三百八十四話 幕間四十 鮮やかな強者たる姿を見せる彼
※主人公とは別のプレイヤー視点です。
※戦闘描写あり!
最新の没入ゲーム【シードリアテイル】。
五感体験をも楽しむことが可能と謳うのなら、非常に自由度の高い遊びかたが実現されているに違いない……!
そう、サービス開始前にも多くのプレイヤー予備軍のみなさんに、予想されていたこのゲームを、サービス開始初日からはじめてみると。
「いやはや……これはこれは。
……予想以上の現実感、ですね」
はじまりの地を見回し、思わずそう艶やかなテノールの声で呟きを零したことを、つい昨日のことのように思い出します。
本当に純粋に――予想以上の現実感に、圧倒されたのですよね。
……景色としては、ところどころに薄く蒼色を放つ小石が転がる地面に、真っ黒な樹々が立ち並ぶ、明らかに現実世界にはあり得ないうっそうとした森でしたけれど。
それでも、頬を撫でる風の感覚までリアルなゲーム世界に、たしかに感動をおぼえたのです。
あの日から――はやくも、十六日が過ぎたのですね。
「さてさて。今日も今日とて、大規模戦闘を楽しみましょうか」
フッと、普段以上に口角を上げると、とたんにこの姿では、艶やかで怪しげな笑みに見えるのだと知ったのは、たしかはじめて宿の部屋で鏡をのぞき込んだ時、でしたか。
思い立ち、この小部屋にもある大きな鏡を見てみると、キャラクタークリエイト時に設定したとおりの姿は、今日も変わりなく。
両の側頭部から頭頂部へ向けて伸びる、艶やかな黒い角。
黒に近い、濃い銀色の長髪。
微笑むと優しげに見える一方で、無表情だと冷ややかに見えると言われてしまう、綺麗系の美貌。
そこにそろう、瞳孔が縦に割れた紫の瞳。
スラリとした長身で姿勢よく立つ、魔人族が一種族、シャイターン族の青年。
――今日もこの姿は、変わらず私のお気に入りにふさわしい、美しさですね。
ついにっこりと笑みを深めてしまいますが、これからのことを忘れてはいけません。
足早にキャラバンのクラン部屋にある個室から出て、広間へと出ると、すでに私の大切なお仲間のみなさんが、今か今かと瞳を輝かせて……これは、少々お待たせしてしまったようで。
「リーダー、おそい」
「もう待ちきれず、うっかり先に参戦ボタンを押してしまうところでしたわ、リーダー?」
「これはこれは、失礼しました」
「リーダーは~、こ~んな時でも~、あやし~い!」
「さすがに怪しさは、あなたのほうが一枚上手だと思いますよ?」
叱責と催促の声を甘んじて受け入れると、今となってはもうお約束のように飛んできた言葉に、微笑みながら応えるこの流れにも、慣れたものです。
もともと、物腰柔らかな振る舞いを心がけていた結果、なぜか少し怪しげに見えると言われてしまい、以来もうこれはこれで面白いのでよしにしたのですよね。
「みなさん、もう準備はできていますね?」
謝罪と軽いいつものやり取りの後、そうみなさんに問いかけると、すぐに十数人から言葉やうなずきにて、準備完了の旨が返され、応じて私も穏やかにうなずいてみせます。
リーダーの風格は、大切にしたいですからね。
「それではさっそく――紳士淑女のみなさまがた。再び戦いを楽しみましょう」
いささか芝居がかった私の言葉に返された、多くの肯定の声と共に、それぞれが目の前に出していた石盤の参戦ボタンを押して――浮遊大地へ。
開いた紫の瞳に映る魔物の群れに、口角を上げて、即座に指示を飛ばしながら。
――この大規模戦闘というイベントの後ろ側には、いったいどのような【シードリアテイル】としての物語が隠されているのかと、つい考えてしまいます。
好奇心旺盛な研究者気質だとは自覚しているので、普段は自重することも多いのですが……。
今回のイベントのように、公式からお出しされたものくらいは、深掘りを進めたいものです。
それはそれとして。
今ちょうど真横に、以前から興味を持っていた人物がいるという幸運に、まずは感謝を。
鮮やかな白い光が魔物たちをのみこみ、一瞬で消し去った後。
さらに次々と放つ魔法で、群れる数を的確に減らしていく鮮やかな戦闘には、迷いも不安もまったく見えません。
「素晴らしいですね」
思わず零した呟きは、さいわいにもお仲間の誰にも聞かれていなかったようで。
内心ほっとしながら、改めてちらちらと、左隣で戦うエルフのプレイヤーさんの観察を、続行。
金色から薄い色へと変わる、グラデーションのかかった長い髪をゆらし、美しく戦う強者たるあの姿を見て、彼が攻略系プレイヤーではないという真実に気づくことができる人は、かなり少ないでしょう。
私とて、事前に彼のことを攻略系プレイヤーたちの世迷言板で、情報として知っていなければ、きっと勘違いしてしまっていたはずです。
――彼こそが、有名なあの精霊の先駆者、そして噂のシードリアの魔導師。
たしかお名前は……ロストシードさん、でしたか。
少しずつ、しかし確実に奥へと進んで行く姿を観察しながら、改めて攻略系以外にも、存外戦えるプレイヤーがいるものだと、つい感心してしまいます。
しかし同時に、残念さも胸に湧き上がるのは……無理もない、というものでしょう。
もし私のキャラバンに、魔人族の攻略系限定、という制限がなければ……あるいは、彼が魔人族であれば。
ぜひとも、キャラバンにお誘いしたかったのですから。
何にせよ、今回は本当に幸運でした。
その事実は、ゆらぎません。
まさか大規模戦闘中に、彼の戦う姿を見ることができるとは、予想さえしていませんでしたから。
そして何より、先駆者で魔導師ではあっても、攻略系ではない彼が……特効攻撃である浄化魔法を使っている場面を、見ることまでできてしまいましたからね。
これでまた一つ、彼の強さの謎が、私の中で増えました。
本当に――興味深い人ですね。
※次回は、
・十六日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




