三百八十八話 勇姿を称え、知識を尊ぶ
※ふわっと甘味系飯テロ風味です!
窓の外に広がる夜色の暗さを、押しのけるほど明るく華やかな室内で、ティータイムはつづく。
はじまりこそ、私にとっては唐突なものであったこの時間は――その名の通り、実に素晴らしいお飲み物とお菓子を楽しむ、素敵な時間なのだと知ることができた。
それだけでも、すでにかなり大満足だと言える。
とは言え、お伝えしたい言葉はしっかりと、忘れないうちに伝えておこう!
心を決めて、ティーカップに入ったリヴアップルティーと、アクアプラムゼリーとマナプラムクッキーに夢中なみなさんへ、穏やかに今回の参戦時の勇姿を称える言葉を紡ぐ。
「それにしても、今回の戦闘では、本当に素晴らしい勇姿を見せていただきました。
正直なところ、あまりにもみなさんが美しく戦っていらして、驚いてしまいました」
心からの言葉をお伝えすると、キラリとフローラお嬢様の金の瞳が煌いた。
「あらっ! ロストシードからのお褒めの言葉ですわ!!」
「みんな、自身に拍手をしよう」
「パチパチですわ~~!!!」
そう流れるようなフローラお嬢様とロゼさんとのやり取りに応じて、わっと歓声と共に、次々と打ち鳴らされた拍手が響く。
もちろん、私もみなさんに拍手を捧げて、しっかりと胸の内の感動をお伝えする。
「みなさん、本当に素敵でした。
ロゼさんとルン君の剣技は、以前よりもずっと冴えわたり、鋭いものに見えました」
「ふふん。さすがは麗しのロストシードだ。それが分かるとはね」
「やったぜ!! ロスト兄にほめてもらえるなんて、おれも成長したってことだよな!」
「ふふっ! もちろんです」
珍しく素直に喜びつつ、私を褒め返してくださるロゼさんと、満面の笑みを咲かせるルン君にうなずきを返しながら、流れるようにフローラお嬢様へと視線を移す。
「フローラお嬢様も、数種類のオリジナル魔法を重ねての活用、お見事でした」
「まぁ!! 嬉しいですわっ!! 今なら何杯でも、リヴアップルティーのおかわりを注ぎましてよ!!」
「ありがとうございます。ではまず一杯、いただきますね?」
「わかりましたわ! さぁ、どうぞ」
勢いよく、しかし不思議と上品さをそこなわず、ティーポットを持ち上げたフローラお嬢様は、そっと差し出したティーカップに、薄紅色のリヴアップルティーを綺麗に注ぎ入れてくださった。
一口楽しみ、お次はとアルテさんに微笑みかける。
「アルテさんも、小さな緑の精霊さんとの連携技が、とてもお上手でした。
私も見習いたいと思う場面が、何度もありましたよ」
「えっ! ありがとうございますっ! えへへ……うれしいね」
『わぁ~い! うれしい~!』
あわあわと少しだけ慌てながらも、いつもよりずっと鮮やかに笑み、右の肩の上に乗っていた小さな緑の精霊さんと喜び合う姿に、こちらまで胸がほかほかとあたたかくなった。
「よかったね、アルテおねえちゃん! 緑のせいれいさん!」
「おや! ステラさんの星魔法も、たくさんの魔物を倒していて、とても綺麗で素敵でしたよ」
「わぁ~! ありがとう、ロストシードおにいさま!」
「えぇ」
アルテさんの横で、アルテさんと緑の精霊さんに優しい声をかける、好い子のステラさんにも、しっかりと追撃の星魔法が素晴らしかったことをお伝えする。
小さな両の掌を頬に当てて喜ぶ姿は、本当に可愛らしい!
ついついゆるみそうになる口元を、なんとか上品に整えながら、最後にと右隣に座るシルラスさんへと緑の瞳を向ける。
「シルラスさんも、実に的確な追撃、お見事でした」
「ありがとう、兄君。
的確さに関しては、まだまだ兄君の足下にもおよばないが……今回のサロンのみんなとの共闘では、得るものも多かった」
「シルラスさんは、十分お上手だと思いますが――学びに関しては、私もたくさんの得るものがありましたねぇ」
お互いを褒め合いつつ、追撃と補助に専念した者同士、シルラスさんとはしみじみと今回の戦いを頭の中で振り返りながら言葉を交わす。
ふと、このような語りかたが出来るほど、シルラスさんと私の技量は近いものがあるのだと言う点に気づき、さらに一人感慨深く感じていると、綺麗な咳払いが響いた。
何事だろうかと、咳払いをしたロゼさんのほうに視線を向けると、私と目を合わせたロゼさんが、かっこよく微笑み、口を開く。
「今回の大規模戦闘では、僕たちみんながオリジナル魔法の世話になっていると、僕は思う」
「前に、ロスト兄がおしえてくれたおかげだよな~!」
「ルンの言うとおり、ですわね!!」
改めて、と言う風に紡いだロゼさんの言葉に、ルン君とフローラお嬢様が同感の言葉をつづけ、アルテさんとシルラスさん、ステラさんまでうんうんと、うなずいてくださる。
素直に伝えてくれたルン君の言葉が嬉しく、みなさんの仕草にもありがたさを感じていると、さらにロゼさんが言葉をつづけた。
「けれど、オリジナル魔法を習得して、今回の大規模戦闘で活用できているのは……なにも、僕たちだけではないんだよ? 麗しのロストシード」
……何やら、お話の流れが変わってきた気がしますね?
フッと、意味深長な笑みをうかべなおしたロゼさんに、思わず背筋をのばす。
こういう表情の時のロゼさんからは、予想以上の発言が優雅に飛び出してくるので、油断ができない。
条件反射のように若干身構える私に対して、やはりどこまでも優雅に、ロゼさんは告げた。
「他のプレイヤーのみんなも、オリジナル魔法を習得できて良かったって、色々なところで言っているのを見かけるよ。
まさに君――シードリアの魔導師のおかげ、だってさ」
あぁ……やはり、さらっとそう言うことをおっしゃる!!
さらにはなぜか、石盤を開いてこちらへと向けて――そのページはたしか、[シードリアの魔導師]と言う二つ名がつくきっかけとなった、オリジナル魔法についての語り板では!?
内心全力で気恥ずかしさに焦る私を置いて、ロゼさんの発言を口火に、みなさんまでそう言えばと、次々に灰色の石盤を開きはじめる。
そうして、あれよあれよという間に、語り板や世迷言板を開き見せられる状況の中、本当に凄い知識を授けたのだと褒めていただき……。
――たいへん照れてしまったのは、もうご愛嬌にしていただけますか!?




