三百九十五話 高山のいただきで世間話を
『……最近は特に、シードリアと会う機会がおおくて、にぎやかで楽しいの。いつもはもっと長い間、大地で生きる子たちには会わないから』
「そうでしたか。同胞のかたがたも、こちらに……」
『しーどりあにあうの、ぼくもすき~!』
『しーどりあいっぱい、たのしい!』
『しーどりあとおはなし、たのしいね~!』
『にぎやかでたのしいの、いいこと!』
眩い陽光が橙色に変わり、夕方の時間へと移り変わる中。
山頂に着いてそうそう、素晴らしい祝福を授けてくださった、ラファール高山の守護者様へと感謝を告げた後、なぜか流れるように世間話がはじまっていた。
『小さな精霊たちも、そうおもうの? やっぱり、シードリアは特別なのね』
『うんっ!!!! しーどりあ、とくべつ!!!!』
ゆったりとした女性の声で守護者様が紡ぐと、小さな四色の精霊さんたちも返事の声を弾ませる。
次いで、パッと小さな四色の姿が眼前へと飛び出し、すぐさま私の胸元にぴたっとくっついた。
『いちばんとくべつなしーどりあは、しーどりあだよ!!!!』
「み、みなさん……! ありがとうございますっ!!」
思わず、とっさに返した感謝の声がうわずる。
あまりの可愛らしさと感動と嬉しさに、反射的に胸元のみなさんを抱きかかえるようにして包み込んでしまった!!
――今のはかなり、胸を射抜かれましたよ??
こう、きゅん、と。
ハート型の感情を!!
『エルフと精霊たちは、古くからなかよしだけれど、あなたたちもとってもなかよしなのね』
「はい! それはもうとてもとても仲良しですっ!!」
『いっぱいなかよし~~!!!!』
おっとりとかけられた守護者様の言葉に、きっぱり全力で即答する。
小さな四色の精霊さんたちも、胸元で嬉しげに声を上げているので、やはり私たちはいっぱいなかよし、に違いないのだ。
つい、満足気な笑顔を隠せないまま、その後も守護者様との世間話に花を咲かせる。
と言っても、こちら側がお話できる内容は、最近の出来事などのあたりさわりのないものくらいなのだけれど。
「今は天空にうかぶ浮遊大地で、穢れに染まる魔物たちと、大規模戦闘をおこなっております」
『そういえば……あの天から響く鐘の音が、ずいぶんひさしぶりに鳴っていたわね。穢れの魔物たちはつよいでしょう? だいじょうぶ?』
「はい。ありがたくも、創世の女神様の守護により、無事に戦いをつづけることができています」
『そう――さすがは尊きおかたね』
うんうん、と妙に人間らしさのある動作でうなずく守護者様に、こちらもうなずきを返しながら、この話題は語っても良いだろうと判断して、再度口を開く。
「実は、その浮遊大地での戦闘の際にも、風属性の魔法には、とてもお世話になっておりまして」
『そうなの?』
「えぇ! そのこともあり、さきほどの祝福はとてもありがたく感じております」
『それはよかったわ。
祝福は、いつも与えるにふさわしい子に与えているけれど……その子にとって役に立つかどうかは、別だものね』
そう言って、濃い銀色の瞳を細める守護者様に、心からの笑顔をうかべて言葉をつけ加える。
「私にとっては、今後たいへん重宝させていただくことになると思います。
本当にありがとうございます」
『ふふふ、それならうれしいわ』
上品なエルフ式の一礼に、言葉通り嬉しげに笑みを零した守護者様は、次いでどこか楽しげな雰囲気を身にまとうそよ風にふくませて、くちばしを開く。
『ロストシードは、この風宿りし高山のことをラファールと呼んだから、古くからの事情は知らないでしょう?』
「えぇ。残念ながら、存じ上げません」
鮮やかな話題転換に、しかしたしかに私はラファール高山を、風宿りし高山、と呼ぶことさえ知らなかったのだからと、素直に守護者様へうなずきを返す。
――実を言えば、古くからの事情、と言うものにロマンを感じて、その先が聴きたかったからでもあるのだが。
私の内心が伝わったわけではないと思うが、私の素直な反応を見た守護者様は、またもやうんうんと長い首の先の頭をゆらして、このラファール高山の古くからの事情を教えてくださった。
いわく、この高山には古くから、風属性が強く宿っていること。
そのため、他の地に強風による悪い影響をおよぼさないよう、永い時間、守護者様が風の流れを整え抑えることで、他の地を護ってきたのだそうで……。
「おや……?
それでは、より正確に表現をいたしますと、風宿りし高山の、と言うよりは、高山周辺の地の、守護者様でいらっしゃるのですね!」
『そうね。
……あら? そうね? どうして麓の子たちは、高山の守護者と呼ぶの?』
「ど、どうしてでしょう、ね?」
――語感が良いからかもしれません、とはさすがに言えず、胸中に留める。
私がうっかり零した疑問と確認のような言葉によって、最後は守護者様に疑問符をうかばせてしまったものの……キリも良かったため、世間話はここで終わった。
その後、守護者様がせっかくここまで登ってきたのだからと、お土産のように持たせてくださったのは、良質なヴェントスフルール。
そよ風をまとう銀色の花は、今回の大規模戦闘でもお役立ちの、下級風ポーションの素材で、この花の良質なものがラファール高山にある、と植物図鑑に書かれていたことはしっかりと憶えていた。
――それはそれとして、まさかこの山頂にあるとは思っていなかったし、守護者様の後ろに、花畑のように群生しているとは、もっと思っていなかったのだが。
さすがに予想外すぎて、思わず二度見してしまったのは、ぜひともご愛嬌と言うことにしていただきたい……。
せっせとヴェントスフルールを摘んだのち、最後に守護者様へとご挨拶をする。
『気をつけておりるのですよ、ロストシード、小さな精霊たち』
「はい! たいへんお世話になりました!」
『ありがとう~~!!!!』
守護者様の言葉に笑顔と一礼を捧げ、小さな四色の精霊さんたちと共に、橙色の夕陽に照らされた砂利道を下っていく。
『かぜのはな、いっぱいだった~!!!!』
「えぇ、いっぱいありましたねぇ」
そう、小さな四色の精霊さんたちと会話しながら、そっと撫でたカバンの中。
たくさん摘ませていただいた良質なヴェントスフルールは、これから先、きっとその身に宿す力を、存分に発揮してくれることだろう!




