三百七十五話 昇華の成功と嬉しい声かけ
情報収集を終えて書館から出ると、昼の陽光を降り注がせる快晴の空を見上げる。
現実世界の時間では、そろそろ昼食の時間が近づいて来ているが……ログアウトの前に、神殿へお祈りをしに行こう!
ちょうど――試してみたいこともある。
「みなさん。お次は神殿へまいりましょう」
『はぁ~~いっ!!!!』
小さな四色の精霊さんたちの、元気いっぱいな返事に笑みを零し、靴音を鳴らして石畳の道を進んで行く。
よりにぎやかさを増した人波を、優雅によけて神殿へとたどり着くと、久しぶりにエルフの神官エルランシュカさんと微笑みを交し合い、精霊神様のお祈り部屋に入り込む。
長椅子に腰かけて、両手を組み、《祈り》を発動。
そうして、まずはいつものお祈りをした後――本題のお試しをはじめる。
今回、試してみたいと思っていたことは、他でもない。
大規模戦闘にて多用し、それより前からすでに使う回数を増やしていた〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉。
そろそろこの魔法を、他の古いオリジナル魔法と同じく、昇華一にすることができないか、試したかったのだ!
深呼吸を一つ。
集中をして、より素早く、より強くを意識し、〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉を放った――次の瞬間。
しゃらん、と美しい効果音が響き、眼前に光る文字が現れた!
[〈オリジナル:昇華一:風をまとう石杭の刺突〉]
思わず、満面の笑みになったことを自覚する。
ついに〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉を、昇華できた!
『しーどりあ、よろこんでる!』
『にこにこしてる~!』
『きらきらもしてる~!』
『よかったね、しーどりあ!』
「ふふっ! みなさんには、お見通しですね。
お察しのとおり、ようやく古きオリジナル魔法を、昇華一に上げることができて、とても嬉しいのです!」
『わぁ~!!!! ぼくたちもうれしい~~っ!!!!』
すっかり私の感情の起伏を熟知した小さな四色の精霊さんたちが、嬉しそうに舞う姿を見つめた後、灰色の石盤を開いて新しく習得した魔法の、説明文を読み上げる。
「[〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉の昇華一。無詠唱で発動させた、小範囲型のオリジナル攻撃系複合下級風兼土魔法。発動者の近くに回旋する硬い石の杭を三つ出現させ(一段階)、複数の敵により素早く飛来し強く突き刺さる(二段階)。二段階の魔法操作が可能。無詠唱でのみ発動する]。
――以前の古きオリジナル魔法たちと、同じ形の昇華と言う認識で、問題ないようですね」
問題なく、あっという間に叶った昇華一の習得に、満足して深く微笑む。
さっそく精霊神様へと、一連の出来事のご報告と感謝の念をお伝えし、次いでそろそろ天神様のお祈り部屋へ移動するためにと、長椅子から立ち上がったところで――ポンッと、可愛らしい効果音が鳴った。
「おや? この音はたしか、メッセージが届いた音……でしたね」
効果音の種類を思い出し、呟きながらサッと素早く石盤を開く。
予想通り、石盤には辻ヒールの件でフレンドになった、アネモスさんからのメッセージが届いていた。
ふよっと石盤に近寄って来た、四色の精霊さんたちと一緒に、メッセージを読む。
[こんにちは、ロストシード!
もしこのあと暇があれば、昼の食事をすませてから、一緒にラファール高山でレベル上げをしたいのだけど、どうかな?
もちろん、ウルもテトも一緒に]
[こんにちは、アネモスさん! ぜひご一緒させてください!]
――ついうっかり、即答してしまった。
いや、何も問題はないのだけれど。
[良かった!! なら十三時頃に、トリアの街の石門に集合しよう!]
[承知いたしました!]
つづくメッセージにもすぐさま返信を送るていどには、正直なところとてもタイミングの好いお声がけをいただけたと思う。
理由は、主に二つ。
一つ目は、大規模戦闘で実力不足を痛感したため、レベル上げには大賛成という点。
二つ目は、テトさんが今朝送ってくださっていた、ネタバレ込みメッセージのお礼を、直接お伝えする好い機会だから、だ。
大前提をつけ加えるのならば、またお三方とパーティー戦を楽しむことができる、ということそのものが、たいへん魅力的で嬉しいことなので、快諾するのも当然と言うもの。
ふわりと口元がほころぶのを自覚しつつ、石盤を消して、小さな四色の精霊さんたちへと紡ぐ。
「この後、一度空へ帰り、またこちらへと戻ってきた後は、アネモスさん、ウルさん、テトさんのお三方とご一緒に、ラファール高山でレベル上げを楽しみましょう!」
『うんっ!!!! たのしむ~~っ!!!!』
くるっと綺麗な一回転を見せてくださる、四色のみなさんに笑顔を返し、今度こそ精霊神様のお祈り部屋から出て、天神様、魔神様、獣神様に技神様、としっかり他の神々へもお祈りを捧げたのち。
今度は、このパルの街の神殿の宿部屋で休むことにして、二階へとのぼり宿部屋へと入り、ログアウトの準備を整えていく。
各種魔法を解除して、小さな多色と水の精霊さんたちを見送り、ベッドへと横になると、胸元へと降り立った小さな四色の精霊さんたちを指先で撫で――そっと、ログアウトをつぶやいた。
※次回は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。




