三百九十六話 検証結果と雪辱戦!
※戦闘描写あり!
夕陽が照らす中、ラファール高山を無事に下山して、トリアの森と森林を軽やかに駆け抜け戻ってきた、トリアの街にて。
「お次は、ナノさんにこの防風のマントの効果の、検証結果をご報告にまいりましょう」
『はぁ~~い!!!!』
小さな四色の精霊さんたちの返事を聴きつつ、中央の噴水広場から、アトリエ【紡ぎ人】のクラン部屋である石の家へと歩みを進める。
ハイアーラファールウルフたちの毛皮と交換していただいた、この艶やかな銀色のマント。
この効果――すなわち、たしかに宿っていた防風の効果の検証結果について、もともと制作者であるナノさんには、お伝えすると決めていた。
足早に路地へと入り込み、クラン部屋である家の扉を開くと、すぐにつぶらなガーネットの瞳と視線が合い、反射的に微笑みがうかぶ。
「こんにちは、ナノさん」
「ロストシードさん!
こんにちは、なのです!」
淡いピンクのふわふわとした長髪と翅をゆらし、笑顔であいさつを返してくださるナノさん。
歩みより、定位置へと座った石の円卓は珍しいことに、ナノさんしか座っていない。
奥の鍛冶部屋にはドバンスさんの姿があるものの、ノイナさんとアルさんは出かけているのだろうか?
「ノイナさんは、作業部屋でポーションと格闘しているのです!
アルさんは、今日はまだログインしていないのですよ!」
「おや、そうでしたか」
不思議そうな表情をしてしまっていたのだろう、手元の布のしわを綺麗に伸ばしながら、ナノさんが教えてくださった内容に、うなずきを返す。
そう言うことならば、あまりお邪魔にならないよう、今回はナノさんへのご報告だけにして、すぐにお暇しよう。
もしアルさんがこの場にいたのであれば、以前お約束した共闘のおさそいをしようと思っていたのだけれど……ログアウト中ならば、いたしかたない。
のちのお楽しみが増えた、と言うことにしておこう。
そう頭の中で考えながら、ナノさんへと紡ぐ。
「実は、本日はナノさんへの、検証結果のご報告にまいりました」
「わぁ! 今身に着けてくれている、マントの効果について、なのです!?」
「えぇ」
「やったぁ! なのです!
どれくらいの効果なのか、ずぅっと気になっていたのですよ!」
そう声音を弾ませて、予想以上にわくわくとした雰囲気を放つナノさんへ、普通ならば立ち止まらざるをえない強風の中を、歩いて進むことが出来るほどの効果だったとご報告すれば、ガーネットの瞳を煌かせて喜んでくださった。
改めて、本当に素敵な作品をくださったことに感謝しつつ、そうそうにクラン部屋を出て職人通りを進み、宿屋[賢人の宿]へと戻ってくる。
ちょうど移り変わった、宵の口の空を窓越しに見上げ、小さな光の精霊さんを見送り、小さな闇の精霊さんを迎え入れたのち。
――静かに、気合いを入れながら、小さな四色の精霊さんたちに次の方針を紡ぐ。
「お次は、また浮遊大地へまいりましょう。
今回は――雪辱を果たす戦いに、してみせます!」
『おぉ~~!?!?』
思わずぐっと拳を握りしめて告げた私の言葉に、ぽよっと肩と頭の上で、精霊さんたちが驚きと楽しさの混ざった歓声を上げる。
……今回の参戦では、ちょうど以前敗北し、撤退を選択した、あの数種類の穢れに染まる魔物たち群れがいる戦場で、再び戦うことになるだろう。
前回の参戦時には、あの場所を目前にして、一時間の区切りとなったが――今度こそは、雪辱の殲滅戦にて、あの魔物たちに打ち勝ってみせる!!
戦意を胸に秘め、前に数本つくりおきをしていた分の、風や水、土や夜闇ポーションを飲み――いざ、本日二回目の参戦へ!
ビュオウ――と吹き抜けた風に、しかし防風のマントを身に着けたままであった身体が、ゆらぐことはない。
すぐさま開いた緑の瞳で、転送直後の周囲をざっと見回す。
少し離れた後方に、攻略系のかたがたの集団がいるだけで、この場はちょうど穢れに染まる魔物たちだけが群れていることを確認してから、息を吸い込む。
「〈プルス〉!」
もはや定番の初撃となった、特効攻撃たる浄化魔法が、近くの周囲を空白地帯へと変えるのを見届けてから、まずはと〈フィ・ロンド〉を唱えて、精霊さんたちに見えざる共闘をお願いしたのち。
――〈オリジナル:雷石旋風の攻防円環〉を展開!
旋風の中に雷光と小石が渦巻く帯状円環が、私を中心にして出現し、爆走してくるグラスノンバードさえ弾く、攻防一体の効果をさっそく発揮する。
攻撃系の風属性魔法をふくんでいるこの魔法には、その威力を向上させる《祝福:清風の威厳》が宿っているはずだ。
少し前にラファール高山……風宿りし高山の山頂に座す守護者様から授かった、ありがたい祝福に、心の中で再度守護者様に感謝を念じつつ。
いざ、前進開始!!
精霊さんたちの精霊魔法と、範囲型のオリジナル魔法で前方を切り拓き、タッと駆ければあっという間に、すでに目前となっていた目的地へと到着する。
油断なくサッと視線を巡らせた周囲には、今回こそは殲滅したい敵がそろっていた。
あいかわらず、爆走してくるグラスノンバードに、ピクリと長い耳を動かしてこちらを赫い炯眼で見やった、巨大な兎姿の魔物ラージグランドラビット。
いまだ名前の分からない浮遊する球体の魔物に、額に一本角を生やした馬の魔物、巨大なスライム、ツインゼリズ、狼の魔物の群れ。
まさしく以前、いっせい攻撃を受けたその場所で、再びさまざまな種類の魔物たちを相手に、今度こそ攻防円環を盾にして、冷静に戦っていく。
危うい時には、しっかりと特効攻撃である〈プルス〉や星魔法も活用しつつ、なんとか攻防円環が攻撃を防ぐ合間に、魔力ポーションをのみ、魔法を連発して――。
やがて、周囲がいっそう暗さをまとった頃、一時間の区切りとして強制送還が発動し、蒼光に包まれて宿部屋へと戻ってきた。
涼しさをまとう石の部屋を、緑の瞳に映した後は、〈フィ・ロンド〉と攻防円環を解除して……ふぅぅ、と深く吐息をつく。
ついでに、夜の時間の外が見える窓辺の椅子へと、深く腰を下ろす。
端的に言って、なかなかの激戦だった。
……正直、少々はやまってしまったかもしれない、と思うほどに。
しかし、それでも――雪辱は、果たせただろう!!
湧き出る感情のままに、ふわふわと眼前へと下りてきた小さな四色の精霊さんたちへ、笑顔を咲かせて感謝を紡ぐ。
「小さな精霊のみなさん! 今回も素晴らしい共闘、ありがとうございました!
みなさんのおかげで、今度はあの穢れに染まる魔物たちを相手に、殲滅戦をつづけることが出来ましたよ!!」
『わぁ~~いっ!!!! しーどりあ、よろこんでる~~!!!!』
私の感謝の言葉に、可愛らしく歓声を上げたみなさんが、ひゅんっと胸元へと飛び込んでくるのを両の掌で包み込む。
あぁ……きっとこの可愛らしさこそが、勝利の後のご褒美に違いない!!
ついつい口元だけでなく、頬までゆるんでしまったのは――ご愛嬌と言うことで。




