三百八十三話 【ユグドラシルのお茶会】の状態確認
優しいナノさんの、刺繡入り防風マントをしっかりとカバンにしまい込み、ほくほくの笑顔になったのち。
おとずれた昼の時間を区切りとして、【紡ぎ人】のみなさんとあいさつを交わし、クラン部屋から外へと出た。
細い通路から大通り、そして中央の噴水広場へと戻ってきたところで、お次はと蒼い光を灯すワープポルタを見やり、小さな四色の精霊さんたちへと方針を紡ぐ。
「お次は、サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんのところにも、行ってみましょうか」
『わぁ~~い!!!!』
精霊さんたちの嬉しげな声に微笑み、ワープポルタを使って――パルの街へ、転送!
ざわっと満ちたにぎやかさに、閉じていた緑の瞳を開き見やった大通りは、以前よりもまたさらに多くの人々が行き交っているように見えた。
転送場所である最初の噴水広場でさえ、集合場所として活用されているためか、ずいぶん人が集っている。
ぶつからないように、と注意しながら広場と大通りを進み、何とか無事にたどり着いたサロンのクラン部屋が中にある建物へ入ると、ほっと吐息をつく。
穏やかな静けさを宿す建物の中を少し歩き、見つけたクラン部屋の扉を、ゆっくりと開いた。
「あっ! ロストシードおにいさま!」
「あら! ごきげんよう、ロストシード!」
「やぁ、麗しのロストシード。タイミングが良いね」
「お~~! ロスト兄! おれたちちょうど今、浮遊大地から帰ってきたんだ!」
「ごきげんよう、兄君」
「こんにちは! ロストシードさん!」
部屋の中、広い机にあわせて置かれた椅子に腰かけていたみなさんが、それぞれ嬉しげに声をかけてくださる。
それにふわりと微笑みをうかべ、まずはと優雅にエルフ式の一礼をおこなう。
「ごきげんよう、みなさん」
『ごきげんよう~~!!!!』
私と小さな四色の精霊さんたちのあいさつに、みなさんの表情が華やぐのを見ながら、シルラスさんの左隣の席に着いて、問いかけを紡いだ。
「みなさんはさきほどまで、浮遊大地で戦いを?」
「あぁ! ステラちゃんが大活躍だったんだ! シル兄も、おれたちよりずっと奥で戦ってて、すっげぇかっこよかった!」
「あのねあのね! みんな、いっぱいたたかったの!」
「それはそれは……! みなさんのご活躍が、目にうかびますよ」
私の問いかけに、すぐさま碧の瞳を輝かせて答えてくれるルン君と、白に近いほど淡い水色の瞳を煌かせて、一生懸命にみなさんの勇姿を伝えようとしてくださるステラさんに、ついこちらも満面の笑顔でうなずきを返す。
「本当に、華麗で苛烈な戦いでしたわ!!!」
「うん。華麗だったかはともかくとして……みんなよく戦ったと思う。
今はちょうど、休憩をはじめたところだったから、ロストシードもゆっくりしていくと良いよ」
「えぇ、ありがとうございます」
今日も今日とて華やかで明るいフローラお嬢様と、上品でかっこいいロゼさんにもうなずきと感謝を返しつつ。
ロゼさんにしっかりとメッセージのお礼を伝えてから、本題をそっと問いかけてみる。
――実は昨日からずっと、【ユグドラシルのお茶会】のみなさんの様子も、気になっていたのだ!
「こうしてお話を聴く限りでは、みなさんも今回の公式イベントを、楽しむことが出来ているようで、良かったです。
大規模戦闘への参戦時にも、何かお困りのことなどはありませんか?」
そう問いかけた私に、みなさんはそれぞれの思いを語ってくださる。
「そうですわね! 最初はさすがに、あまりにも美しさのない場所に、驚きましたわ!」
「たしかに、みんな昨日は魔物の数の多さに、驚いていたかな」
「プレイヤーの数もすごかったからな~!」
「はじめは、戸惑うこともありましたけど……でも、今日は慣れて、わたしもみなさんも、自分らしく戦えるようになってきたと、思います!」
「うんっ! 星魔法も、だいかつやく? だよ!」
「私は、兄君の想像通りだとは思うが、今日も攻略系の近くで戦い、戦法を学ばせてもらった」
なるほど、とさまざまな納得にうなずきながら、すぐさま感心を宿した声音で言葉を返す。
「――そうでしたか!
たしかに、魔物の数も参戦者の数も多く、私も最初は驚きました。
しかし、すぐに慣れて華麗に戦うことが出来るのは、さすがはみなさんです!
ステラさんも星魔法を、上手くお使いになられているようで……!
シルラスさんも、攻略系のかたがたの戦いかたを学ぶ、良い機会になさっているのですね!」
とたんに、どこか得意気な雰囲気が満ちた部屋の中、内心でみなさんの順応力を称えていると、「ロストシードは?」と短くロゼさんにたずねられる。
それに、私は問題なく戦闘を楽しみながら、今は奥の戦場への挑戦を目指している、と答えると、一瞬何事かを考えるそぶりをしたロゼさんが、フッとかっこいい笑みをうかべて口を開いた。
「残念ながら、僕たちでは君やシルラスが戦う場所には行けないけれど……それとは別に。
ロストシードとシルラスがよければ、夕食後、一時間だけみんなで一緒に同じ場所で戦うと言うのは、どうかな?」
ゆるく首をかしげながらたずねるロゼさんに、思わずシルラスさんと一度顔を見合わせたのち――二人そろって、ぜひ、と迷わず答える。
「よし、決まりだ」
そうかっこよく低い声音で呟いたロゼさんの言葉を、他のみなさんが理解した瞬間。
わっ!! と、クラン部屋に歓声が上がった!
みなさんの喜びに満ちた表情を見つめ、自然とまた顔を見合わせたシルラスさんと、そろって小さく微笑む。
せっかくこうして、一つのサロンのメンバーとして集まっているのだから。
共にイベントを楽しむ時間をつくることも――醍醐味、というものだろう!
そうして、上がった歓声が落ち着いた後は、戦場での立ち位置やそれぞれの魔法の使いかたなどを語り合い。
夕食後に、またこのクラン部屋に集合することが決まるのを合図にして、一足お先にとクラン部屋を後にする。
忘れてはいけない、神殿でのお祈りをするためにと、大通りを歩きながら、小さな四色の精霊さんたちへと紡いだ。
「この後は、また一度空に帰りますが、サロンのみなさんとのお約束もありますから、すぐに戻ってまいりますね」
『うんっ!!!! ぼくたちいいこでまってる~~!!!!』
「ふふっ! えぇ。少しだけ、待っていてください」
『はぁ~~いっ!!!!』
可愛らしい精霊さんたちに癒されながら、神殿で神々にしっかりと《祈り》を捧げ、再び神殿の宿部屋をお借りして、小部屋に踏み入る。
まだ眩い昼の陽光が射し込む窓の先を見やり、緑の瞳を細めた後。
各種魔法を解除して、小さな多色と水の精霊さんたちを見送り、ベッドへと横になって――夕食のためにと、ログアウトを呟いた。
※次回は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。




