四百三話 集団戦の仲間入り!(?)
※戦闘描写あり!
固まった決意と共に、レギオン【タクティクス】への参加登録を終えて――眩い陽光に、夜明けから朝の時間への移り変わりを感じ、微笑む。
ひっそりと小声で、小さな闇の精霊さんが姿を消す様子を見送ったのち、アドルフさんとアリーセさんを見やる。
【タクティクス】の他のメンバーへと、私の参加を手短にメッセージで伝えてくださったお二人は、私の視線に気づいて顔を上げ、笑顔を輝かせた。
「他の仲間たちとの正式な顔合わせは、また後にして……アリー」
「そうね。
とりあえず、浮遊大地のほうでも合流して、一緒に戦うのはどうかな、ロストシードさん?」
「えぇ、どうぞよろしくお願いいたします」
お二人の言葉に、好奇心を秘めてうなずきを返す。
これからは、あの興味深いと感じていた攻略系の集団戦を、間近で見ることが出来ると思うと……心も躍ってしまうと言うものだ!
ついつい、一人内心でわくわくをふくらませていると、今まで静かに事の成り行きを見守ってくださっていたアルさんへ、アドルフさんが笑顔で紡ぐ。
「アル。今回は、初対面の僕たちに協力してくれて、本当にありがとう!」
「お? あぁ、気にしないでくれ。
俺もイイものが見れたしな」
「本当に助かったわ、ありがと!」
「お安い御用さ」
私をこの中央広場へと導くため、一役買ったアルさんに感謝をするアドルフさんとアリーセさん。
お二人の言葉に対して、なんてことない、と言う風に普段通りの穏やかな笑顔を見せるアルさんの姿は、実に彼らしい。
「上での戦闘が、上手く行くことを願っとくよ。
ロストシードさんも、気をつけてな」
「はい。ありがとうございます、アルさん」
そうして言葉を交わし、アルさんに見送られながら、石盤のボタンを押し――アドルフさんとアリーセさんと同じタイミングで、広場から浮遊大地へ転送!
地面に足がつく感覚と共に、特効攻撃の浄化魔法〈プルス〉を発動!
眩い白光によって形作られた空白地帯のただ中で、お次にと精霊のみなさんとの共闘を願う、精霊魔法〈フィ・ロンド〉を唱える。
小さな四色の精霊さんたちが、肩から頭上へとうかび上がり、円を描いたのち。
《隠蔽 五》を意識して使用せず、次々に現れてさっそく攻撃を開始してくださっていた他の小さな精霊さんたちに、ご自身の力だけでかくれんぼをお願いしてみると……。
まるで想像の結果をなぞるように、円を描いて姿を現していた精霊さんたちが、小さな姿をまたたく間に隠してくださった!!
小さな五色の精霊さんたちの言葉通り、たしかにスキルである《隠蔽 五》を使わずとも、精霊さんたちはかくれんぼが出来る様子を目の当たりにして、思わずその素晴らしさに口角が上がる。
とは言え、残念ながら今回は、このままのほほんと喜んでいるわけにはいかない。
――早くレギオン【タクティクス】のみなさんと、合流しなくては!
「急ぎ、【タクティクス】のみなさんと合流いたしましょう!」
『はぁ~~いっ!!!!』
頭上でくるりとリング状に並ぶ、小さな四色の精霊さんたちへと告げた後、すぐさま後方へと駆ける。
さいわいにも、以前よりも前進していたらしい攻略系の集団は、すぐに緑の瞳に映った。
「あ! ロストシード!」
「ロストシードさん! こっちこっち~!」
「アドルフさん! アリーセさん!」
白い翼を広げて剣を振るうアドルフさんと、杖を振るって魔法を放つアリーセさんのすぐそばまで、魔物たちを精霊のみなさんの精霊魔法でけん制してもらいながら、走り抜けてたどりつく。
「お待たせいたしました……!」
「むしろかなり早くて、逆にびっくりしたくらいよ」
「僕もアリーと同感だな。
走って来てくれてありがとう、ロストシード」
「いえ、こちらこそ、ご一緒に戦っていただけることに、感謝を捧げたいと思うほどですので」
「あははっ! そこまで言ってもらえると、腕が鳴るね!」
「……たぶん、感謝はこっちがロストシードさんにしたほうがいいって結果になると思うんだけど……とりあえず!」
ブンッと杖を再び振るったアリーセさんが、黄緑色のポニーテールを流し、涼やかな蒼の瞳に闘志を宿して魔物たちを見据える。
その姿を見て、チラリと視線を交し合ったアドルフさんと共に、フッと不敵に微笑んだ。
「あぁ! 戦おう!!」
「えぇ――戦いましょう!」
さぁ――集団戦の仲間入りを、鮮やかにはじめよう!
意気揚々と、背を向けていた魔物たちへと振り向き、蒼の手飾りがゆれる右手をかかげて……。
「あ、ロストシードさんはあたしたちの少し前で戦ってくれる?
まだ連携とか何も決めてなくて、お互いに上手く攻撃を合わせられないと思うから」
「……おっしゃる通りですね。
承知いたしました」
至極まっとうなアリーセさんの言葉に、高揚感に埋れていた冷静さを取り戻しつつ、少しだけ前へと進み出て、今度こそ口を開いた。
「〈プルス〉!」
まずはと発動したのは、もはやお馴染みの特効攻撃。
白光が扇状に広がり、あっという間に穢れに染まる小さな兎姿の魔物たちをかき消していく。
――と、とたんに後方で、驚愕と納得の声が上がったのを、耳が拾った。
「やっぱり珍しいほうの浄化魔法だった!!」
「あぁ、神官の子しか使えない光魔法だったかな?」
「それそれ! 絶対威力おかしいって思ってたけど!
やっぱり普通の浄化魔法とは違うほうだった!!」
……まさかの事実が発覚しましたね?
古き浄化の力をもつ〈プルス〉は、アリーセさんいわく、なんと他の浄化魔法とは威力が異なるらしい。
反射的に、うかべていた不敵な笑みが固まった。
しかし、驚愕の事実が発覚しようとしまいと、魔物たちは襲ってくるわけで……。
固まっている場合ではないと気を取り直して、〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉と〈オリジナル:残痕刻む雷花水の渦〉を放ち、確実に魔物たちの群れを削っていく。
この大規模戦闘の形にもかなり慣れて、一度戦いの流れの中に入ってしまえば、湧き出る戦意を魔法に変えていくだけで、殲滅戦をつづけることができる。
それを実感して、つい不敵な笑みをうかべたまま戦闘していると、後ろからアリーセさんの声が届いた。
「ロストシードさんも戦闘狂だったの!?」
「えっ? いえ、そのつもりはありませんが……」
「ヤダー! また無自覚戦闘狂がふえたーっ!!」
なんとも悲痛な叫び声に、何事かと少しだけ振り向いた先では、アリーセさんが実に悩ましい表情で頭を抱えていらっしゃる。
正直なところ……その苦悩の意味は、よく分からないものの。
ひとまずそっと見なかったことにして、前に向き直り戦闘を再開した。
――世の中には、見て見ぬふりをすることで、守られる何かもある、と思いながら。




