三百八十七話 戦いの後のティータイム♪
※甘味系飯テロ注意報、発令回です!
空の色が本格的な夜色をまとう、宵の口から夜の時間へと移り変わった後。
一時間の区切りを示す蒼光につつまれて――サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんと一緒に、クラン部屋へと戻ってきた。
「戦闘、お疲れさまですわ!!!」
カバンからささっと扇子を出し、パッと開いたフローラお嬢様が、そうねぎらいの言葉を響かせるのに合わせて、私も他のみなさんも「お疲れ様」を紡ぐ。
実際一時間の戦闘中、【ユグドラシルのお茶会】のみなさんは、本当に華麗に奮闘したと思う。
広い部屋に置かれている長机に歩みより、それぞれの定位置の椅子へと腰かけると、誰からともなくほっと吐息が零れ落ちる。
戦闘による疲労感か、あるいは戦場から離れたことへの安心感からか……とにかく、無理もない。
この場でまだ戦う余裕が残っているのは、私とシルラスさんと、元気いっぱいなルン君くらいだろうから。
「――さて。戦いの後には」
短く、唐突にそこまで紡ぎ言葉を切ったロゼさんは、切れ長の紫紺色の瞳をフローラお嬢様へと流し、かっこよく笑む。
ロゼさんの視線を受け、フローラお嬢様もまた、美しく微笑んだ。
「もちろん!! ティータイムですわ!!!」
とたんに、わぁっとアルテさんとステラさんから歓声が上がる。
ルン君も碧の瞳を輝かせている上、シルラスさんまでどことなく、そわそわとしていらっしゃるように見えるのだけれど……これは、いったい?
私だけが、みなさんが楽しみにしていらっしゃるティータイムのことが分からず、つい小首をかしげてしまった。
疑問を表す私の動作を、しっかりと見つけてくださったロゼさんが、楽しげな笑顔のまま口を開く。
「あぁ、麗しのロストシードは、戦いの後のティータイムははじめてだったね」
「まぁ!! そうでしたわ!?」
ロゼさんの、そう言えば、と言う風な言葉に、フローラお嬢様から勢いよく視線が飛んでくる――のみならず、その可憐なお姿をぐっとこちらへと勢いよく、机の上に身を乗り出す形で近づけ、
「ぜひとも!! ゆっくり楽しんでいってくださいませね、ロストシード!!」
そう、咲きほこるような笑みと共に、明るい声音を弾ませる。
「え、えぇ。楽しませていただきます」
……思わず、その迫力を宿した仕草と言葉に、ほんの少し身を引きながら返事をしてしまったことは、ぜひともお許しいただきたい。
決して、フローラお嬢様が怖かったわけではなく、単純に勢いに驚いてしまっただけなので!
――それはそれとして。
笑顔を輝かせるフローラお嬢様と、驚きに緑の瞳をまたたく私とのやり取りの横で、ロゼさんはすでにティータイムの準備をはじめてくださっていたらしく。
カチャッと、小さな陶器の音を立てて、机の上に次々と並べられていく花柄のティーカップの中には、薄紅色のお飲み物がゆらめいていた。
甘いリンゴの香りがするので、おそらくはリヴアップルティーだろう。
「あのね! ロストシードおにいさま! おのみものも、おかしも、ロゼおねえさまと、フローラおねえさまが、つくってくれたものなの!」
「おや! そうでしたか、こちらはお二方が……」
可愛らしく淡い瞳を煌かせて語るステラさんの言葉に、さすがはお二方だと感服しながらうなずきを返すと、ステラさんの横でアルテさんも肩口で整えている金髪をゆらしながら、数回うなずきを繰り返す。
「とっても! 美味しいんですっ!」
「だな~! 店のもうまいけど、お嬢と姐さんのもめっちゃうまい!!」
「私も同感だ」
「それは……私もとても楽しみになってまいりました!」
つづけて、アルテさんにルン君、シルラスさんにまで、そう絶賛を語られては……気になってしまうのも、仕方がないと言うものだろう!!
ついつい、私まで緑の瞳を煌かせる心地で、ロゼさんとフローラお嬢様を見やると、さらにゼリーとクッキーが机の上に追加される。
並べていただいたお飲み物とお菓子を一度見てから、ステラさんとアルテさん、ルン君とシルラスさんと私が、そろってキラキラとした瞳をロゼさんとフローラお嬢様へと注ぐ。
期待のこもった眼差しを受けたお二方は、片手でお飲み物とお菓子を示して、優雅にティータイムのはじまりを告げてくださった!
「まずはリヴアップルティーから、楽しんでくださいませ!!」
そう紡がれたフローラお嬢様の言葉に従い、まずはと可愛らしい花柄のティーカップをそっと持ち上げる。
ふわりとリンゴに似た香りが嗅覚をくすぐり、自然と口角が上がった。
そのままカップに口をつけ、一口。
すぐに口の中に広がった、酸味のあるさっぱりとした甘さを、楽しみながらのどへと送る。
リヴアップルティーは以前お店で飲んだことがあるが、こちらは少しリヴアップルの風味が濃いだろうか?
個人的には、こちらのほうが、好みだ。
カップを置き、お次はとスプーンを手に取って、アクアプラムゼリーだと紹介していただいた、水色のゼリーを一口すくう。
ステラさんのつぶらな瞳を、キラキラにさせているゼリーは、優しい甘さ加減が絶妙!
ついパクパクと、ステラさんと一緒になって食べ進めてしまった。
最後にと、マナプラムを混ぜているマナプラムクッキーを一枚つまみ、口へと運ぶ。
サクッと一口分をかむと、こちらもすぐに笑みがうかんだ。
何と言っても、この甘酸っぱさとサクサク感が、ちょうど好い!
果物入りクッキーとしては、かなり完成されたものなのではないだろうか?
――この感動は、しっかりとお二方に伝えなくては!!
もはや反射的に、ステラさんとアルテさんへマナプラムクッキーを分けてあげているロゼさんと、ルン君にリヴアップルティーのおかわりをティーポットから注いでいるフローラお嬢様を見つめ、笑顔を咲かせる。
「本当に、どれもとても美味しいです!!」
「それは良かった」
「まぁ!! そうでしょうそうでしょう!!!」
感動を宿した私の言葉に、お二方はまんざらでもない、という表情で応えてくださった。
それに、さらに笑顔を重ねながら、美味しいお飲み物とお菓子に笑顔を咲かせるみなさんを眺めて、改めて思う。
はじめて参加した、このティータイムと言う時間は――なんと素敵な時間なのだろうか、と!!




