三百九十三話 十七日目は落ち着いて……?
※戦闘描写あり!
本日も、良好な目覚めに一つ伸びをして、朝の日課をはじめる。
運動である散歩を楽しみ、朝食をしっかりと食べた後の予定も、もはや日課と言っても過言ではないかもしれない。
いざ――十七日目となる【シードリアテイル】の大地へ、ログイン!
『しーどりあ!!!! おかえり~~!!!!』
「小さな精霊のみなさん。ただいま戻りました」
『わぁ~~いっ!!!!』
緑の瞳を開く前に響いた、小さな四色の精霊さんたちの声に微笑み、あいさつを交わす。
白亜の宿部屋の窓から射し込む、朝の眩い陽光をうけて、それぞれの色を煌かせながら、ぽよぽよと嬉しげに胸元で跳ねる小さな姿は……今日もたいへん、愛らしい!!
思わずにっこりと満面に笑みを広げてから、ゆったりと身を起こして、ログイン直後の準備をはじめる。
と言っても、この準備はもう慣れたもの。
二種類の精霊魔法と、三種類のオリジナル魔法を持続展開し、小さな多色と水の精霊さんたちと魔法を《隠蔽 五》にて隠せば、あっという間に完了だ。
ふわりとかすかに、金から白金へと至る長髪が〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉によってゆれる様子を確認して、四色の精霊さんたちへとこの後の予定を紡ぐ。
「さて。この後はまず、神々へお祈りを捧げまして……それから、浮遊大地に戦いにまいりましょう」
『はぁ~~い!!!!』
小さな水、風、土、光の精霊さんたちの、明るく元気な返事に笑み、さっそくと宿部屋から出て、にぎわう階下の広間へと下り、神々へ《祈り》を捧げたのち。
また宿部屋へと戻り、灰色の石盤を開いて、ことさら穏やかに紡ぐ。
「それでは、落ち着いて、冷静に――本日一回目の、浮遊大地での大規模戦闘に、参戦いたしましょう」
『はぁ~~いっ!!!! いっぱいたたかう!!!!』
「――えぇ」
戦意を秘めた、不敵な笑みを口元にうかべ、[参戦する]の文字を迷いなく押す。
さぁ――今日も、創世の女神様の御心のままに。
穢れに染まる魔物たちとの、殲滅戦を繰り広げよう!
転送の蒼光に導かれ、再び大地を踏みしめた感覚と共に、凛と唱える。
「〈プルス〉!」
特効攻撃の一つ、白光の浄化魔法が周囲一帯の魔物たちを消し去り、空白地帯を広げたところで、昨日新しく習得したオリジナル魔法〈オリジナル:雷石旋風の攻防円環〉を展開。
精霊のみなさんとの共闘を可能にする精霊魔法〈フィ・ロンド〉と共に、強くて便利な攻防円環を活用して、またグラスラビットたちを弾き飛ばしながら、じりじりと先へと進んで行く。
冷静に繰り広げる戦闘の中、改めて攻防円環を観察することで、そう言えばと、一つあることを思い出した。
それは、以前レベル四十になった時に、付与魔法から昇華したスキルの存在。
守護系の風魔法の効果を、より高めてくれる、《風の護り》と言う名のスキルのこと。
今一度考えてみると、おそらくはこのスキルの効果が、攻防円環の防御面で発揮されているからこそ、これほどまでに護りが堅いのだろう、と気づくことができた。
たくさん増えた手持ちのスキルや魔法たちが、こうして互いに関係性を見せてくれることもまた、なかなかのロマン!
それに、今回はもう一つ、再確認できた。
――やはり、戦闘は戦意と楽しさにひたるだけではなく、冷静に自らと敵と現状を見つめておこなうことも、大切なのだと言うことを。
そうして、変わらず不敵な笑みをうかべながらも、内心は落ち着いて冷静に戦いをつづけていくこと、しばし。
ようやく……あの、数種類の魔物たちによるいっせい攻撃をうけた、敗北と撤退の奥地を目前にして。
――蒼光に包まれ、一時間の区切りの強制送還によって、白亜の宿部屋へと戻ってきた。
閉じていた緑の瞳を開き、〈フィ・ロンド〉と攻防円環を解除しながら、少々残念に思う感情を振り払うためにと、軽く首を横に振る。
……あの魔物たちとの再戦は、次のお楽しみに残したのだと思えばいい。
脳内でそう言うことにして、またたく間に眩く移り変わった、昼の時間の空を窓越しに眺めて……閃いた!
冷静にじっくりと、落ち着いて戦闘をした後は――好奇心のままに、冒険に行こう!!
「みなさん! お次はラファール高山の一番上を目指して、冒険を楽しみましょう!」
『わぁ~っ!!!! ぼうけんだ~~!!!!』
肩と頭の上で、ぽよっぽよっと跳ねる、小さな四色の精霊さんたちの様子を見る限り、どうやら私の告げた次の行動は、お気に召したらしい。
可愛らしい仕草に微笑み、出発の前にと、姿見の大きな鏡の前に立つ。
普段通り、今日も美しい姿だと自画自賛しつつ、水色のローブの胸元で煌く、エルフの里の細工師リリー師匠作の、羽の形に似た流麗な風模様のブローチを外す。
そのまま水色のローブも脱ぎ、カバンの中へしまうと、かわりに艶やかな銀色の、少し厚手のマントを取り出してまとった。
つい昨日、アトリエ【紡ぎ人】のお仲間、裁縫師のナノさんから貰い受けた、ナノさん作――防風のマント。
ハイアーラファールウルフの銀色の毛皮からつくられ、風の模様とそれをかこむ繊細な刺繍がほどこされているこの防風のマントこそ、ラファール高山の強風が吹きつける場所を抜けるための、重要なアイテムに違いない!
改めて心の中でナノさんに感謝しつつ、銀色のマントに、リリー師匠作のブローチを再び飾って、準備は完了だ。
胸の内で湧き上がった高揚を、優雅な微笑みに変えて、小さな四色の精霊さんたちへと紡ぐ。
「お待たせいたしました。それでは――ラファール高山にまいりましょう!」
『しゅっぱ~~つっ!!!!』
精霊さんたちの、楽しげな出発の声を合図に、宿部屋を出て、このパルの街のワープポルタがある、最初の噴水広場へと向かう。
人々があふれる大通りを歩きながら、好奇心に口角が上がるのを自覚する。
果たして今回こそは、ラファール高山の山頂まで、登ることができるだろうか?
防風のマントの効果のほどを、はやく確認したい!
それに、無事に登頂できたその時には、ぜひとも逢いたい存在がいる。
「お逢いできるといいのですが……」
最初の噴水広場の端に鎮座した、ワープポルタに手をかざして、かすかに呟く。
以前一度だけ、天で羽ばたく姿を見る機会に恵まれた、あの――ラファール高山の守護者の姿を、思い出しながら。
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