだが、アドルフさんの分かりやすい説明のおかげで、自己紹介簡易動画の便利さは理解できる。
であれば――試してみるのみ、だ!
さっそく、改めて丁寧に自己紹介をしている姿を、簡易型画面通信を動画にする形でアリーセさんに撮っていただき、それをクラン専用の語り板へと送る。
これで、私が参加したことが、他の【タクティクス】のメンバーであるかたがたにも伝わるだろう。
「はいはーい、完了!」
「さすがアリー。手際が良いね!」
「まぁね。
って言うか、さすがに慣れたわよ」
「ありがとうございます、アリーセさん」
「どういたしまして!
それで……」
お二人の仲良しなやり取りを微笑ましく思いながら、作業をしてくださったアリーセさんにお礼を伝えると、蒼の瞳がこちらへと注がれた。
「この後、あたしもアディもけっこうヒマなんだけど。
ロストシードさんは何か予定ある?
あたしたちが付き合えるものなら、付き合うけど」
アリーセさんの言葉と、彼女の隣で甘やかに笑ってうなずくアドルフさんを見る限り、どうやらお二人はこの後の時間まで、あけてくれていたらしい。
それならば、と片手を口元にそえて、少し思考を巡らせてから、お二人に紡ぐ。
「私も、特にこの後の予定はありませんが……実は、攻略系であるお二人に、相談したいと思っていたことがありまして」
「おや? なんだろう?」
「え、かなり気になるんだけど。
なになに?」
「その、実は――」
さいわいにも、興味津々な様子で聴く姿勢を整えてくださったお二人に、以前から攻略系のかたならばどう対応するのだろうかと、気になっていたことを相談する。
すなわち――あの浮遊大地の、さらなる奥地で戦うためには、レベル上げ以外で何か方法はないだろうか、と。
奥地の魔物たちと、拮抗できるだけの手段は手にしているとは思う。
しかし今は正直に言うと、無理やり魔法と言う名の鈍器を振り回して、その勢いと威力で魔物たちと拮抗しているだけの状態なので、その先を目指すにはどうすればいいのだろうか?
そう、私の現状もふくめて相談内容を語ると、眼前のお二人の青と蒼の瞳が見開かれた。
「鈍器……」
「あ、普通にまだ上を目指してるのね」
表現に驚いたのだろうアドルフさんの呟きと、驚かれているのか呆れられているのか、半々に見えるアリーセさんの言葉に、思わず眉が下がる。
やはり、いささか無謀なことに挑戦をしようとしているのだろうか……?
いやしかし、一応私のつたない戦法でも、奥地に進めてはいるのだ。
そこからさらに先へと進む準備を、攻略系のみなさんはすでにはじめていると思ったのだが……。
「新しい街には、もう行ったかい?」
「いえ。足をのばした場所は、ラファール高山まででして……」
ふいに、そう穏やかな声音でアドルフさんが私へ問い、それにゆるく首を横に振って、正直に現状の探索状況を答える。
すると、とたんに名案を思い付いたかのように、アリーセさんが両手を叩いた。
「なら、せっかくだから一緒に行ってみないかい?
今の――最前線の街へ!」
間違いなく名案であった提案に、私の緑の瞳が煌いたのは、言うまでもない!
と言うことで。
今の最前線の街――ジオの街を目指し、アドルフさんとアリーセさんの案内のもと、ラファール高山の麓から、以前気になっていた横につづく道へと踏み入る。
整えられた砂利道を少し進む間、ラファール高山の麓までの道中でお二人に教えていただいた、難敵へと挑むための心得を思い返す。
いわく、強敵でも実戦を重ねることで、倒すための一手を思いつく、とはアドルフさんの言。
ゆえに今回、浮遊大地では穢れに染まり、その姿の詳細を見ることが出来なかったあの魔物たちと、ジオの街へ行く道すがら、実際に戦ってみることになった。
まずは、この先の浅い森の中にいる――ハイアーアースウルフ。
「あたしたちは手を出さないから、好きに戦ってね、ロストシードさん」
「はい、ありがとうございます、アリーセさん」
浅い森の入り口と、その先の出口まで透けて見える位置まで、砂利道を進み。
アリーセさんの気遣いに感謝しつつ、今度は私が先頭に立って森へと入り込む。
すでに、スキル《存在感知》は、魔物たちの居場所を教えてくれていた。
刹那、茂みを飛び越えて姿を現したのは、魔物図鑑に書かれていた通り、濃い茶色の毛並みをもつ、狼姿の三匹の魔物たち。
エルフの里の森にいた、アースウルフの上位種、ハイアーアースウルフに、間違いない!
そう認識した、次の瞬間。
地面から突如生えてきた土の杭の攻撃を、三人そろって軽やかに避け、お返しにと容赦なく〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉を瞬時に二段階目へと切り替えて放つ。
紫色の雷光放つ十八本の矢は、案の定、オーバーキルにて魔物たちを消し去った。
「ねぇ……ロストシードさん。
本当にあたしたちのアドバイス、いる?」
「はい、とても」
「そう……」
かなり生暖かい眼差しを私へと注ぎながら、問いかけてきたアリーセさんに、にっこりと満面の笑みで心から思う返答をすると、なぜか蒼の視線がかなたへと飛んでいってしまう。
小首をかしげる私の横で、アドルフさんが優しい微笑みをアリーセさんに向けた。
「まぁまぁ、アリー。
そもそもロストシードは、大規模戦闘での戦いかたに悩んでいただけで、きっと普段の冒険では困ってなかったんだと思うよ?」
「……そう言えばそうだったわ。
と言うかそれならやっぱり、特効攻撃連発でいい気がしてきた……」
「あははっ! たしかに!」
軽く額に片手を押し当てたアリーセさんの呟きと、アドルフさんの楽しげな笑い声を聴きながら、再度教えていただいた難敵へと挑むための心得を思い出す。
――それこそ、特効攻撃を持っているなら、それを全力で活用してもいいと思う、という助言が、アリーセさんからの言葉だった。




