三百九十四話 風宿りし高山の守護者
※戦闘描写あり!
トリアの街に戻り、灰緑色に彩られたラファール高山を目指して、街中と草原と、森を駆け抜ける。
麓のラファールウルフたちの頭上をひらりと飛び越えて、砂利道のラファールディアーたちの横を通り抜け、ハイアーラファールウルフたちと攻略系のみなさんがいる、広場のその先へ。
つづく砂利道にいた、ハイアーラファールウルフたちとも交戦を回避して、砂利道をさらに登ることしばし。
やがて、突然吹きつける風の音が耳に届く、強風地帯にたどり着いた。
「さて……問題は、ここからですね」
ビュオウ――と前方で吹く突風を見やり、静かに呟いて、艶やかな銀色のマントをそっと撫でる。
やわらかな手触りのこのマントに宿る、防風の効果ははたして、どれほどのものか。
さっそく、ナノさんにもお伝えする予定の、効果の検証をはじめよう!
「みなさん。ここから先は、しっかりつかまっていてくださいね」
『うんっ!!!! ぴたっ!!!!』
肩と頭の上で、言葉通りぴたっとしっかりくっついてくれた、小さな四色の精霊さんたちにうなずきを返し、足を踏み出す。
砂利道をさらに登っていき、次いで音と共に吹きつけてくる突風に立ち止まり――思わず、ほぅと感嘆の吐息が零れた。
明らかに、身にまとった防風のマントが、身体に当たる風の強さをやわらげてくれている!!
少し足に力を入れる必要はあるが、それでも以前アネモスさんとウルさん、テトさんのお三方とおとずれた時のように、立ち止まらなければならないほどの状態にはならない。
これならば……走ることは難しくとも、歩いて進むことは可能だ!
さすがはナノさん、と称賛を胸の内で捧げる。
……これで残る問題は、空を舞う魔物たちのみ。
そう思考を巡らせた、次の瞬間――空から、風の刃が降ってきた!
刹那に、〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉を二段階目へと転じて、流水をまとう守護の旋風で身を護る。
さいわい、予想通りこの魔法にもスキル《風の護り》が発揮されているようで、問題なく風の刃の攻撃を弾いてくれた。
再び吹いてきた強風にかまわず、昼の明るい空を見上げる。
遠い空の上で陽光を受け、その身の銀色をチカチカと煌かせる小鳥の魔物――ラファールスモールバードの群れに、お返しにと〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉を放つ。
計十八本の雷の矢が空へと紫の軌跡を描いて飛んでいき、見事に舞う魔物たちを射抜く。
落ちてくる銀色の魔石と銀色の羽根を、《同調魔力操作》にてこちらへと引き寄せてカバンへと入れつつ、再び放たれた風の刃を避けながら、前進。
守護の旋風にはそのまま身を護ってもらうことにして、時折ラファールスモールバードたちへ並行雷矢をお返ししつつ、とにかく上へ上へと砂利道を登っていく。
群れで行く手をはばむように、頭上から風の刃を複数飛ばしてくる魔物たちを相手に、素直に応戦していては、さすがに目的地へたどり着けないだろう。
そうしてもはや駆け上ることだけを重視して、さらに登っていくと……やがて、いつの間にか空からの攻撃が止んでいることに気づいた。
――いや、止んでいるのは、攻撃だけではない。
あれほど吹きつけていた強風も、後ろ側で音を立てている。
とすると、ここから先はまた少し、おもむきの異なる場所、と言うことだろうか?
小首をかしげて見やった前方は、ぐるりとカーブになっており、先を見通すことはできない。
少しばかりにじんできた緊張感に、深呼吸を一つ。
一度〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉を解除して、再度普段の一段階目の状態で展開したのち。
ぴたりと肩と頭の上にくっついていた、小さな四色の精霊さんたちが、ぽよっと軽く乗り直したことを確かめてから、慎重に足を進め……。
「っ」
やがて山頂とおぼしき、突如広々と拓けた場所に到着した瞬間、その場にいた存在を見て、反射的に息をのんだ。
美しい銀色の翼が、バサリと音を立てて動き、陽光に煌く。
すらりと伸びた長い首の上にある顔が動き、濃い銀色の瞳がひたとこちらを見つめた。
そこにいたのは、銀色の鶴に似た、巨大な鳥。
――ラファール高山の守護者。
天を飛ぶ姿を、一度だけ見たことのある、大きく美しいこの守護者は、小さな精霊さんたちいわく、私たちシードリアとは戦わない存在とのこと。
それならば、と息を吸い込み、固まっていた脚を動かして、ゆっくりと銀色の巨体の近くへと歩みよる。
とたんに感じた、そよ風が頬を撫でる感触に、気づく。
この守護者さんは、ラファール高山のいただきに在るにふさわしい、風をまとう存在なのだ、と。
さきほどまで身にうけていた強風とくらべると、優しささえ感じるほどのそよ風に、金から白金へと至る長髪をゆらしながら、座った今の姿勢でさえ地面から頭まで三メートルはある巨体のそばへとたどり着き、濃い銀色の瞳を見上げる。
少々その大きさと美しさに気圧されてはいるが、いつだってはじめましてのご挨拶はかわらないものだ。
上品に、優雅に――まずは、エルフ式の一礼を捧げる。
つづけてふわりとやわらかに微笑み、言葉を紡いだ。
「お初にお目にかかります。
私は、エルフのシードリア、ロストシードと申します。
ラファール高山の守護者たるかたにお逢いできたこと、本当に嬉しく思います」
『こんにちは~~!!!!』
小さな精霊さんたちと共に伝えたあいさつの言葉に、ゆったりと濃い銀色の瞳をまたたいた美しい守護者さんは、長いくちばしをそっと開いた。
『こちらこそ、会えてうれしいわ、シードリアのロストシード。それに小さな精霊たち。
風宿りし高山のいただきへ、ようこそ。
ここへいたった証に、この祝福を与えましょう。
――さあ、うけとって』
そう告げて、空へとくちばしを向けた守護者さんは――ピロロロロ……と、とても美しい鳴き声をこの場と天へと響かせる。
とたんに、しゃららら……と美しい効果音が鳴り、刹那に理解した。
本当に――祝福を授かっている!!
驚きに見開いた緑の瞳に、眼前で光り現れた文字が映る。
書かれていた文字は、[《祝福:清風の威厳》]。
とっさに灰色の石盤を開き、説明文を視線で追う。
[風宿りし高山の守護者から授けられた、レベルに応じて攻撃系の風属性魔法の威力が向上する祝福。レベルが高くなるほど、祝福の効果も向上していく。この祝福は、永続的に常時発動する]
これは、また――ありがたくも、とんでもない祝福を授かったようで!!
突然の展開に若干混乱しつつも、サッと素早く石盤を消し去った後。
何はともあれと、ラファール高山の守護者様へ、深々と感謝の一礼を捧げたのだった。




