三百八十九話 魔法の導きをたどる者
美味しい幸せと、称賛があふれたティータイムは、あっという間に夜の時間を満たし、やがて深夜へと時間が移り変わった。
「ステラ。そろそろ時間だろう」
「あっ! うん! ログアウトの、おじかん!」
静かに紡がれたシルラスさんの言葉に、ステラさんが椅子からぴょんと降り立つ。
――どうやら、ステラさんとは、またねを交わすお時間のようだ。
同じように椅子から立ち上がるみなさんと共に、ステラさんのそばへと歩みより、あいさつを交し合う。
「あのね、あしたはあそべないから、あさって、またあそんでね!」
幼げながらも、そうしっかりと伝えてくださるステラさんに、みなさんとそろって笑顔でうなずきを返す。
「分かりましたわ!! また明後日、ですわね!!」
「明後日が楽しみになってきたね」
「お~! また明後日にな、ステラちゃん!」
「またね、ステラちゃん」
「また遊ぼう、ステラ」
「また遊びましょうね、ステラさん」
「うんっ! またね!」
にっこりと、可愛らしい笑顔を咲かせて、ステラさんが金光に包まれてログアウトする様子を見届けたのち。
今回のティータイムはこれにておひらき、とのことで、私もサロンのみなさんと分かれて外へ出て、大通りの人波をするりとよけながら、そのまま神殿へと向かう。
胸の内では、サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんとの共闘を終えて、ますます戦意が湧き出ている。
ついうっかり、このまま本日五回目の参戦に、と浮遊大地へ向かおうとする気持ちを、しかし今はまだ抑えておく。
戦いにおもむくその前に――新しい戦法を考えよう!
「精霊のみなさん。お次は、神殿で新しい戦いかたを考える時間を、楽しみましょう」
『はぁ~~いっ!!!!』
肩と頭の上でぽよっと跳ねて応えてくださる、精霊さんたちに微笑み、壮麗な白亜の神殿へと踏み入る。
深夜のこの時間には、お勤めを終えている神官さんの姿はないが、かわりにぽつぽつとシードリアのかたがたの姿があった。
それとなく観察しながらも、こちらはさっそくと精霊神様のお祈り部屋へと入る。
長椅子へと腰かけ、まずはと《祈り》を発動して、感謝のお祈りを捧げた後。
――思考に没頭する、楽しいお時間の開始だ!
「さて……まずは今後の目標の再確認、ですね」
『おそらのだいちの、おくにいるまものたちをたおす~~!!!!』
「さすがはみなさん。おっしゃる通りです!
私の――いえ、私たちの目標は、あの浮遊大地のさらなる奥地にいる、魔物たちを倒すこと。
そして今回は、特効攻撃以外の手段で、あの魔物たちを倒す手段を考えていきます」
『いっぱいかんがえる~~!!!!』
くるくると、眼前で舞う小さな四色の精霊さんたちの、なんと頼もしいことだろう!
ついにこにこの笑顔になりながらも、思考を巡らせて紡ぐ。
「手段……戦いかたとしましては、やはり新しいオリジナル魔法を習得することが、必須だと思います。
最初は、レベルを上げて全体的な強さを引き上げることで、戦うことが出来るのではないかと思っていましたが……五十から先は、レベルを一つ上げるにも、少々お時間がかかりすぎてしまうようですので」
『うんうん!!!!』
そう、正直なところ、レベル五十と言う区切りの真実を知る前は、本当にレベルさえ上げることが出来れば、あの魔物たちと戦う土台が整うだろうと思っていた。
しかし、実際にはこの策を活用することは難しいと、すでに判明している。
なにせレベル五十から先のレベルへと上げるためには、今までとは比べものにならない量、あるいはより強大な魔物を倒す必要があるのだ。
これでは、レベルを上げている間に、公式イベントが終わってしまう。
……と言うことで、レベルのことはいったん横に置いておく。
「新しいオリジナル魔法を習得する、と言うことについてですが……こちらも今回は、今まで以上によく考えてみましょう」
『もっとかんがえる????』
不思議そうにコテッと半回転して、空中で器用に首をかしげてみせる精霊さんたちへ、真剣な表情でうなずきを返す。
「はい。あの奥地にいる魔物たちの厄介なところは、複数の種類の魔物たちが、いっせい攻撃をしかけてくるところですからね。
おそらく……今までのオリジナル魔法とは、異なる工夫が必要かと。
――ですので、こちらも今一度改めて、魔法に関する情報の再確認をしてから、習得することにいたしましょう」
『うんっ!!!! わかった~~!!!!』
精霊さんたちの、元気いっぱいな返事に微笑みを返しながら、さっそくスキル《瞬間記憶》で記憶した情報たちを、少しずつ引き出してくる。
魔法とは、魔力操作と想像により引き起こされる創造的な力であること。
魔力を放出し、魔法を想像することで、魔法を習得、発動できること。
魔法の属性と、魔物の属性について。
そして関連する、魔力操作や魔法操作のスキルたち……。
情報を頭の中でまとめながら、思考を研ぎ澄ましてゆく。
どうすれば、浮遊大地のさらなる奥地にいる、あの穢れに染まった魔物たちの群れと戦うことができるのか?
その問いへの答えとなる魔法とは、いったいどのような魔法なのだろう?
……図らずも、実にシードリアの魔導師と呼ばれる者らしい考察をしているような、気もするが……。
今は、ふいに思い出して湧き出た気恥ずかしさに、かまっている場合ではない。
なにせ今は、これまでに得た魔法の知識をたどり、新しい答えを出すための、思索の時間。
これに没頭してこそ――手にしたいと願う答えを、見つけることが出来るのだろうから。




