三百九十一話 疾風迅雷の前進戦!
※戦闘描写あり!
新しいオリジナル魔法の習得への感謝を、精霊神様に捧げてお祈り部屋を出ると、神殿の入り口から美しい薄青の光が射し込んできた。
――どうやら、夜明けの時間に移り変わったらしい。
『きたよ! しーどりあ!』
「いらっしゃいませ、小さな光の精霊さん」
『いらっしゃ~い!!!!』
パッと眼前に現れた、小さな光の精霊さんを迎え入れて、先に他の神々へもお祈りを捧げに行く。
天神様、魔神様、獣神様に技神様へ《祈り》をおこなったのち。
また神殿の宿部屋を借りて、小部屋の中へと入り込むと、気合いを入れ直す。
新しい魔法を習得した後は、実戦で活用してみる、と言う流れはすでに決まっている。
本日分の評価ゲージは、すでに端から端まで染まっているが、今さらそれを気にする必要もないだろう。
「それでは――新しいオリジナル魔法の確認も兼ねつつ、また浮遊大地での大規模戦闘に、参戦いたしましょう!」
『はぁ~~いっ!!!!!』
元気な五色の精霊さんたちの返事に微笑みながら、石盤を開いて[参戦する]の文字を押して――いざ、本日五回目の参戦へ!!
浮遊感の後、足がしっかりと地面を踏みしめてからも、まだ慌てない。
緑の瞳を開き、さっと周囲を確認すると、やはり予想通り、ここはサロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんと共に戦った場所だった。
濃い緑のたてがみと緑の毛並みをもつ、フォレストハイエナの群れを相手に、他のシードリアのみなさんが戦う様子を少しだけ観察したのち。
素早く優雅に、この場からより奥の地へと、魔物たちの間を駆け抜けて進んで行く。
まだまだ奥にある――私の戦場を目指して。
途中、ラファール高山付近の魔物たちの姿が見えてきたあたりで、〈フィ・ロンド〉を唱えて、精霊のみなさんと共闘の状態を整えつつ、浮遊大地を駆けることしばし。
いまだ、地上では戦ったことのない、穢れに染まった魔物たちがいる場所へとたどり着き、ようやく不敵な笑みを口元にうかべる。
赫い炯眼と視線が合い、かろうじて狼姿ということだけは分かる魔物――ハイアーアースウルフの群れに、まずはあいさつ代わりの特効攻撃、浄化魔法〈プルス〉を放つ。
またたく間に、周囲一帯を空白地帯にした後は、ここからが本番だと、フッと不敵な笑みをさらに深めた。
「さぁ――確認の戦闘、開始です!」
『いっぱいたたかう~~!!!!!』
頭上でリング状に並ぶ、小さな五色の精霊さんたちの戦意に満ちた声に、力強いうなずきを返し――さっそく、新しいオリジナル魔法〈オリジナル:雷石旋風の攻防円環〉を発動!
最初に、ゴオォと低く渦巻く風の音と、バチバチと鳴る小さな雷鳴が聞こえた。
次の刹那、中心となる私から、約大人三人分ほどの距離をあけて、ぐるりと周りを囲む三色を交ぜた帯状円環が、またたく間に出現する。
銀色の旋風の中、鮮やかな紫色の雷光が閃き、大量の小石が流れに逆らわず高速回転していく――脅威を宿した、攻防一体の魔法。
私の肩から足首までの高さをもつそれが、しっかりと私の周囲で円形となり、展開を持続している。
初動はよし。
お次は――攻撃性能と防御性能の確認だ!
視界に入った、兎姿ということだけは分かる小さな魔物たち、グラスラビットの群れとの距離を、タッと軽く地を蹴り縮める。
すると、ちょうど近くにいたグラスラビットたちに押し付ける形で、帯状円環が小さな姿に当たり――瞬間、バチィ! と雷に触れた音と共に、高速回転する旋風と小石の打撃をうけ、数匹が勢いよく弾かれて空中を飛んでいった。
まるで、風圧によって吹き飛ばされたかのようなありさまに、思わず二度見する。
ついでに、弾かれて投げ出された空中から、きりもみ状に落下して地面を転がる姿まで、ついじっくりと見送ってしまった。
予想以上の攻撃性能に、驚きを隠せない。
緑の瞳をまたたき、驚愕にひたっていると、他のグラスラビットの攻撃だろう、緑の針のような鋭い葉が飛来し……これまたあっけなく、攻防円環に弾かれた。
どうやら……防御性能も、申し分ないらしい。
『わぁ!!!!! しーどりあのまほう、すご~~いっ!!!!!』
「あっ、えぇっと、はい!
……想定以上に、凄い魔法に仕上がっていたようです、ね?」
頭上から響いた、小さな五色の精霊さんたちの歓声に意識を引き戻しつつ、素早く考察する。
おそらくは、《高速魔力操作》を意識して形作った、高速回転の部分が、かなりの威力を攻防円環に宿しているのだろう。
これならば……もう少し奥へ、進むことが出来るはずだ!
湧き上がった好奇心と高揚感を、戦意に変えて。
共闘してくださっている精霊さんたちと共に、前進開始!
そうして、一歩一歩状況を確かめつつ、新しいオリジナル魔法を駆使して、少し奥へと無事に進んで行く中。
グラスラビットの群れと、爆走ヒクイドリならぬグラスノンバードを相手にして、確かな手応えを感じると共に、〈オリジナル:雷石旋風の攻防円環〉の特徴にも気づくことができた。
これは、小規模に見えても、まさに疾風迅雷のごとく敵を蹴散らす強力な魔法。
加えて、帯状円環の内側は事実上の空白地帯になっていることから、予想以上に戦いやすい状況を整えることまでできる魔法だと。
そう、素晴らしい学びを得たのち、攻防円環と〈フィ・ロンド〉を解除して、一時間の区切りを待たずに、石盤を開いて帰還を意味する文字を押した。
「ふぅ……今回もまた、予想以上の収穫がありましたねぇ。喜ばしい限りです」
『いっぱいたたかった~~!!!!!』
「えぇ。みなさんも、お疲れさまです」
『わぁい!!!!! しーどりあも、おつかれさま~~!!!!!』
「ふふっ、はい。ありがとうございます」
蒼光に包まれて戻ってきた白亜の宿部屋で、肩と頭の上に乗る小さな五色の精霊さんたちと言葉を交わしてから、他の魔法も解除していく。
現実世界では、そろそろ眠りにつく時間が近づいて来ている。
つまるところ、ログアウトの時間だ。
小さな多色と水の精霊さんたちに感謝を告げて見送ると、そうそうにベッドへと横になる。
美しい夜明け色の光が射し込む中、小さな五色の精霊さんたちにもまたねを告げて――そっと、ログアウトを呟いた。
戻ってきた現実世界で、全身を包み込むクッションタイプのソファに沈み、戦闘後の疲れを癒しつつ、十六日目を振り返る。
公式イベントがはじまってから、まだ二日目である今日も、実にたくさんの楽しさと学びにあふれていた。
きっと明日は、また異なる楽しさと学びが、この心を弾ませてくれるのだろう。
そう思うだけでも湧き出る好奇心に、一人笑みを零しながら。
手早く寝る準備をすませて、ゆったりとした夜の癒しに、身をゆだねることにした。
※次回は、世迷言板内のやり取りの記録の、
・幕間のお話
を投稿します。




