表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【PV・文字数 100万越え!】マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記  作者: 明星ユウ
三章 はじめての公式イベントを楽しもう
385/441

三百八十四話 幕間四十 鮮やかな強者たる姿を見せる彼

※主人公とは別のプレイヤー視点です。


※戦闘描写あり!


 



 最新の没入ゲーム【シードリアテイル】。


 五感体験をも楽しむことが可能と謳うのなら、非常に自由度の高い遊びかたが実現されているに違いない……!

 そう、サービス開始前にも多くのプレイヤー予備軍のみなさんに、予想されていたこのゲームを、サービス開始初日からはじめてみると。


「いやはや……これはこれは。

 ……予想以上の現実感、ですね」


 はじまりの地を見回し、思わずそう艶やかなテノールの声で呟きを零したことを、つい昨日のことのように思い出します。

 本当に純粋に――予想以上の現実感に、圧倒されたのですよね。


 ……景色としては、ところどころに薄く蒼色を放つ小石が転がる地面に、真っ黒な樹々が立ち並ぶ、明らかに現実世界にはあり得ないうっそうとした森でしたけれど。


 それでも、頬を撫でる風の感覚までリアルなゲーム世界に、たしかに感動をおぼえたのです。


 あの日から――はやくも、十六日が過ぎたのですね。



「さてさて。今日も今日とて、大規模戦闘を楽しみましょうか」


 フッと、普段以上に口角を上げると、とたんにこの姿では、艶やかで怪しげな笑みに見えるのだと知ったのは、たしかはじめて宿の部屋で鏡をのぞき込んだ時、でしたか。


 思い立ち、この小部屋にもある大きな鏡を見てみると、キャラクタークリエイト時に設定したとおりの姿は、今日も変わりなく。


 両の側頭部から頭頂部へ向けて伸びる、艶やかな黒い角。

 黒に近い、濃い銀色の長髪。

 微笑むと優しげに見える一方で、無表情だと冷ややかに見えると言われてしまう、綺麗系の美貌。

 そこにそろう、瞳孔が縦に割れた紫の瞳。

 スラリとした長身で姿勢よく立つ、魔人族が一種族、シャイターン族の青年。


 ――今日もこの姿は、変わらず私のお気に入りにふさわしい、美しさですね。

 ついにっこりと笑みを深めてしまいますが、これからのことを忘れてはいけません。


 足早にキャラバンのクラン部屋にある個室から出て、広間へと出ると、すでに私の大切なお仲間のみなさんが、今か今かと瞳を輝かせて……これは、少々お待たせしてしまったようで。


「リーダー、おそい」

「もう待ちきれず、うっかり先に参戦ボタンを押してしまうところでしたわ、リーダー?」

「これはこれは、失礼しました」

「リーダーは~、こ~んな時でも~、あやし~い!」

「さすがに怪しさは、あなたのほうが一枚上手だと思いますよ?」


 叱責と催促の声を甘んじて受け入れると、今となってはもうお約束のように飛んできた言葉に、微笑みながら応えるこの流れにも、慣れたものです。


 もともと、物腰柔らかな振る舞いを心がけていた結果、なぜか少し怪しげに見えると言われてしまい、以来もうこれはこれで面白いのでよしにしたのですよね。


「みなさん、もう準備はできていますね?」


 謝罪と軽いいつものやり取りの後、そうみなさんに問いかけると、すぐに十数人から言葉やうなずきにて、準備完了の旨が返され、応じて私も穏やかにうなずいてみせます。

 リーダーの風格は、大切にしたいですからね。


「それではさっそく――紳士淑女のみなさまがた。再び戦いを楽しみましょう」


 いささか芝居がかった私の言葉に返された、多くの肯定の声と共に、それぞれが目の前に出していた石盤の参戦ボタンを押して――浮遊大地へ。



 開いた紫の瞳に映る魔物の群れに、口角を上げて、即座に指示を飛ばしながら。

 ――この大規模戦闘というイベントの後ろ側には、いったいどのような【シードリアテイル】としての物語が隠されているのかと、つい考えてしまいます。


 好奇心旺盛な研究者気質だとは自覚しているので、普段は自重することも多いのですが……。

 今回のイベントのように、公式からお出しされたものくらいは、深掘りを進めたいものです。


 それはそれとして。

 今ちょうど真横に、以前から興味を持っていた人物がいるという幸運に、まずは感謝を。


 鮮やかな白い光が魔物たちをのみこみ、一瞬で消し去った後。

 さらに次々と放つ魔法で、群れる数を的確に減らしていく鮮やかな戦闘には、迷いも不安もまったく見えません。


「素晴らしいですね」


 思わず零した呟きは、さいわいにもお仲間の誰にも聞かれていなかったようで。

 内心ほっとしながら、改めてちらちらと、左隣で戦うエルフのプレイヤーさんの観察を、続行。


 金色から薄い色へと変わる、グラデーションのかかった長い髪をゆらし、美しく戦う強者たるあの姿を見て、彼が攻略系プレイヤーではないという真実に気づくことができる人は、かなり少ないでしょう。


 私とて、事前に彼のことを攻略系プレイヤーたちの世迷言板で、情報として知っていなければ、きっと勘違いしてしまっていたはずです。


 ――彼こそが、有名なあの精霊の先駆者、そして噂のシードリアの魔導師。

 たしかお名前は……ロストシードさん、でしたか。


 少しずつ、しかし確実に奥へと進んで行く姿を観察しながら、改めて攻略系以外にも、存外戦えるプレイヤーがいるものだと、つい感心してしまいます。

 しかし同時に、残念さも胸に湧き上がるのは……無理もない、というものでしょう。


 もし私のキャラバンに、魔人族の攻略系限定、という制限がなければ……あるいは、彼が魔人族であれば。

 ぜひとも、キャラバンにお誘いしたかったのですから。


 何にせよ、今回は本当に幸運でした。

 その事実は、ゆらぎません。

 まさか大規模戦闘中に、彼の戦う姿を見ることができるとは、予想さえしていませんでしたから。


 そして何より、先駆者で魔導師ではあっても、攻略系ではない彼が……特効攻撃である浄化魔法を使っている場面を、見ることまでできてしまいましたからね。


 これでまた一つ、彼の強さの謎が、私の中で増えました。

 本当に――興味深い人ですね。




※次回は、

・十六日目のつづきのお話

を投稿します。

引き続き、お楽しみください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔人族攻略系キャラバンのリーダーに認知されているロストシードさん…!多くの方の関心を集めている証拠ですね〜( *´艸`) そして魔人族ながら綺麗系なこの方のビジュアルも、魔性の魅力を放っていそうでとて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ