三百九十話 思索の果ての攻防円環
引きつづき、集中しながら魔法についての情報を記憶から引き出し、まとめていく。
その途中で、はたと思い出した。
「おや……? そう言えば、レベル五十と言えば……」
思わず呟きを零しながら、以前読んだ[中級魔法の習得方法]や[中級魔法各種概要]と言うタイトルの本の内容を、記憶の中から引き出す。
中級魔法を習得するための、基礎的な条件は……[習得したい属性の魔法に親しんでいること]と。
[レベル三十以上、可能ならば五十であること]
――そうだ! たしかにここで、[レベル五十]の表記があった!!
すっかり文字通り、記憶のかなたに遠のいていた情報を思い出して、口角が上がる。
レベル五十になった時から、ずっとこの[レベル五十]と言う文字を、どこかで見たような気はしていたのだが……今ようやく、答えにたどり着いた!
つまるところ、今の私の状態は、レベル五十への到達によって、中級魔法を習得するための基礎的な条件が、完全に整っている、と言うこと!!
私の場合は、レベル五十になるずいぶん前から、中級魔法自体は習得できていた。
しかし、かろうじて条件が整っているからできるものと、正式に条件が整った上でできるものとでは、違う結果が出ると言う可能性も捨てきれない!
きっと、この本の中で情報が出ていたと言うことは、少なくとも中級魔法に関してはこのレベル五十になった時点で、ほとんどのかたが習得できるのだろう。
……属性に親しんでいれば、と言う大前提の注釈はつくけれど。
いや、とにかく、だ。
少なくとも私の場合は、これは純粋に嬉しい状況と言えるだろう!
ただ……これを喜ぶだけでは、まだ足りない。
新しいオリジナル魔法を習得するためには――さらにこの先の思考が、重要になってくる。
たとえば……魔力操作や、魔法操作に関する部分は、どうだろう?
今まで魔力操作は《精密魔力操作》や《同調魔力操作》を意識していた。
それに魔法操作では、《並行魔法操作》や《複合属性魔法操作》、《二段階属性魔法操作》とこれらを併せた、《複雑属性魔法操作》を重要視してきたのは、間違いない。
より魔法に関して深く考えて行くのであれば、魔法の型や系統なども、今までに習得したオリジナル魔法には、少々かたよりがある。
特に、魔法の型に関しては、範囲型や二段階で発動させるものを、意図的に選んできたほどだ。
では、これらに焦点を当てて、変化を加えるとするのなら……?
閃きを、ふわふわと眼前でうかんでいる、小さな四色の精霊さんたちへと問いかけてみる。
「魔力操作の中でも、錬金術でおなじみの《高速魔力操作》を、魔法の動きや形を決めるために活用した場合は……どうなるのでしょう?」
『まほうのうごき、はやくなる?』
『はやくなるけど、はやくならない?』
『れんきんのぐるぐると、おなじ~!』
『しーどりあの、そうぞうがだいじ~!』
どうやら、私の想像力次第では、今までとは異なる速さを追加できる可能性が出てきた。
四色の精霊さんたちにうなずき、重ねて問う。
「なるほど。
では、魔法の型に関しても、範囲型や二段階ではなく、変容型や持続型を活用することで、新しい魔法の形を習得できるかもしれませんね?」
『うんっ!!!! ちがうのになる~~!!!!』
今度はそろって返された言葉に、ふっと口角が上がる。
魔法操作はともかくとして、魔法の型を替えることも、重要なようだ。
そうなると……いろいろな選択肢が、増えてくる。
――あぁ、これを考えることこそ、魔法と言う名のロマンの、醍醐味だろう!!
深呼吸を、一つ。
まずは少し落ち着いて、そして認識も少々、改めよう。
今回、あの浮遊大地の奥地にいる魔物の群れに対抗するための、新しいオリジナル魔法を習得する、と言う目的は変わらない。
しかし、気負い過ぎると、かえって豊かな想像はできなくなるもの。
と言うことで――今回は実験を兼ねたお試しという感覚で、新しいオリジナル魔法を考えることにしよう!
「さぁ……楽しくなってまいりましたよ!」
『しーどりあ、わくわくしてる~~!!!!』
「えぇ! 魔法に関する情報を、改めて整理した今――これまでの学びを活かした上で、少しばかり趣向をこらした魔法を、習得してみせます!」
『わぁ~~っ!!!!』
わくわくの精霊さんたちに笑顔を注ぎ、次いでいよいよ、新しいオリジナル魔法の形を決めていく。
今回組み合わせるのは――さきほど閃いた《高速魔力操作》と、持続型にしてみよう!
持続的に高速回転する魔法の展開、と言う形は、実用性もロマンもあるので、好いかもしれない。
高速回転による攻撃方法で、威力を最大限発揮できる属性は風だが……ここに雷や土を交ぜると、威力はさらに上がるはず。
後は、この魔法で攻撃と防御を同時におこなうことができれば……あの魔物たちのいっせい攻撃にも、対応する余裕が生まれるのではないだろうか?
そうと決まればさっそく――想像だ!
魔法の形状は、私の周囲の空間で持続的に展開する、帯状円環。
雷と石を交ぜて高速回転する強風によって、攻撃と行動の阻害による防御を両立させる。
この想像を……魔法として、創造!!
瞳を閉じ、集中してイメージをつづけること、しばし。
しゃらん、と鳴った効果音に緑の瞳を開くと、眼前にはしっかりと光る文字がうかんでいた。
[〈オリジナル:雷石旋風の攻防円環〉]
攻防円環とはまた、なんともロマンを感じる響き……!
思わず胸を弾ませながら、灰色の石盤を開き、刻まれてゆく説明文を読み上げる。
「[無詠唱で発動させた、持続型のオリジナル攻撃系兼防御系、複合中級風・雷・土魔法。発動者の周囲を、雷光と大量の小石を交ぜて高速回転する旋風が、広い帯状の円で囲むように持続展開して、周囲にいる敵への攻撃と、高速回転と麻痺状態によって行動を阻害する守護を、同時におこなう。無詠唱でのみ発動する]」
最後まで読み上げて、満足さと共にふっと吐息を零す。
あぁ――完璧な仕上がりだ!!




