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【PV・文字数 100万越え!】マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記  作者: 明星ユウ
一章 はじまりの地は楽しい誘惑に満ちている
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三十七話 銀の腕輪は輝きて

 



『それでは! まずは下級のスキルをおぼえるためにも、装飾品をつくるために必要な基礎の知識を、ロストシードにおしえます!』

「はい、よろしくお願いいたします」

『わ~い!』

『おべんきょう~!』

『おはなしきくよ~!』


 隣の作業部屋へと場所を移し、艶やかに磨かれた机の前にて、リリー師匠の講義がはじまった。

 はじめに、目の前に蔓でつくられた箱が四つ置かれる。

 箱の中には、蒼い遊色がゆらめく艶消しの灰色めいた魔導晶石と、色とりどりの魔石、銀色や金色や白の石のようなものと、煌びやかな宝石があった。

 その内、石のようなものと宝石が入った箱を示しながら、リリー師匠は言葉を紡ぐ。


『装飾品をつくるためには、魔導晶石と魔石、そしてこの金属や宝石がひつようなの! この金属や宝石を、魔導晶石とまぜあわせて、魔石の魔力をとおす装飾にしあげることが、細工の一番目にたいせつなことよ! 二番目は、魔石を魔力でみがいて、効果をたかめること!』

「ほう、なるほど……」


 うなずく私に、リリー師匠は箱の中から石のようなもの……金属だったらしいそれらを一つ一つ取り出して、名前を教えてくれる。

 銀や金、水晶や白石、黒石、灰色の軟石とよばれるもの。

 それぞれ、銀は風、金は火、水晶は水、白石は光、黒石は闇、軟石は土の属性の魔石や魔法と相性がいいとのこと。

 これらを魔導晶石とまぜあわせることで、魔力をとおす状態にする、ということらしい。それは隣の箱にある宝石も同じ。


『魔導晶石と金属や宝石たちは、うまくまぜないと魔力のとおりが悪くなって、魔石が魔力をだせなくなるから、まずはこれをれんしゅうしてみましょう!』

「はい、リリー師匠」

『ロストシードは腕輪の原型に、どの金属をまぜたい?』


 問いかけに、少しだけ考えて銀を選ぶ。


「銀にします。風の魔石を飾りたいと考えていまして、相性も良いかと」

『まぁ! さすがロストシードね! もう魔石との相性までかんがえているなんて! なら、銀で練習しましょう!』

「えぇ」


 楽しげにうながされ、練習用にと小さな魔導晶石と銀を手渡される。

 これをしっかり細かなところまで混ぜ合わせなければならない。

 さっそく、スキルの《魔力放出》と《微細魔力操作》を駆使して挑戦してみる。

 まずは魔導晶石のほうに魔力をとおし、以前と同じように水のようなやわらかさにした後、指先についてくる魔導晶石を小石のような銀にまとわせてみた。

 すると、この魔導晶石が溶け込むように銀へと沈み入った様子が見え、これがより細かく均等に溶け合うことをイメージしてみる。

 混ぜ合わせた魔導晶石の蒼の遊色が完全に消え、魔力をとおした魔導晶石と同じくらいやわらかな、艶やかに煌く銀色の塊になった瞬間――しゃらん、と綺麗な効果音が鳴り、同時にリリー師匠の感嘆の声が響いた。


『まぁ!! なんてキレイなしあがりなの! すごいわロストシード!!』

「ありがとうございます、リリー師匠」

『しーどりあ、すご~い!』


 つづく三色の精霊さんたちの褒め言葉にも頬をゆるませながら、空中にうかぶ文字を見やると、そこには[《精密魔力操作》]と刻まれている。

 素早く開いたステータスボードで確認をすると、いわく[魔力操作の一つで、《微細魔力操作》の繊細な魔力操作に加え、広く深く精緻な魔力操作を可能とする。能動型スキル]とのこと。

 これまた思わぬ拾い物だ。

 ゆるむ口元をひきしめる前に、次はと澄んだ銀色の風の魔石と、片刃のナイフを手渡される。

 同じように二つをもったリリー師匠が、魔石をナイフで削り小さく丸い形に整える様子を見せてくれた。

 その後に、シルクのように艶やかな真白の布で、小さく丸く整えられた魔石に魔力をとおしながら磨いていく。すると、やがて魔石はその色合いを煌かせ、まるで宝石のような美しさを宿した。


『これが、魔石の磨き方よ!』

「とても美しく仕上がるのですね」

『そうなの! ぴかぴかにしあげてね!』

「お任せください」


 うなずき、手に持っていた風の魔石をナイフで削ってみると、元々習得している初級の細工スキルのおかげか、予想よりも簡単に形を整えることができ、思わず胸中で感動する。

 小さく丸くなった魔石を、ゆっくりと魔力をとおしながら真白の布で磨いていくと、魔石はやがて煌きを増していき……リリー師匠の磨いたものほどではなくとも、十分に美しく見えるほどに仕上げると、パチパチパチと拍手が起こった。

 次いで、再びしゃらんと効果音が鳴る。


『じょうずよロストシード! はじめての練習でここまでできるなんて、あたしはあなたの師匠になれて、とっても幸せ!』

「ありがとうございます。私もリリー師匠の弟子として迎え入れていただき、本当に嬉しく思います」

『えへへ~!』


 てれてれとほんのり赤くなった頬に両手をあて、左右に身体をゆらす小さな師匠と出逢えたことは、間違いなく私にとって僥倖だった。

 空中から私の身体へととけ入る、新しく習得したスキルは《細工技術 下級》。

 再度石盤を出して流し見た説明文に、習得しなければならないと話していたリリー師匠の言葉を思い出して納得する。

 刻まれた説明文には、[細工技術において、素材を混ぜ合わせる、形を整える、磨くなどの技術の習熟度の向上および、洗練さに磨きがかかる。常時発動型スキル]とあり、これこそが装飾品を制作するために必須なスキルだったのだろう。

 これで、いよいよ本格的に以前魔導晶石でつくった腕輪の原型を装飾品に仕上げる準備が最低限整った。

 ――しかしここで一つ、個人的に一作目をつくるにあたって必要な知識がまだ足りていないと思い至る。

 そっと蒼き瞳に自らの緑の瞳を向け、少しの緊張を感じながらリリー師匠へと問う。


「リリー師匠。純性魔石は、こちらにありますか?」

『純性魔石? えっと、ここにはないけど……』


 こてんと首をかしげたリリー師匠が、おもむろに片手をかかげ、それを握りしめる。

 小さな掌の内が蒼く光った後、開かれたその手には小石のような純性魔石が乗っていた。

 思わず、驚きのあまり無言でまじまじとリリー師匠の掌の上を見つめてしまう。

 驚愕に固まっている私へ、リリー師匠はにこっと笑いながら説明をしてくれた。


『純性魔石は、天然のものもあるけど、あたしたちみたいな技術者はみんなじぶんでつくるの! だした魔力を、ぎゅ~って固めるのよ!』

『ぎゅ~!』

『ぎゅっぎゅ!』

『まりょくかためる!』

「そうだったのですね……」


 つづいた精霊のみなさんの言葉と合わせ、物は試しと右手をかかげて握り込み、イメージをしてみる。

 《魔力放出》で掌の上に出現させた魔力を、固形になるまで押し込み重ね合わせ、ぎゅうっと固めて……。

 そう想像をしていると、唐突に掌の中に固形物の感触が生まれ、三度目の綺麗な効果音が鳴る。

 集中するために閉じていた瞳を開き、空中にうかぶ[《魔力凝固》]と書かれた文字を見やった後、そろりと握りしめた掌をほどくと、そこには蒼く澄んだ小さな純性魔石が無事に完成していた。


『まぁ~! キレイにできてるわ、ロストシード!』

『できた~!』

『まりょくだけのませきだ~!』

『まりょくいっぱい!』

「良かった、無事につくることができたようですね」


 ほっと胸をなでおろし、石盤から《魔力凝固》について調べると、なんともそのままな[魔力を凝縮し、固形化して純性魔石にする。能動型スキル]という説明文が。

 いや……分かりやすいことは、良いことだ。

 気を取り直して、改めてリリー師匠へと向き直る。

 自然と引きしまった表情で、私の考えを紡ぐ。


「リリー師匠。師匠の装飾品を拝見しつつ、私なりに今の私がつくることができる装飾品の形を考えてみまして……風の魔石と、この純性魔石の両方を使って仕上げたいと思うのですが……」


 果たしてこの組み合わせで装飾品ができあがるのか。

 そもそも師匠はよしと言ってくれるのか。

 やや穏やかではない胸中のままにそう語ると、ぱちりと蒼い瞳をまたたいた後、リリー師匠は実に晴れやかな笑顔を咲かせた。


『あたしはすっごくいいと思う!! ためしてみましょ、ロストシード!』

「あ、ありがとうございます、リリー師匠!」


 眩い笑顔で発せられた快い返事に、一瞬で高揚感が満ちる。

 二人そろって笑顔のまま、リリー師匠の指導のもと純性魔石を二つに分け、小さな丸い形に整えて磨く。

 風の魔石も純性魔石も、魔導晶石と銀を混ぜ合わせて形を整えた装飾品の原型を完成させたそののち、綺麗にはめこむことで風の魔法の効果を高める装飾品が完成するのだと、リリー師匠が説明してくれる。

 後は――作るだけだとも。


 深呼吸を一つ。

 しっかりと集中してから、右腰のカバンから魔導晶石の輪を取り出す。

 そして、銀の塊をそわせてしっかり混ぜ合わせていきながら、細い糸を編み込むように腕輪を編んでいく。

 一本一本、絡み合わせ、ゆっくりじっくり編み進めていくと、やがて銀に煌くミサンガのような腕輪が出来上がった。

 色とりどりの色合いこそないが、模様はまさしくミサンガや編み込まれた織物をイメージしたかいがあり、繊細な飾りの形を成している。

 ここへ、磨いた銀の小さな丸い魔石に魔力をとおしながらはめ込み、さらに両脇に蒼く煌めく小さな丸い純性魔石をはめこめば――私がつくる一作目の装飾品の、完成だ!

 とたんに、拍手と喝采が響いた。


『まぁ~~!!! すっごくキレイ! さっすがあたしの弟子ね!!』

『しーどりあすご~い!』

『かんせ~い!』

『きれい~!』


 我がことのように喜びにあふれるリリー師匠と三色の精霊のみなさんを見つめながら、ほぅ、と吐息をつく。

 改めて視線を注いだ銀の腕輪は、我ながら見事な仕上がりで、自然と頬がゆるみ満足気な笑みが零れたのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 照れるリリー師匠の仕草が可愛かったです〜っ(*´ω`*) そして純性魔石とはその様な物だったんですね。 ロストシードさんの初めての装飾品…見事完成ですね✨何だかとんでもない代物になっていそ…
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